【甘露雨響宴】 The idle ultimate weapon

かんろあめひびきわたるうたげ 長編涅槃活劇[100禁]

FIND【235】書道するロータス

2009-10-11 | 3-3 FIND




 FIND【235】 


チリン カタン...

音がして―ロータスはハッと我に返って扉の方を見た。

最近は大学ばかり行っていたから滅多にそんな服装をしないクリスティーナが精一杯のお洒落をして俯き加減に立っていた。

ロータスと目が合うと恥ずかしそうにしてにこっと笑った。

ロータスは部屋中広げた広用紙に小さい文字を書き続けている。

全紙真黒に見える細文字で埋められたそれは完成間近のようで
ロータスは紙の下の方、床上にアルマジロのように蹲っていた。

顔を上げて一瞬クリスティーナに見惚れたがにこりともせず
直ぐに紙に向いて、作業を続け出し、少し待って。と言った。

「 ...むかしむかし年も取らない殺しても死なない王様が居ました
 最初の王様の名前はコランフと言い、時代は流れて88代目の王様
 その名前はレッディと言いました・・・ 」

それはクリスティーナの声。

不可解を感じながら黙って聴いていたロータスは咄嗟びっくりして紙の上の方にいたクリスティーナに、読めるのかっ?!と言った。

クリスティーナは振り返って、え、うん。と言って笑った。

「アラム語ペルシャ語混ぜて巧みに動詞と名詞の配列変えてあって
 イラナイ単語や文字も交ぜてあるから読み難いけど...私は文字に
 色が見えるから色分けして省いて読んだり出来るの...これは何?
 暗号?昔のよね?」

ロータスは急いで広用紙の上の方をくるくるっと丸め出した。

「読んじゃダメだ!」

知らなかったとは言え、ロータスをまた怒らせてしまった?
と感じたクリスティーナは慌てて、ごめんなさい!と言った。

「あ、や...これはいい...王の依頼なんだ。怒鳴ってごめん
 このとこはいずれちゃんと話すよ...君のその、語学は?」

「マリアの家の書庫にあった本の挿絵が綺麗で...その文字
 読めなかったから専門家の人を呼んで貰って教わったの」

にしてもふたつの言葉を混ぜてあるのにあっという間に...。

それに、色分けって何だ?その色分けだけで
トパーズの難解暗号を簡単に破る?何だそれ。

いや、それは今はどうでもいい。

「 ...そうか。それは凄いな...もう直ぐ終る。少し待って」

言いながらロータスは上を丸めて下の方だけを見せている
広用紙に向かって、再び墨の筆を持って文字を書き出した。

クリスティーナは静かにロータスの横に座った。

時間経って文字量増えてもロータスはクリスティーナがそこにいるのに人の気配を感じないかのように書に埋没していた。

「 ...そんなこともするのね」

無意識にクリスティーナが声したがロータスに聞こえていない。

クリスティーナは真剣表情して書に向かうロータスに見惚れた。

やがて、ロータスが身体を起こして墨の皿に筆を置いた。

「 ...終ったの?」

訊いたクリスティーナにロータスが振り向いて、ああ。と笑う。

今日初めて笑ってくれたロータスにクリスティーナは胸が痛くなるほど喜んで満面の笑―黒グラスは取らないままに。

「いつまでしてるんだ?それ、」

「厭よ、見せられない顔だもん」

「グラス取らずにじいさんと喋ったのか」

「 ...だって」

クリスティーナはファーを着たまま、胡坐で座ったまま辺りを片付けていたロータスの膝の中にするりと嵌り込んだ。

大きな身体のロータスの中に小さな身体のクリスティーナはファーを着たままでも綺麗に収まってしまう。

ロータスは驚いたが―両手を回して抱き締めた。

クリスティーナの顔に自分の顔を寄せて、泣いてた?と言って
笑い、クリスティーナは、見ないで。と言ってグラスを取った。

「額の傷は?」

「心配なら戻って来てよ」

「ハハ。何しに来たんだ?拉致しに来たのか?」

「そうよ。だって有り得ない。何で平気よ?私が泣いてるのに
 手を挙げたくせに。私が電話しても出ないとか帰らないとか」

「帰らないとは言ってない」

「私、お熱あるのよ!」

ロータスは笑いながらクリスティーナの額に手を当てた。

「泣き過ぎて顔が火照ったか」

「もうっ、何で、そんなに酷いことばかっり、」

本気でむかっと来てクリスティーナは振り返った。






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