FIND【31】
「おい、聞こえてる?」
言ってイーギンがピナットの背後から肩を叩くと、ピナットは途端弾けるように跳ねて驚いた。
「なっ...そんなに驚く?」
「う、あ...ごめんなさい。集中してたの。気づかなかった」
「ふうん。そらいいことだ。さっき聴き忘れたけど夕飯は?」
「あ...忘れてた。えっ、今何時!?」
ピナットが壁時計を見ると同時にイーギンが、9時。と言った。
ピナットは驚いて、9時?!と叫んだ。
「予定あったのか?言ってくれてれば時間が来たら」
「ええ、何?そういうこともしてくれるの?!それ助かる!
でもどうしよう、9時半って約束したの間に合うかしら」
「どこの誰とどこ?」
「車検。私の車もう古くて故障ばかりするけどまだ乗れる
だから保証貰うの。乗れるって!えっとバロン街955番」
バロン...てノーウェンリーの隣...。
カーヤの家から遠いバロンならいいが、最悪その車検屋も
お陀仏...今からあの辺り一帯は大騒ぎ.....そろそろその時間。
そんなところに今から行けるかっ...しかし...何と言おう。
「今から行こう。その前に電話しなよ」
ピナットは急いでSPを取り出して電話をした。が、SPを見詰めて
出てくれない。約束時間になってないのに。と言った。
そりゃ...え、いや、まだ予定の時間じゃない。
「まあいい、電話は車からでも出来る。帰る仕度しろ」
言ってイーギンは店の方に出て―施錠に行った。
もたもたすれば9時半を過ぎる。明日にしようと言える。
「いつも門限12時ぎりぎり間に合う時刻になって針を置くの。目覚
時計10時半にセットしておいてね。人を運んでくれる定期馬車は
10時が最後だし自分の荷台馬車持ってないからギリギリまで飲食
店で飲んでゲートに向かう人たちがそうするように、私も歩いて
ゲートに向かうわ。ゲートまで歩いて30分。それに私ったら帰り
支度のたびに何か忘れるから余計に慌てて時間掛かる。11時半に
出てぎりぎりでしょ?余裕持って11時にはここ出るようにしてる
んだけど、いつも過ぎてしまう。遣り掛けの洋裁は片付けないで
そのまま、いいの、明日また続きをするから」
バタバタと身仕度しながらピナットはイーギンに話し掛ける。
急ぐなら口閉じて仕度専念しろ。と言いたいが、バロン街に行きたいのが今日なら喋ってもたついてくれてありがたい。
「ああ、やっぱり、私って慌てなきゃなんない人なのね!」
ピナットは独言を言いながら何か探し回って部屋中を走る。
イーギンは、何を探している?と言って自分を全く眼中に入れないピナットの腕を掴んだ。
「えっ...あ...財布...とコートを」
突然動きを抑えられたピナットは驚いてイーギンに竦んだ。
こいつ...驚くことか?それに...。と思ったイーギンはため息混じりに、その両方とも俺が持ってる!さっき言ったっ。と言った。
「え...あ...はは、ごめんなさい。あの、ありがとう」
ピナットはこの男の人がどういう神経か掴めないと思った。
さっきまで優しかったのに怒った?何でっどうして私が怒られなきゃなんないのよ!と思いながら、どう振舞っていいか困惑した。
イーギンはいつもの無機質で、行こう。と言って先に裏玄関に行き
ピナットを先に出して施錠し、振り返ってコートを彼女に着せた。
三度驚いてピナットは自分で着ようとしたが、イーギンはピナットに笑いかけてコートを渡さず―着せた。
「あんたは布ばかり付き合って人間と付き合ったことない?」
ピナットは無言でイーギンを見つめた。
「はは!どうして?って質問さえ起こらないか。あんたは自分にも
興味ないし俺にも興味がない。社会や世に他人、全てに興味ない
素晴らしいよ!」
イーギンは歩きながら彼女を気に掛けながら独言のように話す。
「あの...何の話?」
「あんたに関係のない、あんたの外の話
気にしなくていい。俺の得た情報の話」
「でも...私のことを」
ピナットはコンパス長く歩くイーギンに、必死で付いて行きながら必死の思いで話しかけた。
「あんたがあんたらしくあることに何の問題もない。だからあんた
のことを俺に聞く必要もない。財布とコートはどこにあるか は
聞いて欲しいが、俺はあんたの横に居る。俺は喋らない時計や壁
じゃない」
「え...ふふ、そうよ?リオンったら不思議な人」
ピナットは自分に通じる単語だけ拾って反応―やっと笑った。
イーギンは、不思議生物はあんただ。とひとりで毒づいた。
ったく...様は違ってもクラウディアとまるっきり同じだ。
カメリアにしろシュウにしろ・・・クリエイターは自我横暴。
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