091:命（笹井宏之）

雨のあさ命拾いにゆくひとへしっかりとしたかごを持たせる

090:質問（笹井宏之）

やむをえず私は春の質問としてみずうみへ素足をひたす

089:こころ（笹井宏之）

こころからひとを愛してしまった、と触角をふるわせるおとうと

088:暗（笹井宏之）

暗くなるまえにあなたの氷山を打ち砕かねばならないのです

087:テープ（笹井宏之）

あめいろの空をはがれてゆく雲にかすかに匂うセロファンテープ

086:石（笹井宏之）再投稿

くちびるのふるえはたぶん宝石をくわえて旅をしていたからだ

085:きざし（笹井宏之）

崩落のきざしは淡くテーブルに、くだものかごが巨峰をこばむ

084:退屈（笹井宏之）

退屈の波打つゆうべ　スカーフはあなたの首をはなれて海へ

083:筒（笹井宏之）

ひとびとが夢をわだちをたどるころ茶筒のふたをゆっくりと抜く

082:サイレン（笹井宏之）

ひとひとり救えないこの夕ぐれに響け　サウンド・オブ・サイレンス