【甘露雨響宴】 The idle ultimate weapon

かんろあめひびきわたるうたげ 長編涅槃活劇[100禁]

ZEN【118】『たこ焼のクルハ』

2009-11-06 | 3-4 ZEN




 ZEN【118】


結構大きな永楽高校―。

校門に来て下校していく生徒たちを観ながら慶伊が、門は5所
ある。桐吾たちはここ?って解ってるのか?と菊之丞に訊いた。

「クリスティーナが桐吾たちの下校は正門だ
 といった。史郎も。家に近い方角だからだ」

「クリスティーナが?...ホントに何でも知ってやがる」

「だよな?世界1の金持ちだから情報網ってのは解るが、田舎
 高校の下校時間とかどの校門とか何でそこまでっても思うよ」

慶伊と雀蓮の話を聞いて、だから世界1なのよ。って
言っていた、俺もそれ訊いたんだ。と菊之丞が言った。

「 ...そう言われりゃそうだけどさあ」

「慧能の愛人だから永楽市に思い入れ深 じゃねえの?」

「雀蓮、それで片づけんの?」

「それ以上、どう解釈しろと?クリスティーナに探り入れたら
 突然背中に飛び乗られるだけで済まず叫ばれて殴られるのだ」

「それ、まだやってるの?クリスティーナ」

菊之丞が訊いて―慶伊と雀蓮が笑って、おうよ。と言った。

「最近は新人だけじゃなく俺たちにもだ、突然現れて」

「まるで化け物だよな?何時現れるかドキドキする」

そこに突然、菊之丞っ!?と大きな声が聞こえた。

桐吾と史郎ふたり同時に菊之丞に抱きついてきた。

「うわっ何だお前、迎えに来るなんてっ慶伊と雀蓮さんもっ」

「嬉しいじゃないかっどれだけ連絡待ったと思ってるよっ」

作務衣の3人と高校制服のふたり―校門近くで抱き合って騒く。

その光景を観ながら生徒たちが下校していく―その中、菊之丞
だけ奇異の目で見られているが解る。3人で待っていた時から。

顔スタイルが日本人ではないから―ここでは珍しい容姿。

「今日は何でこんなに皆一斉に帰る?」

「期末テスト期間だから部活禁止」

「え、じゃ桐吾と史郎もすぐ帰宅しなきゃ?」

「馬鹿言え。家で自学よりお前を捉えるが楽勝だ」

「じゃあ学習室はたこ焼のクルハということで」

慶伊がしれっと口にした。

次いで、菊之丞の奢りだよっ。と雀蓮が言って―
桐吾と史郎は飛び上がって抱き付いて歓喜した。

その意味が解らないのは菊之丞だけだった。






『たこ焼のクルハ』は高校の近くの店。

たこ焼店だが、駄菓子やアイス、総菜もあって殆ど
の高校生が立ち寄って、食べたり喋ったりする溜場。

店内は畳のテーブル席5と屋根なし屋外にベンチテーブルセット。

高校の下校時間から部活帰りの時間は満席になって
周りの植え込みや石段にまで座り込んで屯している。

お腹を空かせてがっつり食べたい生徒たちは、隣のトンカツ屋―
2軒で住分けて永楽高校の生徒のお世話をしているような風景。

たこ焼屋は20前後に見えるが実は30過のクルハがひとり。

無口で人の話を聞かないゴーイングマイウェイなので高校生
は絡むことも絡まれることもなく思い思いのときを過ごせる。

慶伊と雀蓮とはクルハと幼馴染で、父の代に毎日通っていた
が、雲水になってから先は俗世殺生店に寄るは余り出来ない。

寺内で肉のバーベキューしようとも娑婆では坊主イコール不殺生―いちいち説明面倒なのでそこは娑婆モノサシ合わせて仮面舞踏会。

それが解って菊之丞は何だか微笑ましく思えた。

菊之丞たちの頼んだたこ焼がテーブルに出てきた
とき、慶伊と雀蓮はクルハの厨房に入って行った。

積もる話でもあるのだろう。または冷やかしか揶揄う悪戯か。

転校したら毎日迎えに来そうだ...珊瑚が使われるのは決定か。

「いつもはクソ暑い中、外のベンチしか空いてないんだけど
 テストだから人がいなくてラッキィだった、屋根の下だあ」

はじめて店内に入ったかのように、史郎がはしゃいでタコ焼に
食いつく―桐吾は座って早々真っ先に、珊瑚は?と訊いてきた。

「俺と同級生になりたいとか言って飛び級するため缶詰だ
 そうだ。多分、帰って来ない。それより教科書出せよ?」

え、と言いながら桐吾は鞄から教科書を取り出して―同級生
て何?飛び級?そんなこと出来んの?と身を乗り出して訊く。

転校を決めていないので珊瑚が同級生になるといったその発端
を話せなくて―菊之丞はスルーして、勉強しようよ?と言った。






ZENもくじ ZEN【119】につづく。





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