KINGREDDY【172】
毎日朝から晩まで休む間も無く動き詰予約。はわかった。
このままあっという間に祭の日になりそうだ。
夕刻近く―最後の客が引くと、初日の今日は店じまい。という先生の言葉で弟子は夕食作りに天幕奥に入った。
レッディは、明日朝直ぐ客を迎えられるよう絨毯掃除しておいて。と言われたが、何をどうしていいのかわかららないので取り敢えず散らかったままの道具の片付けを始めた。
直ぐにシギが出て来て、手伝う。と言って掃き掃除を始めた。
「俺の仕事だよ。皆が奥に入ったら俺。今奥で火を起こした
夕飯は弟子がする。俺は彼女たちとは場を共にしないから」
「店に出ないのも?もっと人が多いと助かるのに」
シギはくすくす笑った。
「奴隷なのに知らない?黒人は表に出ない仕事。黒い肌だから」
「何で?肌の色?」
「知らない。黒い肌の人と触れただけで肌が焼ける。川で一緒に水
浴びしたら黒い肌になるとかで嫌われる。黒人は肉体強靭で体が
強く音楽とダンスに秀でるだけで頭弱いから黒じゃない人の奴隷
として生れた。黒人の生まれがそうだと聞かされた」
「リュディアは黒い肌が最良とされる」
「あはは、それとは違う。褐色のより黒く
は知ってるけど、黒人のようにじゃない」
「 ...皆無知なんだな。教養がまるでない」
「無知?...リュディアに黒人の奴隷はいないのか?」
「いない。いたとしても一緒に川で泳ぐし触るし嫌わない
もう...俺には意味判んないことだらけだ.......腹立つなあ」
「 ...レッディ」
「あっ、や、意味が解んなくて自分に苛ついた。ごめん」
「ごめんて...いいよ。自分に...?」
「はは、ごめんて―気にしてくれてありがとう」
店の掃除を終ってレッディとシギは夕飯の仕度を手伝った。
様子を見ながら接していると弟子3人しかいない。
3人はシギに用を言いつけてレッディには仕事教える風にして世話を焼いたり話し掛けたりして来た。
そこにいなかったカンナとリータは仕事の前も後も先生と旦那様と一緒にいることが多く―食事仕度は3人。
たまに手伝うけど。とワシューがレッディに親しげに話し掛けた。
他の商人は自分たちで食事を作らないのよ。毎日食事店。とミフとノイニーも優しく話し掛けて来る。
レッディは考え込んだ。
だから?え、終わり?言いたいことは何?と訊きたがったが、奴隷は突っ込んではいけないか。と思って沸いた疑問を引っ込めた。
デアンのお蔭で優しい物言いだろうけど、自分は奴隷だ?と思うレッディはそんなハンパ立場に置かれてどう応えて良か判らない。
ただ真面目顔で、はい。と返し、他に話し掛けて来られる言葉にもただ、はい。だけ言った。
タダでさえ差別得意の良悪優劣上下から出来てる英雄宗教モノサシに不得手なのに、それではよりわけがわからない。
引っ掛からず流すことに慣れるしかなかった。
夕食は居間で酒を交えて賑やか―シギとレッディは奴隷寝所。
絨毯ではなく葦で編まれた丈夫な敷物の上でクッションなく。
シギとふたり―夕飯の片付けは残っているが、初めて外国人と密接接触して知らず緊張していた1日が終った。
「 ...訊いたよ、正確には、聞こえたんだけど」
初めての1日(正確には半日)終ってそのことについてレッディが少々興奮気味に話をすると突然シギが言った。
シギが何を盗み聞きしたのかその表情からわかったが、嫌悪の色はなかったのでレッディは惚けて、何のこと?と言った。
「レッディは奴隷だけど何か偉い人の恋人なんだってね?
弟子は...先生も旦那様も...レッディを奴隷扱い出来ない」
「そうなのか?奴隷は奴隷だ?...恋人って言うのはたまたまだ
気に入られただけだ。勿論ご主人様を裏切ったりしないけど」
「うん...優しくされてるもんな」
「生きていく知恵だ。と言って、そういうことは勧めない」
「あはは、そりゃ勧められても俺には無理だ」
KINGREDDY【173】につづく。 |
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