PAI【45】
「あ、そう、俺に殺れって?俺が殺って良いのか?」
「 ...。」
「はは、無理問答か。敵は近くに居るが、しかし、少し待て」
言ってギーガは狛胤を下ろした。
狛胤は怯えてギーガの体から剥がれない―ギーガの足にしがみ付き
ギーガが屈めば、その背中にしがみ付いた。
狛胤は泣いていられなくなった。
狛胤にぴたりと引っ付かれたまま、ギーガは地面を見る。
賊は総勢50ほどだが、ここを襲ったのも数多い馬の蹄後。
馬に乗るなら西戎、或いは、西戎の中の山賊。
たった数人の武器も持たない人をそんな数で襲うとは家財運搬のためか...それとも、舜風組への策か?
ギーガは懐から布を取り出し、目だけ残して布で鼻と口を隠した。
それを狛胤にもした。
「顔を見られるな、覚えられてもならん」
ギーガは狛胤に真剣な表情で言った。
狛胤は、いよいよか?と殺気を滾らせた瞳をするが、まだその目には悲しみの方が多く不安が占めている。
ギーガは、心配ない。と言って狛胤の頭を小突くように撫でた。
そして、狛胤の目線に屈んで狛胤の目を見据えた。
「怖気づいたか?どうする?帰るか?一緒に行くか?ここから
先、俺と一緒に行けば血を見る。俺は狛胤に頼まれてもいい」
「否だ!行く!」
「そうか。夜中にひとりで小便に行けなくなっても知らないぞ」
「え... 」
「それくらい肝据えろ」
「 ...。」
「待つか?」
「行く」
「そうか。なら俺を離すなよ。あれだけ部屋を荒らしたんだ
狛胤の腕力を信じる。俺を離したらお前が死ぬんだからな」
「う、うん!」
ギーガは迫って吐くと狛胤を背中に背負い即、走り出した。
ギーガは走りながら狛胤に、顔を伏せてろ!と叫ぶ。
ギーガは一番近くに居た、と言っても村から西に遠く賊の塒の方に近い、そこに一頭ひとりで偵察に走っていた騎馬の賊をカナン球体で見つけると即サジして馬の尻、賊の背後に現れ立った。
同時に狛胤の背の剣を鞘から抜き、賊の左肩から真っ直ぐに下へ剣を刺し下ろす。
騎馬していた賊は今一瞬の難に気付かず、そのまま息絶え、地面へどさりと落馬した。
瞬時ギーガが騎馬して突如の異変に暴れる馬を制し宥めて背の狛胤に、顔を上げてよし!と言った。
狛胤は恐る恐るギーガの背から顔を上げる。
「え、」
狛胤は抱きついていたギーガが馬の上に乗っていてその真下
地面に賊らしき男がうつ伏せの状態で事切れているのを見た。
ギーガは狛胤を背負ったまま馬から降りて賊の死体の横に立ち
狛胤を背から降ろすと、既に血塗られている剣を狛胤に渡した。
「え?」
「この男、お前の親をやった者、この息の根を止めるか?」
狛胤は瞳を血走らせて両手で剣の柄を握り、賊の背に突きした。
狛胤は再び刺すつもりで男の背の剣を力いっぱい引き抜こうとするが、興奮のあまり力散って剣は抜けず、もがき喚き泣き出した。
「もうよい。死んでる」
狛胤は剣を放して喚き、ギーガに抱きついた。
ギーガは、見るな。と言い、賊の背から剣を抜き、首を切り取ると
その首を懐から出した布に包んだ。
「さて、はじまりである」
「え、」
「賊の壊滅。この首無死体を見た賊たちは大人しくなるか
村を襲ってくるか...後者だろうな。その前に壊滅に入る」
「 ...おじさん」
「む...おじさんは今日は帰るぞ。まだここに居るか?」
狛胤はギーガに泣いて抱きついた。
ギーガは狛胤を抱いたまま馬を頂戴して騎馬―村に向いて走った。
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