FIND【93】
既に慣れた朝―イーギンが朝食を作ってピナットの世話を焼く。
「野菜ジュース作った、飲め」
イーギンが思い出したように立ち上がってキッチンに足を向けて
―野菜ジュースを注いだグラスを持ってピナットに戻って渡した。
「あ...ありがとう。思ってたんだけど...こういうこといつも?」
「こういうこと?」
「こんな風に誰かと一緒に暮らすとか食事作って...とか」
「シゴトだから何でもする」
「 ...そう。」
「どうかした?俺では具合悪いか?チェンジ?」
「それよく訊くわよね?被害妄想?」
「あはは」
その反対なんだが...。
ピナットがいつもそう言うから気が逸れていたが、この女の反応は可愛い気がない...俺は男だというのに、部屋の中だと平気で下着姿でうろつくし気を遣ったり恥らったりもしねえ。
社長身分で知り合った女にこんなのは当然いなかったが、リオンで知り合った女にもいなかったなあ...。
本当に俺をいない存在と思ってるのかマフィア絡んでるから無感心と腹括ったのか。
俺にはわけわからん...お蔭ですっかり遣り易いがね。
王の外出は地方各区サウから城に滞在に来たラキスとの社交。
馬で森を東に抜けた湖の近くにある東の城レウキーツ東宮殿にて、料理と酒、各区のラキスが連れたギ・ロアの舞の宴。
月1度行われるこれにディーライが代理を務めることはない。
これまで后と皇子の話が上がる度に、縁の無いものどうしろと?と言っていたが、前回の『フレハーウェグ』以来、ギーガは嬉しそうにその話題に乗る。
今までは数々失恋、マフィア統括未完から 上の空 だった。
失恋は兎も角、駒が進んだので結婚を本気で自ら臨む。
早い話が、とっとと王因子を持つ子を授かりたい。
王位を譲ってあれしてこれしてと頭がわくわくになっていた。
勿論結婚相手と蜜月も愉しみだが、王の結婚経験で観るなら結婚あっても愛してくれる女性と出会う可能性は僅か―ゼロに近い。
だから、理想の女性と出会う絶対値のとき というものを待つ。
自らあれこれ考えないいようにして。
今日はすっかり結婚話題に安心して、ディーライとネルも狩の服装で王の両脇に続いていた。
サファイアのはずの王の付人は今日は常はサナロン城主のネル
―付人は基本、王の手足なので狩も王以外の人と会話もしない。
王とディーライとラキスの馬上の会話を殺がないよう遠巻きに
囲んで近衛第2番隊が続き、王の直ぐ近くに隊長キースがいた。
近衛もまた基本誰とも―王とも喋らず、寡黙に付き従う。
ディーライはサファイアの件で意識してキースを眺めていた。
王も気にしているはず...。
ギーガはそんな素振りもなくラキスとの会話に沸いている。
森の踏み固められた道を抜けて草原を抜けて違う森へ入り、城裏の緑茂る盛夏の森林散策を愉しみ―王とラキスは寄ったり離れたりしながらゆっくり時間を過ごして湖に向かう。
アーヴェのノーウェンリーの爆発事件やナール社会の話
織り交ぜながらラキスたちは王とナールの現在動向の話。
ラキスはクルーでないというだけでラキス身分を選んだ人間。
ナールと違い、その一生を大地達磨返還叡智してシゴトする。
彼らは日頃から王と同じことを王に諭されるではなく―思う。
建国以前からそれを思っていて具体的な言葉と行動が見つからず―道に迷っていた人々。
王が現れ―真先賛同して身を渡し自分にデキルコトを全うする。
ギーガが過去より言っていた人の全ての経験が済んだ後
新しく生まれてくる新しい人、叡智の理解の及ぶ者たち。
ラキスの彼らも各々思い、思っていた。
自分が立っている大地の清い循環の完全に潤う日の来ること。
人間だけ偉いと思う驕りない子供たちの教育が当前の日常を。
大地を走り、過ぎ行く景色の中に見え来る動物の呼吸と午後の
陽光、青天と白く霞む遠景の空、黄緑の風をゆるやかに感じる。
満ちた大地と緑にいてナールの呻き喘ぐ虚のない世界を想う。
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