ひとりごと

ミーハーなさばきちが、観た映画の感想をテキトーにつぶやいてます。
基本的にレビューはネタバレですのであしからず。

トランスアメリカ

2006年09月11日 | 映画「た」行
性同一障害を抱え、男性だけど女性として生きるブリー。
女性になるための性転換手術を目前に控えたある日、かつて男性だったころに一度だけ関係を持った女性との間に、17歳になる息子がいることが発覚。ひょんなことから、息子トビーと一緒にニューヨークからロサンゼルスまでアメリカ横断の旅に出ることに。

「ある日突然子供の存在を知らされる男」。最近こういうの多いですなあ。
しかし、この親子の場合かなり事情がやっかいだ。
いきなり現れた息子に、「こんな格好してるけど自分は実は男で、しかもあなたの父親です」なんて名乗れるわけがない。ブリーは身元を隠すため自分を教会関係者(かなり無理がある)だと偽る羽目に。
しかも旅の途中で立ち寄ったトビーの故郷で、トビーの母親が実は自殺しており、継父からは性的虐待を受けるという、愛情を知らずに育った彼の辛い幼少期を知る。そのためなのか、トビーはまだ見ぬ実の父親になんだか過剰な期待を抱いている模様。これではますますブリーはほんとうのことを言い出せない。
女性になろうとしている父親と、素行のよろしくない息子。奇妙な二人の珍道中やいかに!?

女装した男性のロードムービーというと、オーストラリア映画の大傑作『プリシラ』が真っ先に思い浮かぶ。
しかし、この映画の場合、女装した男性を演じているのはあくまで本物の女性。
そして、『プリシラ』のような賑やかさやケバケバしさは一切皆無だけれど、旅を通して様々な人たちに出会い、傷つきながらも自分を見つめなおしていくという点は共通している。そして、家族の物語であるということも。

二人が通じ合っていく様は、まさしくロードムービーならではの醍醐味で、静かではあるけれど何とも優しい気分にさせられる。
ブリーは最初こそ、捨て去った過去の面倒なお荷物を押し付けられたような感覚でいた。トビーを故郷に送り届けてさっさと手術を済ませようと、頭の中はそればかり。でも、一緒に旅を続けるうち、やんちゃで傷つきやすいトビーをほっておけないと思うようになる。次第に彼に対する愛情が湧いてくる。それが父性愛なのか母性愛なのかはわからない。あるいは、全く別なものかもしれない。一見二人の間に厚い友情があるようにも思える。

それはトビーも同じだった。
ブリーのことも最初は小うるさいおばさんとしか思ってなかっただろう。実は男と知った時は激しくなじったりもしてしまった。しかし共に過ごすうち、ブリーに少しずつだが心を開いていく。
ただトビーの場合、ブリーの事情を何も知らないわけで、ブリーに対して予想外の感情を抱いてしまうわけだけど・・・。


フェリシティ・ハフマンはあっぱれとしか言いようがない。ほんとうは綺麗な女優さんなのに、この映画での彼女は、お世辞にも綺麗とは言えない。どっからどうみても女装した中年男性にしか見えないのがスゴイ。ピンクが基本の女らしい服装。立ち居振る舞いも女らしくあろうと、随分気を使っている様子。この人、心の底から女になりたいんだ、実は本物の男なんじゃないのか?と思ってしまうくらいだ。
手術を終えた後、堰を切ったように泣き出す彼女の演技が圧巻。涙鼻水ヨダレにまみれ、あんなに感情をぶちまけて泣く人を初めてみたかもしれない。
そして、トビーを演じたケヴィン・ゼガーズ君のなんとかっこいいこと!!彼は今後要チェックだわ。

私がすごくいいなあと思ったのが、この二人って自分の境遇を嘆いたり、そのことで同情してほしいなんて後ろ向きなことを微塵も考えてないのよね。常に前向きというか、夢を叶えるために懸命に生きているところにとても好感が持てる。
最後にすったもんだがありましたが、世にも珍妙なこの親子は、世にも不思議な絆で結ばれて、なんだかんだ言ってこれからも交流を続けていくのでしょう。
トビーがブリーを「パパ」(あるいは「ママ」?)と呼ぶことは絶対にないと思うけど、親子という枠を超えて一人の人間として対等につきあっていけるということは、何よりも得がたい絆なのではないかな。


最新の画像もっと見る