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しるべない旅

幼い頃の思い出と日々の雑感気まぐれに綴っております。

フラッシュライト15

2023-09-17 11:10:05 | 日記

「消しちゃったら、ボタンを親指と人差し指で挟んで、ギュッ、半分凹まして、点けて、ボタン止めて、スライド上げて、カチッ、親指と挟むんだよ。消えない。ボタン緩めるよ。ずっと点いてる。」
「尖っていて、カッコいいね。」
「ギュッ、半分。ギューッ全部。ボタン隠れんぼしてるね。」
「消えないから、落ち着くね。」
柱時計が7時を告げると、食器、箸、おかず、お櫃、味噌汁を運びました。私は、点灯させた灯りを持ち、母と祖母の手元、足元を照らしました。最後に、食卓は明るくしたいから、夕食の際と同じく台所の裸電球を移動させました。私は、指先でボタンとスライドを操作して、灯りを消し、卓袱台下に置きました。曾祖母、祖母、母、私が一同に集まり、いただきますの挨拶で食べました。お盆の入りまでは、長閑な時間が流れました。

フラッシュライト14

2023-09-17 11:08:57 | 日記

祖母との対話はまだ続きます。
「うーん。それでね、こーやって、ゆっくり指先広げて行くんだ。」
「ボタン出っぱって来たね。」
「お母さん、ボタンがきれいだねって撫で撫でしてあげるんだよって。」
「まだ、点いてるね。」
「うーん。ここが半分かな。止めるよ。パッ。お母さんの指先見て、何度も真似したら、出来るようになったよ。」
「バネあっという間に戻るから、ボタン止めるの難しいね。」
「うーん。失敗すると消えちゃって、叱られたよ。パチン。消えちゃった。でも、お洋服のボタンみたいだって、お母さんといっしょに笑っていたよ。」
「お母さんもいたずら好きなんだね。」
祖母と微笑み合いました。
「それでね、真ん中、半分って覚えたよ。」
数と形の感覚も学びました。




フラッシュライト13

2023-09-17 11:07:44 | 日記

「おおばあちゃん、新聞だよ。」
「ありがとう。」
新聞を居間に持って行くと、曾祖母は日当たりのいい廊下に出て、眼鏡をかけて読み始めました。曾祖母は、助産婦さんで、私の出産に関わりました。だから、私のことは、優しさと厳しさを持ち、親しみ深く見ていました。行儀、時間の大切さ、倹約精神、躾のひとつで、話してくれました。
母は、台所の釜戸で炊飯、味噌汁の支度をしていました。いい香りがして来ました。台所では、唯一の部屋用裸電球が点灯していました。私は、灯り照らししなくていいから、フラッシュライトで遊びながら、手触りを楽しめるから、ずっといたずらしていました。祖母は、裏庭の畑から、トマト、茄子、キュウリ、ユウガオ、カボチャなどを朝採りして並べていました。祖母が畑から居間に戻ると、相手をしてもらいました。
「おばあちゃん、見て!」
右手で胴体握りながら、筒先を向け、スライドとボタンを操作して、点灯方法を説明し始めました。
「キレイなボタン。挟んでるね。」
「うーん。だんだん、凹むよ。ギュッ。親指と人差し指、半分止めて、それから、ギューッ。ほら、ぺっしゃんこ。」
「挟んで凹ますんだ。」
「そうだよ。それでね、ボタン、人差し指で押さえて、スライド親指で動かすんだけど、硬ーい。」
「動かないね。」
「だからね、人差し指緩めてあげるよ。半分ボタン止めて、スライド親指で動かすよ。カチッ、ほら、点いた。」
「ほんとうだ。」
「ボタン挟むよ。ギュッ。まだ凹むよ。ギューッ。ほら、ぺしゃんこ。」
「消えないね。」

フラッシュライト12

2023-09-17 11:06:53 | 日記

私たち母子は、床の間で過ごす時間が多かったから、目覚まし時計は、ここのタンス上に置きました。歯磨き、洗顔が終わると、朝食の支度です。まだテレビのない旧家では、ラジオが大事な情報源。母は、ラジオのスイッチを入れに行きました。まだ、朝7時くらいまで暗がりだから、この時も、母の手元を照らしました。とにかく、灯りが常設されていたのは、台所だけで、フラッシュライトは、手元足元照明に大切なアイテムでした。私は、居間の卓袱台下から、右手の平で握りしめ、ラジオ部屋に駆けつけました。
もうすっかり重さと操作に慣れたから、身体の一部みたいなものです。2歳のおちびちゃんは、大人の仕草を真似して、複雑な操作を短時間でよく覚えたと今になると感心しています。
「ダイヤル合わせるから照らして。」
「はーい。」
カチッギュッギューッ フラッシュ位置で光を維持しました。
「しっかり押さえて照らしてね。」
コチッヒューヒュー
目的の局を選び、母は、ボリューム調整を終えました。咄嗟の灯りが欲しい時は、フラッシュはとても便利でした。場面を考えて、フラッシュと常時点灯を切り替えられるようになりました。
チューニングが終わると、門口のポストに投じられた朝刊を母と手繋ぎ点灯して取りに行きました。この時は、左手で常時点灯に切り替えました。飛び石を照らしました。母に、指先を触ってもらい、クリーム角ボタンを半押ししたり、全押ししたり、戻して尖らせたりして、感触を味わっていました。こうして、朝の風景が移り変わって行きました。


フラッシュライト11

2023-09-17 11:05:38 | 日記
母に、目覚まし時計のセッティング方法と時計の読み方を教わりました。セッティングが終わると、細長い赤いボタンが飛び出しました。機械好きな私は、これを押してベルを止めるのを楽しみに、眠りました。
朝が来て、目覚ましのベルが鳴ると止め、自発的に灯りを点けるようになりました。
「おはよう。お母さん、点けるよ。」
母に筒先を向けました。クリーム角ボタンが暗闇に映えていました。指先をピクピク動かして遊び始めました。
「ボタンくにゃくにゃだね。」
母に、指先を触ってもらいました。その日によって真上から押したり、脇を挟んだり、四隅のひとつを押さえたりして、飽きることなく、半押ししました。スライドが固定すると、全押ししました。半押しと同じく切り替えがスムーズになり、しっかり常時点灯出来ていました。
雨戸、ガラス戸の開放、蚊帳、寝床の撤去まで、フラッシュライトは手元照明に大活躍しました。
「いちばん上だと、おいたしながら照らせるね。」
指先を広げたり狭めたり、動作をしながら、母に話しかけていました。
作業が終わると、左手の平で筒先をかざしながら、親指と人差し指でボタンを半押し挟みました。
「ほら、きれい。」
「透けてるね。」
「消していくよ。」
ボタンを全押ししてから、指先を緩め、半押しで止めました。
カチッ
「どんな感じ?」
「ガクッとして、チラッとした。ギューッ。まだ押せる。点いてる。はじめに点くところ。」
指先を緩め、半押しで止めました。
カチッ
「どんな感じ?」
「くにゃくにゃ。ギューッ。」
全押ししました。
「ボタン隠れんぼしてるね。」
「指、離すよ。」
パチン
「いい音。」
消灯させ、卓袱台下に置きました。洗顔歯磨きタイムになりました。当時の流し台は、タイル製。蛇口ではなく、柄杓で生活用水を掬いながら使っていました。