徒然草庵 (別館)

人、木石にあらねば時にとりて物に感ずる事無きに非ず。
旅・舞台・ドラマ・映画・コンサート等の記録と感想がメインです。

9days Queen 九日間の女王(初日感想)

2014年02月27日 | 舞台
2014年2月26日
『9days Queen 九日間の女王』初日終了! 


今日だけの感想だと、かなり手厳しいよっ!と予告しておきます。
それは期待の高さゆえ。

でも、これだけは断言します。
手厳しい=面白くない、ではありません。
むしろ「もっと変わるよね」の期待と予感!?
 ←愛ゆえに!

凝った舞台なだけに役者たちの動きがこなれてくればもっと面白いはず。
そして「今はまだバラバラの個性の集まり」なカンパニーが、この先3週間で絶妙~に美味しく融合して、めくるめく善悪や好悪のカクテルソースになってメインのふたりを彩ってくれることと期待。もちろんメインこと物語の軸であるジェーンさま、アスカム先生のお芝居の熟成度合い、絡み具合も楽しみでなりません。


舞台は生モノ。
たったいま開けたばかりのワインが「美味しくない」などという愚は犯したくありません。
むしろ大いに花開く可能性を秘めています。それが楽しみになった初日でもありました。

観に行かれる皆様、どうぞお楽しみに!



☆ ☆ ☆ 以下、ネタバレあり ☆ ☆ ☆


≪キャスト≫  (敬称略)
ジェーン・グレイ  堀北真希
ロジャー・アスカム  上川隆也

メアリー王女(→メアリー1世) 田畑智子
エリザベス(→エリザベス1世) 江口のりこ
エドワード6世  浅利陽介
ヘンリー8世王妃キャサリン・パー  朴璐美

ウォリック伯爵(→ノーザンバランド公爵)ジョン・ダドリー  田山涼成
ギルフォード・ダドリー  成河
ドーセット侯爵(→サフォーク公爵)ヘンリー・グレイ  神保悟志
ドーセット侯爵(→サフォーク公爵)夫人フランシーズ・ブランドン  久世星佳
サマセット公爵エドワード・シーモア  春海四方
海軍卿トマス・シーモア  姜暢雄
乳母エレン  銀粉蝶


≪プロローグ≫
16世紀、ロンドン。その後の英国史を塗り替えたとも後世に評される国王ヘンリー8世の没後、その6人目の王妃にして未亡人キャサリンは継子であるヘンリーの遺児3人――長姉メアリー王女(30)・次姉エリザベス王女(14)・長男エドワード6世(10)――を愛情深く見守りながらチェルシーの館で穏やかな日々を過ごしていた。ある夜、彼女の館で行われたパーティーには亡きヘンリー王の姉の娘フランシーズとその夫ドーセット侯爵、10歳になる娘のジェーンの姿があった。
敬虔で控えめながらも才気に満ちたジェーンを気に入ったキャサリンは、彼女に我が子と同様に上流貴族としての教育を受けさせるべく手元に置きたいと侯爵夫妻に申し入れ、ジェーンの両親も快諾する。その場でジェーンが出会ったのは、王子女の教育係(家庭教師)でありケンブリッジ大学きっての碩学と名高い、ロジャー・アスカム(32)であった。

プラトンの『ファイドン』を原語のギリシャ語で読むというジェーンにアスカムは驚く。それは虜囚の身となったソクラテスの最期の日に、彼が仲間たちと交わした議論、魂と肉体の存在についての問答である。

「貴女は魂の不滅を信じますか?」
「信じ…たい、と思っています。」
「信じたい?それは『本当は信じていない』ということ?」
「いえ、それは今の私にはわかりません…自分が『その時』になってみないと」

短いが、この一連の会話はアスカムとジェーンの間に不思議な魂の共鳴を生む…。

パーティーの場で、摂政サマセット公爵エドワード・シーモア(=エドワード6世の母である故ジェーン・シーモアの兄で、国王の伯父にあたる)の弟、海軍卿トマス・シーモアとの再婚を決めたと発表するキャサリン。かつて恋人同士だったキャサリンとトマスは、ヘンリーがキャサリンを半ば強引に王妃にと求めたため、別れさせられていた過去があった。

エドワード6世も祝福し、人々はキャサリンとトマスの幸福を願って乾杯する。そこに居合わせた中には新興貴族のウォリック伯爵ことジョン・ダドリーの姿もあった。野心に燃えるジョンは摂政サマセット公爵を追い落としエドワード治世下の英国で権勢をふるうことを望み、トマスに近づく。ドーセット侯爵夫妻もまた、テューダー王家の血をひくジェーンをキャサリンの近くに置くことで、さらなる栄達を図れると喜ぶ。事実、この後のドーセット侯爵はサフォーク公爵位をも手に入れ、ジョンはウォリック伯爵からノーザンバランド公爵となり、権力の中枢に君臨していく。

宮廷の中、光があれば影がある。
賑わう宴の中で、ただひとり表情を険しくするメアリーの姿をジェーンは見ていた。
そしてジェーンは気付いていなかったが、彼女を見つめるエリザベスの瞳には冷ややかな光が浮かんでいた――。


注:登場人物の年齢は史実に基づく概算です。完全に正確ではない部分もありますが参考までに併記しました。



≪初日の感想≫
舞台の初日というのは、まだ味のしみてない煮込み料理のようなもので、素材とスープが別物!なところは絶対にあると思います。出演されている皆様の本来のポテンシャル(到達イメージ)からすると、個々の演技レベルは高くとも、アンサンブルとしては50~60点。いや、それ以上にシーンのバラバラ感が目立つのも気になりました。
特に第一幕!アスカム先生はあちこちに(お芝居的な意味で)遠慮しまくってて大人しすぎる。もっとキャラを出したほうが良いのでは、とも。あなたの感情に説得力が足りないと話が成り立たないのだし…。

舞台セットは重厚で高い石壁に囲まれた空間の中、屋敷外壁、部屋の内壁といった入れ子状の構造が三重になってキャストを取り囲んでいます。前方A~E列をつぶして作った広大で高く奥行きのある空間です(白井演出『ヴォ○ツェク』でもやってましたね、この贅沢な舞台設計!)。これだけのセットを入れられる劇場がないから地方公演がないのだろうか?とは友人の談です。役者のハケ口は左右に4ヶ所(扉と舞台袖)、正面奥に1か所(扉)、舞台上に1ヶ所(舞台下への階段)そして最前列下手の目と鼻の先、舞台床下に続く階段。1階の通路から座席後ろの扉、手前扉も使用。役者たちは時に突然、時に静かに、観客に近いところから現れます。私の席はまさに観客席の目の前にある階段近くだったので、非常に生々しい濃密な空気の流れる、舞台と客席のあわいに漂う境界線上のような場所でした。全体を見るには適していませんが、呼吸すら聞き取れるほどの距離という緊張感、なかなか味わえる機会はないかと。

衣装、特にジェーン以外の女性のドレスには和紋でいうところの「流水」に似た印象的なパターンの生地が多く使われていました。色合いも(特にメアリーの赤、エリザベスの灰青色だと)西洋的な鮮やかさというよりは、どこか和の湿度を感じるようなくすみを帯びています。年配の女性たちの衣装はグレーや黒を多く使いながらも地味にならないように燻銀や鬱金色の重厚な光を放つ生地。その中で純白の飾り気の少ないドレスを纏ったジェーンの姿は、そこだけにピンスポットが落ちているようにくっきり際立つようでした。テューダー朝時代の肖像画で多く用いられているレースはあまり使われず(傷みやすいこと、そして色がジェーンのアイコンである白のせいでしょうか?)フリンジで代用しているのも新鮮と言えば新鮮です。

脚本ですが、時代物にありがちな複雑な背景の端折り方は賛否あると思います。ただ主役のジェーン・グレイやヘンリー8世の王女たち(メアリー&エリザベス)と、ストーリーテラーのロジャー・アスカムの「立ち位置」の感覚だけはどうにも…。実は彼女らとアスカムが「ファーストネーム」で呼び合う違和感が、かなり大。(ジェーンから「ロジャー」と呼ぶのはOK。でも、ロジャーの身分ではジェーンに対して名前だけで呼ぶことはちょっとなあ…)細かなポイントですが、これはおかしい…と思う設定上の問題が、最後まで拭えませんでした。

※芝居にそれを越えるパワーがあれば、枝葉末節ま~~~ったく気になりませんがw初日のソロソロ様子見ではそれもできず?



≪初日の印象 キャスト編≫
個人的な好みですが、今日だけ見るとMVPは王女メアリー!(意外性も含めて)素晴らしい!後の二つ名「ブラッディー・メアリー」を想起させる、炎のような紋様の赤いドレス、瞳から放たれる威厳、鋭い鞭のように発せられる通りの良い声、冷たさと傲岸さと誇り高さ、どれもヘンリー8世とスペイン王女キャサリンの娘に相応しい堂々たる姿でした。

ストーリーのおかげで活かされていたと感じたのは、ジェーンの政略結婚相手であるギルフォード・ダドリー。二幕目冒頭のダメっぷりが、危機が迫ることで逆に彼の心の内に秘めた父への反発心、素直な思い、同じような境遇を持つジェーンへの思いやりや愛情に昇華していくまでの無我夢中とでも言うべき鮮烈な演技は、ぐっと観る側の心をひきつけるものがありました。

何ともチャーミングな少年王エドワード6世陛下も、また大人の都合に翻弄される悲しみを滲ませるお芝居だったと思います。体調も顧みずにダンスに熱中したり、ジェーンに「フラれて」しまったり…初々しい少年の面差しを存分に残しつつも、国王としての慧眼を持ち合わせていたゆえに降りかかる悲劇。収監中に聞かされたエドワードの「本当の遺言」の内容に、ジェーンは初めて彼の真意と深い愛情を知ったのではないでしょうか。

ジェーンを支える乳母のエレン夫人。優しく揺らがない愛を持った芯の強い女性。こう言う役が本当によく似合う!「ドレッサー」のオールドミスの劇場監督を思い出しました。常に傍らに寄り添う姿とその安定感のあるお芝居は、単に役柄というだけでなく、ジェーンにとって心から「頼もしい」存在に違いない、と想像。

ブラックバード(謎の存在)。ヒトではなく、ただの鳥でもない。澄んだ声で歌うメロディーは、ただ劇伴音楽という以上に不思議な静謐さで劇場を包み込んで、一種の別世界を作り上げていました。


で。メインのお二人については今日は言及を避けたほうが良いのでしょうか…?(^^;

・純粋で世間知らず、それでも見事に絵になる「お姫さまっぷり」が、申し分なく美しく素敵でした。(ジェーン)
・たぶん通常運転の6割くらい。いわば「無難」。全然こちらの期待値に及ばず。(アスカム先生)

正直に言うと、全体としてはまだまだです。ジェーンがひとり「浮いている」のは、彼女の独特の存在感と周囲の思惑にも汚されない純粋さのなせるわざなのかもしれませんが。特にアスカム先生!これで大丈夫だろうか、という「様子見」っぷりが、客席まで伝わってくるようではいけないのですよ…!ものすごく前の列だったので、ふと目が合った瞬間、眉間にシワの寄っていたであろう私はちょっと困ってしまいました。
もちろん芝居はひとりの力技ではなく、出ている役者さんのお芝居の集合体、アンサンブルなので「悪目立ちしないように」というのもアリかとは思いますが…まだ「馴染んでいない」のです。相変わらず安定していますし、上手いですし、おそらく大きなミスもないと思うのですが、今回それは逆に言うと「平板」で「浮き沈みのない」印象で、どこか「脚本に書かれたロジャーの心の解釈」と「舞台上で存在しているロジャーが抱く想い(解釈)」の乖離?があるような、そんな感触があって、第一幕は全く感情移入(解析)ができませんでした。

家庭教師としてのロジャーは「ジェーンに対するある想いを秘めて」彼女の行く末を見守る役柄とはいえ、その肝心の想いが「伝わってこない」!メアリーに「私たちとあなたとは棲家が違う」と手厳しく諭されても、それでもジェーンを見守りたい、という「熱」がない。むしろロジャーはメアリーの王女らしからぬ決断力や強さに惹かれているのではないか?とすら思うくらい、メアリーとロジャーふたりの絡むシーンの方が、込められた感情の量は多かったと感じたのです。

理由も何となく思いつくような。これは終演後にワイン飲みながら冗談っぽく話していたのですが…(^^)

私 「ロジャーせんせーって、今日の舞台すっごく【遠慮】してなかった?」
友人「してた、してた!(笑)何だか手探り感が。観客の反応も見てたよね~」
私 「ジェーンさまに対する『秘めた想い』って言っても、これは遠慮する相手多いよね。まずエドワードでしょ?ついでギルフォードにも!」
友人「あの二人より大きな存在になっちゃったらエライコトだし!それからジェーンさま中の人にも遠慮してたような…」
私 「ついでに劇場内のたくさんの堀□□希ちゃんファンにも遠慮してたに違いない!(爆)」
友人「それは正しい!でも 空 気 読 み 過 ぎ だよwwwww」

これが的を射ているかどうかは別としてw 第二幕終盤で、それまでずーっと冷静だったアスカム先生が激高せんばかりの勢いでジェーンに「生きてほしい」と迫るシーンに至るまでの、彼の(ジェーンに対する)葛藤が見えなかったのは確かなのです。あの第二幕のクライマックスシーンの熱演も「ホンにそう書いてあるから、その通りに忠実に演じている」のかなあ…とすら思うほど。(「ロジャー、ジェーンに羊皮紙と羽根ペンを差し出す。その手はわなわなと震えている」「ジェーン、静かに、だが決然と拒否する」「ロジャー、激しい口調でジェーンに詰め寄る」とか、そうト書きに書いてあったんじゃないか?と冷静に考えてしまうクセがあるのも考え物です…)

↑ どうせなら第一幕の政略結婚が決まった場面で、泣き崩れるジェーンを抱きとめてあげながら、それまで距離を置いた礼節を保って「貴女は(敬称)」としか呼んでなかったロジャーが、ついに秘めた気持ちを抑えかねて「…ジェーン」と名前を呼んでしまって、ハッと顔を上げる彼女に「失礼いたしました…ジェーンさま」と呟き、悲しげな顔で俯く!くらいの激甘少女漫画展開!!で良かったんじゃないかい?(絶賛妄想中) 

それはさておき!アスカム先生とジェーンさまの「距離の縮め方」は、今後注目して観るべきポイントなのは間違いありません。ここが進化することで、おそらく舞台全体が大きく雰囲気を変えると思うので…。

そして、何より「ホッとした」のは、最後にジェーンが下す決断と、そこに至るシナリオが「理解共感できるもの」であったこと。この部分の物語に寄り添えなければ、私はもうこの舞台を観ることが出来ないだろう、とおそるおそる待っていた結末だったので、安心しました。共感性って(私にとっては)何よりも大事なんですよ…。


ちなみに、次回は1日土曜に参戦予定です。
俯瞰的に観られる席なので、次はきっと何か見えるもの・感じるものも変わっていることと思います。



≪初日カーテンコール・レポート≫
舞台慣れしたバイプレイヤーを観るのが今回の大きな楽しみでもあります。
今日はやはり初日の「ご祝儀」もあり、スタンディングオベーションと3回のカーテンコール。3回目、皆から前に出て挨拶するよう促されたジェーンさまが「ロジャー、助けて!?」と隣のアスカム先生に縋るような目を向けた時、先生は優しく微笑しつつも「聞こえないよ~」とでも言うように「ぷいっw」と背中向けてしまわれました。言葉にはせずとも「ここは貴女が座長なんだから、頑張りなさい」と伝えているような姿に愛情を感じましたv

でも結局、ジェーンさまは最後まで笑顔なれど「完全沈黙」…さすがに他のキャストも少し困った感じになった時に、エドワード陛下が端で盗塁でもするように「ねえねえ、もうハケていい~?」とお茶目な仕種で場の空気を和ませていたのがとても印象的でありました。エドワード陛下と言えば、帽子を大きく振ってのカテコ一礼がとても貴族的で優雅かつ華やかで、劇中の熱演も相まって満座の惜しみない拍手を受けておられました。

おまけ。カテコのラストでジェーンさまは振り向かずクールにハケて行かれましたが、アスカム先生はぴょこっ!と扉の影から半分顔を覗かせて、観客をドッと笑わせておられました。いつもなら胸に手をあて、美しい所作でピシリと一礼するところ。座長でないから遠慮されたのかな…?とも。ああいう(笑)アスカム先生が側にいることで、もともとが才能もあり努力家なジェーンさまは、きっとこの三週間で素敵にメタモルフォーゼされると思いますv


≪余談≫
今回のアスカム先生ビジュアルとたたずまいを動物にたとえると「ウォンバット」!
あのずるっとした(苦笑)灰色のフェルト地プリーツつきガウンのせいか、「もそもそっ」と動きます。決して軽やかではありません。むしろカボチャ帽子も含めた全体的なフォルムが丸っこくて緊張感があまりない!(笑)そして殺陣なし・アクションなし・色気シーンなし・裾バサ捌きなし(*_*) ←上川ファンには残念なことこの上ないw

いや裾バサ捌き…すこ~しだけあると言えばあるが…二幕の最後の方でメアリーに対して跪くシーン、ローブの裾を払う一連の所作の凛とした美しさ。しかし!そこだけ!そこだけなの!!それだけの為に2時間以上待たなくてはいけないの!!!あとはカテコしかないの!!!(爆)ホントにそれでいいんですか、ウォンバット先生!(落ち着けw)

それから…これはお芝居にはあまり関係ないのかもしれませんが(いやいやいや?!)学者だし、ゾロゾロ衣装だし、『渇いた太陽』みたいに胸とか腹とか足をチラ見せするわけじゃないから身体絞らなくていい、と思っていらしたのか?今日の見た目はかなり丸っこかった!のは事実!!ほっぺたプニプニなのは今更ですが、あの胸からお腹のラインは、何か巻いてるんでなければ危険水域一歩手前w『渇いた~』のせいで我が家では【寒鰤】呼ばわりの定着した中のお人、これ以上脂が乗ってどうしますかw 立派な鰤トロ。とほほ。

アスカム先生中の人がカテコで見せた、それまでのもそもそした動きから一転しての律動的な歩調!と軽やかな衣装捌き!に「才能の無駄遣い?」「でも本気になったらアスカム先生無双でロンドン塔突破楽勝だしwww」「いや中の人が本気だったらACTがぶっ飛ぶしなー(違」といろいろ考えてしまいました・・・orz



(おしまい)