【甘露雨響宴】 The idle ultimate weapon

かんろあめひびきわたるうたげ 長編涅槃活劇[100禁]

ZEN【119】クルハの鉄槌

2009-11-06 | 3-4 ZEN




 ZEN【119】


「珊瑚と会って聴かないと判らない。俺も会ってないんだ」

話に入って来た史郎と共に桐吾は、そうか。と納得
してたこ焼を摘まみながら菊之丞に勉強を教わった。

そして、小百合と麗は?と菊之丞が訊くと、高校になったら縁遠くなった、この前、涼子と仲良くなってからかな。と史郎が言った。

「え、涼子って2つ下じゃなかったか?関係ある?」

「はは、すまん。あの頃からって意味」

「親父が言うには高校になったら女子はイケメンとしか
 付き合わなくなる、お前らは落選だからなあ だって」

桐吾が言って史郎が同意して笑う。

「俺たち部活、剣道に入ったんだが、剣道はモテねえ。バスケとか
 サッカーとか野球とかテニスとか?でないと。お前の部活は?」

「俺の高校はバスケとチアしかないんだ。俺は帰宅部」

「まじでっ?!...うちの高校、部活絶対強制だぞ」

「そっちに驚く...まじでっ!?」

突然史郎が笑い出して―菊之丞と桐吾の話に笑った
のかと思ったらノートを捲ってひとりで笑っている。

何だ?と菊之丞が訊くと桐吾が、店長クルハの鉄槌
だろう。多分。と言って笑い転げる史郎を見遣った。

勉強のノートじゃなかったのかよ。見せろ?と言って菊之丞が
史郎からノートを見せて貰うと菊之丞は内容に驚いて閉口した。

ノートは誰が始めたのか、クルハの父の代からある
ものでここに来る皆が自由にラクガキしているもの。

SPのある時代なのに友だちとの連絡に使われていたり記念の何かが描かれていたりここに来たら必ず何か書くと決めていて日付ありで絵が描かれていたり―何でもありの自由帳。

その中に、たまにであり頻繁に―クラスの誰かの悪口が書かれて
いる。悪意ある絵だったりチビデブス悪臭陰湿言葉類だったり。

そしてそこには必ず、赤色ペンで←が引いてあって、これ描いた奴ブッコロス。と書き込みがしてあった―それは、そのページを観てしまって気分悪くなった人の心を救ってくれる。

赤ペンは必ず同筆跡―どのページの悪意言葉やイラストにも。

この何に笑ったんだ?と史郎に菊之丞が訊いた。

「ブッコロスって書かれてるのに懲りず描き続けるヤツいるんだな
 と思って。これ見たのは1か月ぶり。このノートは外のベンチに
 座ったらお目にかかれない。だから...悪口描くやつとコロスって
 書くやつは必ず室内に座るから見当つくわけで、そういや5組の
 竹藪くんがこの前、3年生に絞められてたなあと」

「絞める?...進学校なのにそういうことあるの?」

「あるよう。勉強出来て破落戸と付き合うやつはいる。竹藪くんも
 そのひとり。だけど、あいつが女子の悪口を描くかなあ...描くか
 きん玉小さいから弱者虐めしか思いつかないんだな」

「それで...この赤色を描いた正義の味方、3年生に遣られた?」

「それは断言出来ないけど...そう繋げといた方がこのノート見て
 ショック受けた俺らとかには、よかったな。と思えるかなと」

「ネット上で虐めるよりいいんじゃね?と思う、すっきり因果応報
 しかし、これに悪口描くやつはただ自分の存在を知って欲しくて
 賛同者求むみたいな」

「触って欲しいのか」

「だからわざわざこんなノートに書き続けるんじゃないか?と
 そして赤ペンの方もしょうがいないなあって触ってあげてる」

「じゃあ...ホントに締め上げるわけではなく」

「そこは―わかんない。もしかして、赤ペンはクルハじゃね?
 って噂もあるし。ああやって人のこと関わんない態度だけど」

「そっか―そう考えると...嬉しくて笑う?そういうこと?」

「はは、まあな。この店は、今時流行んない不良もくれば、梨々花
 ちゃんみたいな優等生もミックスで来る。のはクルハのあの眼力
 のお蔭。席を譲らなかったり長居したり、意地悪発言あると即刻
 そいつの目の前に現れて睨む。おっかねえから」

「そうなんだ!?」

「それでもノートにはこんな言葉や絵を描き続けるからよう?
 誰かに、出来ればクルハに、気にして欲しいんだなあ って」

「なる...そして店長のその眼力は見守り隊なんだ?」

「ははっだよな?だから皆ここに来るのかも」

「そうかあ...て、梨々花ちゃんもここに来る?」

「あっはは、菊之丞、お前お気に入りかっ!小百合も麗も来る。が
 俺たちと同席しねえ。女子は女子としか同席しないんだ。ホント
 意味不明。あ、でもやっぱり梨々花ちゃんとは同じグループじゃ
 ないんだよな...郡部のやつらと今は仲いい」

「郡部?...ああ、永楽市の周りの群から永楽高校に来る?」

「そ―電車通学のコらといつも一緒にいる。から下校は俺らと同じ
 門のはずが駅に近い方の門から下校してる。女子友ってそこまで
 すんのか?って感心するよ」

話を摩り替たような桐吾に史郎が、お前、そんな話
じゃなくて、梨々花ちゃんの話、言えよ?と突いた。

「は?何だよ、何かあったのか?」

「何だよう、菊之丞はてっきり麗が好きかと」






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