FIND【322】
空のボトル、放置のグラスや料理をして食べた跡の食器、キッチンの状態―ライジは、片付けてから出て行けよ。と思った。
電話して文句言うと、お前が掃除しないからだ。散らかしたら掃除したくなるだろ。あははっ!隅々まできれいになっ!と怒られた。
反論出来ず―ライジは素直に言うことを利いた。
パスルームの入口の壁上方に刺さっているナイフに見張られている気がする。
あれが突然自分に向かって発射...有り得ないのに直接感じない何となく怖い、そんな残香がそこにあった。
以来トパーズはライジの居る居ないに関わらず、3日置きに来たかと思ったら1週間後に現れて、1ヵ月全く来ないから、飽きてくれたか。と思ったらふらりと現れてその後毎日。
いつ訪れるとも判らない野良犬の世話をしている気分になった。
しかもその野良犬は僕の清潔なベッドで寝る!
トパーズ曰く犬は自分の方だが。
トパーズが『ライオネル』の支配人になって以降は『アスカ帝』のマフィア窓口はマリオ。
ライジがトパーズとの連絡は必要なくなったため、個人的に連絡を取らなければ二度と会うこともなかった。
「 ...こんな事態はサアリに余計なことをした自分のせいか」
こんな生活いつまで続ける?本気か?はっきりしろ!とトパーズが来たとき、ライジが真剣な顔をして詰め寄った。
「 ...もう1年経つぞ?お前はまだわかってないのか?馬鹿だな
飼犬がガタガタ言うな。今、お前を生かしているのはこの俺だ」
「だったら色々取り決めさせてくれ!仕事に支障が出る」
「お前、頭が弱いな?仕事させてんのも俺の支配の中。抵抗
したいなら『アスカ帝』の社長にお前の首を差し出させよ」
「なっ...ぅ... 」
「細々いちいち全部、口で説明して貰わないと理解出来ない?
俺に抵抗出来るヤツがこの世にいるか。ひとり、王だけだ」
「 ...トパーズが王になったら最悪だな。今の真逆の闇が来る」
「おうっ、わかってんじゃねえか。ハハ、そ。王だけが俺を殺せる
或いは、お前。お前は俺を殺せる。教えてやろう、あのナイフは
王の紋章のあるナイフだ。王のナイフで人を殺した者は無罪放免
王意思を担い、王に代わって成敗したと警察も軍も咎めない」
「え... 」
「あはは!嬉しいか?そうだ、だからな、嫌なら
俺を殺せばいいんだ。あそこに王の許可がある」
ライジはバスルームの入口の壁上方のナイフを見遣った。
「だが、俺が死ぬとどうなる?一挙に組織の基盤が崩れ出す、一人
個人の、いやいや、違う 一匹の犬の憎悪でそれだけの人間殺す
のか。それもいいかもな」
「 ...。」
「そうだ。取り決めな?俺と結婚事実
わかってるよな?浮気は許可しない」
はあっ?!浮気って何だそれっ―思わずびびって後退した。
トパーズがぬっと立ち上がる―巨大な雲影を浴びてライジの視界が真っ暗になった。
待って―ああっ、神様っ!!そんな、
わけがわからなかった。頭が真っ白になった。
ライジはトパーズに酷い焼印を押された。
焼け爛れる心―暫く、立ち直れなかった。
曖昧1年、拉致拘束関係1年―トパーズ結婚宣言から2年。
トパーズの勝手は変わっていない―好きなときに現れて飲んで寛いでライジのベッドで熟睡、気が済んだら出て行く。
ライジが部屋にいてもパールの会話はない。喋っても、腹減った、何か作れ、買って来い、その程度で話も何もない。
頼るところパールしかいないのでパールに助けを求めたが、知ってる知ってる!うひゃひゃひ。と笑われて挙句、羊の世話で忙しい。頑張れよ。と言われて―取り合って貰えなかった。
結局ライジはトパーズに抵抗出来ず(いつの間にか飼い主はパールからトパーズ)本当に忠犬になったように利口に立ち回った。
しかし、そう易々トパーズを受け容れたわけではなかった。
会社に出る日常では相変わらず女性に持て囃されて事欠かないそこにわざわざ制限を敷くなんて思ってもない。
これを浮気と言うのか?有り得ない。第一トパーズに僕がいつ
そんな感情を抱いたというのだ。労働は縛られても僕は自由だ!
そう勢い良く思ってみても何だか儚い抵抗のように思える。
自分が情けない...虚しい。
しかし!シルバーウェイのスウィートはトパーズに教えてない。
ここだけは、トパーズに秘密 を保持出来た。安心できる空間。
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