GALE【333】
「そうか?人の話をしているのだが?在る・居るでは従順純粋しか
残らない。それが豊潤な姿。船底にいる人たちは新天地に届いた
ときそれを知るかも?惚けなくてもいい。彼らがどこへ届けられ
るか...知る人ぞ知る慈愛とは縁のないところ」
「 ...。」
「ふふふ、俺の知ったことではない がね?」
そう言ってギーガはグラスを片手に椅子の背に凭れた。
それにドルーイルは少しホッとした。
ドルーイルはギーガの異様な柔和に圧されて気付いていなかった。
テーブルの脇でルビーとラピスが中世宮廷吟遊詩人のように綺麗な微かな歌とギターを奏でていた。
知らず聴き入っていたドルーイルは気づいてふたりに魅入った。
しかし、何とも妖術のように絡め取られる...。
「ドルーイル、音楽は大切。なければ喉が渇いて空腹飢餓に苦しむ
も同じ。音楽の美しく流れない脳は、お金の足算と知略と憎悪に
富む。そこに富んでささくれるハートの哀れな人に、誰が寄って
来る?それは同じ波動の人だけ。そしてほんの些細な1箇所の穴
に気付かない。穴はやがて大きな穴となって自壊を呼ぶ。悪と善
どちらにも大切だ。大事をなそうとするなら」
「何が言いたい?」
「舵取りをして宇宙軍を呼ぶのも一興。どうだ?」
「! ...。」
「音楽に聴き入れば夢心地で気付けば新天地。楽なものだ」
「優雅だな。はは、んなものに気を取られては足元崩れる」
「そう思うのは、失う恐怖。恐怖を敵対視しているようでは恐怖に
覆われる。覆われれば儚く脆い人の作った足元ではなく本物の人
を支える大地の足元こそが霞む。大地が崩れれば人皆諸共」
「 ...何を、」
「ドルーイル、仮想動画は好きかね?」
「?」
「戦争や人殺し推理やホラーや計算ではない、そういう流血や頭脳
駆使で見る肉欲色欲を興奮させる方の妄想動画ではなく、動物や
子供が主人公の何でもない日常のほのぼのとした物語の創作」
「子供の話でも...?」
「あはは、いや違う。君の器の話だ」
「 ...。」
「足元の大地の話、続いてる。さもしいハートでは
悪党の悪事、その長旅も短く終ってしまうのだよ」
「謀っているのか?」
「いや、約束は守る。だが、折角逃してやっても『クワロフス』や
他の輩に竦められるようでは俺も不満。足りないのだ。それでは
逃げるときに捕まえてくれと狼煙を上げているようなものだ」
「 ...何を?」
「君の顔とムードだよ。あ、返事が違ったか?何故追われるのかと
訊きたいのだろう?俺が接触した海賊の誰が、生き延びたろうか
俺から解放されたら俺の仲間、或いは、俺の犬としか思われない
生き延びて地獄か死して再生、さっきから後者を案内している」
「 ...。」
「まあ、選択はいつも誰でも自由だ」
「 ...何を言ってる?死地面倒臭い言葉でよくわからん」
「長旅は暇過ぎる。君を肴に詩の断片を諳んじているだけだ」
「そうか、ギーガ。暇か?詩か音楽か恋愛か常に優雅なものだ」
ギーガとドルーイルの会話に第三者が加わった。
ギーガとドルーイル、ここに残されていたドルーイルの腹心数名、その腹心に銃を突きつけていたクルーたち―ブリッジに居た全員がその声を一斉に見た。
ラピスとルビーも歌とギターを止めて声の方を見た。
しかし、ブリッジの入口の扉の床に照明を浴びて落ちた人の影が映っているだけて姿は見えない。
「何だあ?扉に隠れて姿見せず?船底を開放したなら
賢い鼠が居たというわけか?威勢のいいことだな?」
ギーガが椅子に凭れて言うと影は、姿を見せるが、その前に自分に向けられる予定の銃やナイフなど殺傷武器の全てを放棄しろ。と扉の向こうから言った。
ギーガは、心配いらない。と目で言ってクルーの警戒を解いた。
「叶うと踏んだ命令だナ?人質でも取ったかな?」
笑ってギーガが言った。
「そう笑っても居られまい...人質?クリスティーナのことか」
「! ...!!」
ギーガは声の主が誰か判って―サジしてこの場を去りたくなったが、そうもいなかい。
突然ギーガは全員に、この男に指一本触れるなっ!と命じた。
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