元フロントスタッフ兼仲居頭のお宿備忘録

お宿の従業員とお客様両方の視点を得た自分の備忘として実際にうかがった【お宿の魅力】を書き残していきます。

【千葉県鋸南町・安房温泉】安房温泉 紀伊乃国屋

2023-04-15 15:59:43 | 旅館

ご無沙汰の投稿になってしまいましたが、

そして、千葉県のお宿続きで恐縮ですが、

第2弾は、

 

千葉県鋸南町・安房温泉「安房温泉 紀伊乃国屋」さん

(以下、紀伊乃国屋さんと呼ばせていただきます。)

 

を紹介させていただきます。

(本屋さんやスーパーの「きのくにや」さんとは無関係です。たぶん。笑)

 

千葉に紀伊乃国屋さんという勢いがある素敵なお宿がある…と

数年前から気になっていたのですが、

なかなかお邪魔するタイミングに恵まれず、

ようやくご縁をいただくことができました。

 

ちなみに、紀伊乃国屋さんは「紀伊乃国屋グループ」さんのお宿の一つで、

紀伊乃国屋グループさんは、「お宿ひるた」さん、「さざね」さんなど、

千葉県鋸南町で現在6つのお宿とサウナカフェを展開されています。

どのお宿も魅力的だったのですが、

まず初めは、紀伊乃国屋グループさんの原点というか

ベースと思われるお宿を体験してみよう!ということと、

単純に旅行日の空き状況から(笑)、

「安房温泉 紀伊乃国屋」(本館)さんを利用させていただきました。

 

※今回書かせていただく内容は2023年4月時点のものとなります。

 お宿のサービス内容や施設・設備は日進月歩で変化していきますので

 予めご了承ください。

 

「こんなところに温泉旅館ある?」と思うほど、

普通の住宅街のなかにあるのですが、

その住宅街の雰囲気に馴染んだ設えの玄関の暖簾をくぐり、

格子にすりガラスで中が見えない自動扉が開くと、

小上がりに正座をし、深々とお辞儀をしたスタッフの方のお姿が。

「この日本旅館伝統のお出迎え、久々だなぁ…。

町の雰囲気に溶け込んだ外観もそうだけど、

ちょっと京都の旅館を思い出すな…。」

と、ちょっとした驚きと感慨、

と同時に、

 

日本旅館の文化を大切にしているお宿なのだな…

さすが、一目置かれているお宿!

 

と期待が膨らみました。

 

元は民宿を営まれていて、

20年あまり前に紀伊乃国屋さんとしてリニューアルされたとのことで、

建物のベースは年季を感じますが、古き良き日本旅館の趣は残しながら、

古くささは感じない、落ち着いた和モダンの内装にうまく改装されていて、

通路や階段の踊り場にディスプレイとして飾られた日本酒の瓶も

センスが光っていました。

こういう風に改装すると、こんなに素敵で居心地の良い空間になるのかぁ…と

とても勉強になり、あちこちキョロキョロ見回してしまいました。

 

客室にご案内いただき、扉を開けると、

正面に華やかに生けられたお花がお出迎え。

これもまた、最近は少なくなりましたが、

日本旅館の伝統文化の象徴ですね。

お宿側の視点で恐縮ですが、

毎日活き活きとしたお花を各客室に用意するのは、

手間もコストも結構かかります。

それよりもリーズナブルにお客様に宿をご利用いただくことを優先し、

また世の中的にもそういうことに重きを置かない風潮に

なってきていることもあり、

そこに労力とコストをかけなくなったお宿も多いと思いますが、

やはり、こういう心遣いを目にすると、

お宿がお客様を大事にしている思いが伝わってきて嬉しくもなり、

頑張ってるなぁ…、きちんとした旅館だなぁ…と感服してしまいます。

少々値が張るお宿では、お客様の到着前と翌朝の朝食時に

お花を生け直したりするところもあります。

何気なく飾ってあるお花ですが、

「当館をご利用いただき、ありがとうございます。

私達も精一杯務めさせていただきますので、

どうかごゆっくりとお寛ぎください。」

というお宿の心からのメッセージがひっそりと込められています。

日本文化は粋で素敵です。

 

お部屋の中も伝統的な和室のスタイルでありながら、

壁や引き戸、洗面周りなどは綺麗に改装されていて、

古さと新しさのバランスが程よく、

家にいるかのようにゆっくりとできました。

全7室のお宿ですが、最近にしては珍しく、どのお部屋も喫煙可能ですので、

愛煙家の方にとってはさらにゆっくりと寛げますね。

匂いへの敏感さは個人差があるので絶対とは言えませんが、

お部屋に入った時、たばこの匂いを感じた記憶はないので、

恐らく嫌煙家の方も問題なく寛げると思います。

 

そして、何よりも感心したのが、行き届いたお掃除!

もちろん、どのお宿も一生懸命お掃除をしていると思いますが、

前日のお客様のチェックアウト後、

当日のお客様のチェックインに間に合わせることが至上命題のため、

どうしても毎日は清掃・メンテナンスが行き届かないところが

出てきてしまうものだと思います。

例えば、ちょっとしたサッシの隅とか、照明の傘の中とか、

欄間とか天井とか、障子や襖のちょっとした穴とか…。

定期的に、大掃除的に清掃・メンテナンスはするものの、

毎日そこまではなかなか手が回らない…というのが現実だったりします。

でも、紀伊乃国屋さんは黒い塗りの天井もピカピカ。

照明の傘の中にゴミの陰も見当たりません。

意地の悪い姑のように隅々まで見回ったわけではありませんが、

パッと目を向けた隅っこに

埃が溜まっているということはありませんでした。

 

もしかしたら、定期的な大掃除をしたばかりだったのかもしれませんが(笑)、

恐らく、あれだけぬかりなく清掃が行き届いているということは、

日頃から清掃とメンテナンスをしっかりとされている証だと思います。

そして、お客様に快適に寛いで滞在していただこうという気持ちを

スタッフの方一人一人にしっかりと教育され、

またスタッフの方達もそういう気持ちで丁寧にお仕事をされている。

そうでなければ、あの天井の輝きはないと思います。

布団に横になった時に見上げた天井の黒光りは圧巻でした。(笑)

 

お花やお掃除など細かい点ではありますが、

この価格帯でこのクオリティの高さでの運営は、

従業員を含めた企業努力の賜だと思います。

旅館業に真摯に取り組み、

何よりもお客様のことを考える企業理念が

透けて見えるような気がしました。

 

温泉旅館の楽しみのひとつ、お風呂はというと、

元々民宿を営まれていた名残だと思いますが、

客室内に浴室はありません。(お手洗いはあります。)

館内に男女交代制のお風呂が2ヶ所と貸切風呂が2ヶ所あり、

貸切風呂は無料で各1回利用させてもらうことができます。

 

男女交代制のお風呂は2~3人程度で利用可能の少し小ぶりの内湯が1ヶ所と、

ゆったりとした露天風呂が1ヶ所で、

その2ヶ所が時間で男女交代になります。

露天風呂は洗い場も露天なので、利用する季節などによって、

時間やタイミングをうまく調整すると快適だと思います。

 

貸切風呂も2人定員程度の小ぶりの内湯が1ヶ所と、

屋上にあり、空を見上げられる広々とした露天風呂が1ヶ所。

こちらの露天風呂も洗い場は室外です。

 

「温泉宿の大浴場」をイメージしてしまうと

少し狭い気がしてしまうかもしれませんが、

客室が全7室で、

各お部屋ごとに貸切風呂を40分×2回利用できることを考えると、

キャパシティとしては十分と言えるかと思います。

私が宿泊させていただいた際も、15:30頃にチェックイン、

なんだかんだしているうちに16:00過ぎくらいになってしまい、

そこから男女交代制のお風呂を利用し、夕食をいただいたり、

さらに貸切風呂を2回利用させていただいたりすると、

少し忙しいくらいでした。(苦笑)

貸切風呂2回の利用だけでも温泉を十分に楽しめると思うので、

私が宿泊した日も恐らく満室だったと思いますが、

男女交代制のお風呂で顔を合わせたのはお二方だけでした。

すれ違い、すれ違いでうまい具合に脱衣所、洗い場、浴槽の使用が

少しずつずれていたので、気を遣うことはほとんどなく、

ほぼ貸切のような状態で利用させていただくことができました。

 

貸切風呂は全7室に対して十分な時間枠を工夫して設定してありましたが、

そうは言っても貸切風呂、

チェックイン時に空いている時間枠のなかから選ばなければならないので、

なるべくご自身の希望の時間に利用されたい方は、

早めのチェックインをお勧めします。

 

4ヶ所のお風呂のなかで私が最も気に入ったのは、貸切風呂「月見の湯」。

屋上デッキのような雰囲気の広々とした空間が

高めの塀で囲まれているのですが、

見上げると360度空だけで、他に視界を遮るものがありません。

私は晴れた夜に利用させていただいたのですが、

 

まさに「月見の湯」。

 

温泉でぬくまりながら、顔に触れる空気はひんやりと気持ち良く、

虫や蛙の鳴き声しか聞こえない静寂のなかで、

暗闇に煌々と光る月と星を見上げる。

音も光も景色も無駄に邪魔するものがありません。

こういう露天風呂は、ありそうで意外とない気がします。

自然と深呼吸をしてリラックスし、

しばし幸せな無の時間に身を委ねていました。

 

安房温泉は、紀伊乃国屋グループさんが掘削し、

平成元年に誕生した温泉とのことですが、

海岸の温泉の特徴の一つである

塩化ナトリウム(つまりは「塩」ですね。笑)の含有量が多く、

肌のダメージを回復させてくれるメタホウ酸、

保湿効果のあるメタケイ酸も含まれており、

「美肌の湯」として知られているそうです。

聞いただけで肌がつるつるしてきそうですが、

私の肌が元々このナトリウム-塩化物系温泉と相性が良いせいもあったのか、

濾過循環しているとは思えないほどの質の高さでした。

つるつるとしたお湯の肌触りを存分に堪能させていただきました。

是非またリピートしたい温泉の一つです。

 

そして、温泉旅館のもうひとつの楽しみであるお食事ですが、

夕食は一律で18時開始、そして最近では少なくなったお部屋食です。

私の部屋は研修中らしき外国人スタッフの方が

配膳を担当してくださいました。

敬語が少し難しい様子だったり、多少片言なところはありましたが、

よくこれだけ専門的なお料理の単語を覚えられたな…と驚くほどで、

一生懸命やってくださいました。

 

最近は旅館も外国人スタッフの方がだいぶ増えましたが、

「日本旅館に来たのに外国人が対応するの?」と

まだ抵抗がある方も少なからずいらっしゃいます。

その違和感、疑問はごもっともかと思います。

ただ、昨今の旅館事情としては、常に人手不足に悩まされるなかで、

日本文化、日本旅館に興味を持つ外国人スタッフの方に

支えられている一面があることは事実です。

 

旅館の仕事は傍目から見る以上に重労働で、

お客様の一日の生活をお預かりするようなものなので24時間営業同然、

勤務時間、実質的な拘束時間も長くなりがちです。

それなのに賃金相場が低いと言われる業界です。

賃金を上げたいと思っている経営者もいると思いますが、

旅館は人で成り立っている業界なので、

賃金を上げ過ぎると利益が出なくなってしまい、

旅館が倒れてしまっては本末転倒…。

そう簡単には実現できません。

そんなこんなで旅館の仕事は敬遠されがち、

いったん入社してくれても、

想像以上に苦労の多い仕事内容を凌駕する

モチベーションや目的のある人でなければ、

なかなか続かないことが多いのが実情です。

 

一方で、ここ数年、旅館で働きたいという外国の方が

本当に増えた印象があります。

もちろん、様々な思惑があったり、

問題やトラブルを含むケースも少なくはないと思いますが、

日本文化に興味があり、それを学べる日本旅館で働きたいと、

正座すらしたことのない外国の方が、

難しいと言われる日本の敬語を勉強し、

日本人でさえ今は馴染みのないような旅館用語を必死に覚え、

ときには日本人でもあまり知らない日本文化を

知るようになっていたりすることもあります。

また、外国の方を指導する側も楽ではありません。

下手をすれば、仕事に対する考え方・心構えから文化が違うので、

日本旅館の作法・マナーまで指導して、

一人でもお客様の前に出られるよう、

一人前に育てるまでには大変な労力が必要です。

日本人を育てるほうがはるかに楽な場合が多いです。

でも、そうしなければ旅館の運営が成り立たない現状があります。

そういう苦労を経て、外国人スタッフの方はお客様の対応をしています。

 

考え方や感じ方は人それぞれでいいと思いますし、

どの考え方が唯一正しいというものではないと思っていますが、

私は旅館で外国人スタッフの方にお会いすると、

「日本の旅館を支えてくださりありがとうございます。

是非細く長く頑張ってくださいね!」

と心の中で呟いてしまいます。

 

(ちなみに、紀伊乃国屋さんが人手不足かどうかは定かではありません。

ただ純粋に文化交流などのために

外国の方にお仕事をしていただいているのかもしれません。

あくまでも、上記は一般論としてご理解いただければ幸いです。)

 

夕食には基本プランで舟盛り、アワビの踊り焼き、金目鯛の煮付けなど、

千葉の海の恵みをいただくことができます。

私たちはグレードアップして

千葉県産ブランド牛『彩美牛』の鉄板焼き

が付いたプランにしたのですが、

「もうこれとご飯だけあれば、一食分、十分じゃない!?」

と思うほどのお肉が出てきて目が点でした。(苦笑)

他の美味しいお料理を既にたらふくいただいた後だったので、

「こんなに食べられないなぁ~」と言いながら食べ始めたにもかかわらず、

サシがふんだんに入っているのに脂っこ過ぎず、甘くて柔らかくて、

意外にもペロッと完食してしまいました。

基本プランでたいていの方にとっては十分な量の

美味しいお料理をいただけますが、

千葉の沿岸ということでお魚料理が中心になりますので、

「でもやっぱりお肉も食べたい!」という方や

「ボリューム満点のお料理をいただきたい!」という方にはお勧めです。

 

そしてさらに印象的だったのは朝食です!

席についてから出してくださる湯気の立った出来たてふわふわの卵焼きと

肉厚で味の濃い立派なアジの開きが絶品でした!!

 

卵焼きはお箸で割るとじゅわ~っと出汁が溢れ出し、

お醤油を垂らした大根おろしと一緒にいただくと、

バランスの良い甘みと塩味、大根おろしのさっぱり感が口の中に広がり、

朝から思わず笑顔になってしまいました。

 

アジは千葉の海の名産の一つですが、

紀伊乃国屋さんは毎朝館主の方が

漁港で直接お魚を仕入れていらっしゃるそうで、

さすがの鮮度、さすがの味わい、さすがの食べ応えでした。

朝食は大広間で7:30~8:00の間に席につくというスタイルでしたが、

あちこちの席から、

「このアジ、立派だね~」、

「このアジ、身が厚くてふわふわだね」、

「このアジ、味がしっかりしてるね~」

という声が聞こえてきて、

会場全体がアジにざわついていました。(笑)

 

みなさんも紀伊乃国屋さんをご利用の際は、

是非少し早起きをして、お腹を空かせて朝食会場へ行かれてください!

 

どこか懐かしいような、でも洗練された快適な客室は、

一晩過ごすとすっかり自分の家にいるかのように馴染んできて、

「あ、家に『帰る』んだっけ?」と

ちょっと不思議な気持ちでチェックアウトしました。

 

玄関へ向かうと、夕食をご担当くださった外国人スタッフの方がいらして、

到着時同様、小上がりに正座をし、丁寧なお辞儀で見送ってくださいました。

 

商売というのは、

基本を忘れず忠実にやっていくのが一番だなぁ~…と

つくづく思いました。

お客様を大事にし、お客様の立場に立って考え、

食料品店さんは新鮮で美味しい食材を売り、

衣料品店さんは丁寧にしっかりと造られた服を売り、

車屋さんは性能が良く、故障の少ない車を造って売り、

飲食店は美味しい料理を提供し、

旅館は快適な滞在を提供する。

それを忘れなければ、たとえ他のお店より多少価格が高くても、

お客様は集まり、商売は発展していく。

様々なお店を見ていて、いつもそう思います。

今は個性的なサービスやオリジナリティが話題を呼ぶ時代ですが、

それはあくまでもしっかりとした基本の上に成り立っていなければならず、

確固たる土台のないオリジナリティはあっという間に見透かされ、

飽きられて、お客様はすぐに離れていってしまいます。

 

紀伊乃国屋さんは若いスタッフの方がほとんどでしたが、

どこで顔を合わせてもしっかりとお客様と向き合い、

丁寧に穏やかな笑顔で挨拶をし、

温かく柔らかい口調で説明をしてくれ、

こちらも自然にゆったりとした心持ちになり、

寛いで滞在を楽しむことができました。

サービス、清潔感、お料理、温泉、そして日本文化という

温泉旅館の基本をなに一つないがしろにせず、

当たり前のことを当たり前にやり、あるべき姿をしっかりと守られている。

それがとても心地良く、何か奇抜な体験をしたわけではなかったのですが、

非常に満足して滞在を終え、また是非うかがいたいと思いました。

 

どんなお仕事も同じだと思いますが、

当たり前のことを当たり前にやるのは、

毎日のこととなると意外と難しい。

もしかしたら、一番難しい…?(苦笑)

「当たり前」のことなのに、

「当たり前」だからこそ慣れてしまって、

適当になってしまったり、手を抜いてしまったり…。

 

紀伊乃国屋さんには快適に滞在させていただいたうえに、

とても大切なことを改めて勉強させていただきました。

どうもありがとうございました。


【千葉県鴨川市・小湊温泉】魚彩和みの宿 三水

2023-03-05 17:55:26 | 旅館

最初のご挨拶から時間が経ってしまいましたが、

本題の第一弾は、

「関東で美味しい魚料理が食べたいね~」

という話しから利用させていただいた

 

千葉県鴨川市の小湊温泉「魚彩和みの宿 三水」さん

(以下、「三水さん」と呼ばせていただきます。)

 

を紹介させていただきます。

 

みなさんのご記憶にもまだ新しいかと思いますが、

千葉県の特に沿岸部は2019年(令和元年)9月に台風15号が猛威を振るい、

甚大な被害を受けた地域です。

残念ながら、その損害により廃業を決断したお宿もあったことと思いますが、

その苦難を乗り越え、

改修・改装を経て新しく生まれ変わった良いお宿が増えている地域でもある、

という話しを聞いていました。

 

三水さんは、2017年から少しずつリニューアルを進めていたそうなので、

台風の影響による改装の話しとは無関係かもしれませんが、

リニューアルによりグレードアップを果たされた(現在も進行中なのかも?)

お宿の一つだと思います。

 

国の天然記念物「鯛の浦」遊覧船の船着き場に隣接し、

「誕生寺」さん総門の本当に目の前なのですが、

派手な看板などは出されていないので、

のどかな漁港の風景にすっかり馴染んでいて、

一見、どこにお宿があるのかわからないくらいでした。

 

ところが、入り口の暖簾をくぐると、

洗練された落ち着く和モダンの家に帰ってきたかのような、

安心感にも似た居心地の良さに一瞬で包まれました。

 

三水さんがHPで謳っていらっしゃる

 

「田舎の我が家へ、おかえりなさい」

 

が入り口から既に始まっていました。

 

そして、敷地が潤沢とは言えない場所でありながら、

あえて設けられている入り口からフロントまでの和の通路を進むうち、

お宿に到着した実感とともに、

日常から非日常の世界へ向かっているような高揚感も生まれ、

良く考えられた空間使いだなぁ…と

通ったばかりの通路を思わず振り返り、まじまじと眺めてしまいました。

(※あくまでも個人の感想であり、建築には疎いので、

デザイナーさんの意図は全然違うかもしれませんが。笑)

 

フロントデスクもコンパクトながら古民家のような落ち着いた設えで、

その脇にはまさに美術館のように商品をディスプレイした

おしゃれなギャラリーショップが広がっています。

 

そして、なんといってもおススメなのが、

そのショップの奥に構えられた

 

フリードリンクを備えたスタイリッシュなラウンジ

「三水茶房 ippuku」

 

です!

 

大きな窓から遊覧船の船着き場越しに見る海の景色、

お天気の良い日は

その海に沈んでいく夕陽(夕日百選に選ばれたそうです。)を見ながら、

フリードリンクのビールをきゅーっといけば、

贅沢な至福の休日気分を味わえます。

 

海もただ広々としているのではなく、

手前に小湊漁港や遊覧船の船着き場、

両脇に小高い崖が見えて湾岸の景色になっているのが

なんだか旅情を誘うのだと思います。

 

その景色を眼前にできるカウンター席、

幅広のソファー、大人数で談笑できるテーブル席など、

それぞれの楽しみ方で

ゆったりと時間を過ごせるスペースとなっていました。

 

フリードリンクのビールは、

隅田川沿いに本社を構えるビール会社さんのクラフトビールでしたが、

クラフトビールなのに癖がなく、柔らかいけど味がある。

ビールは乾杯の一口だけが美味しいと感じる私ですが、

なんとも美味しく、飲みやすくて、

ついつい二口、三口とちょっと飲み過ぎてしまうほどでした。

ただし、ビールのフリードリンクは15:00~17:00限定なので、

ビール好きの方は是非チェックイン開始の15:00に

到着されることをお勧めします!

 

もちろん、アルコールが苦手な方もご安心ください。

ビール以外にも、コーヒー各種、

季節替わりのオリジナルブレンドのお茶やハーブティー、

アイスキャンディがフリーで提供されています。

しかもこれらは15:00~23:00及び翌朝6:00~9:30まで利用可能だそうです。

オリジナルブレンドのお茶関係は

一つ間違えると癖が強くなってしまったりしますが、

こちらもとても飲みやすく、ホッとする味わいのものばかり。

私も癖の強いものは苦手ですが、美味しくて何杯もいただいてしまいました。

 

フリードリンクの提供は、維持・管理のオペレーションやコスト、

ドリンクの検討・選択決定など悩ましい点も多く、

「無料であれば、多少のことはお客様も許してくださるはず」

という甘えから、少々雑な内容になってしまうことも少なくありません。

でも、三水さんはお宿の売りとなるロケーションに、

おしゃれなサーバーやカップ類を備え、

オリジナル、かつ、なんと言っても「美味しい!」ドリンクを

バランス良く揃えられていて、

かなり力の入った質の高いフリードリンクでした。

お客様の満足度もさぞ高いことと思います。

どちらかというと観光をするよりも、

お宿でゆったりとする旅が好きな私としては、

このラウンジ目的で三水さんにまたうかがいたいとさえ思いました。

 

そして、お部屋も快適な滞在のための気配りが行き届いていました。

恐らく建物のベースは年季の入ったものだと思うので、

館内通路やエレベータが少し狭く感じたり、

館内階段もレトロな印象はありましたが、

客室内は旅館のぬくもりとホテルの快適な居住性の両方を兼ね備えた

新しい造りです。

 

今回はお料理目的で、温泉には重きを置いていなかったので、

別邸の温泉付き客室ではなく、

本館海側のシャワーブース付き和洋室を利用させていただきました。

幅広でゆったりと休めるベッドが2台あり、

鯛ノ浦を臨む窓側のスペースは6畳程の畳敷きですが、

そこにソファーや椅子が置かれています。

ソファーもあえてシンプルだからこそ、

ゴロンと横になってもしっくりときて、

いつまでもゴロゴロしていられました。

デザイン性と機能性の両方を併せ持った椅子も座り心地が良く、

一度腰を据えてしまうともう立ちたくありません。

 

でも何より、ソファーや椅子に座っても、

素足の足下に感じる畳が心地いい!

若い時は畳の良さがわからず、自宅にも和室はいらないと思っていましたが、

40歳を超えてたまたま和室のある家に住んでみて、畳の良さを痛感しました。

フローリングに直接ゴロンとなろうとは思わないですが、

畳はなんだかゴロンとなりたくなり、

そして寝転んだ時の安堵感と解放感。

夏は涼しく、冬は温かい感触。

やっぱり私、日本人だなぁ~と思うとともに、

畳という知恵・文化を生み出した先人に畏敬の念すら覚えます。

 

ベッドやソファーという現代に合わせた機能性・居住性を取り入れつつ、

旅館や日本の伝統文化である畳は残している設計がとても気に入りました。

 

また、照明も心地よい空間づくりに貢献していました。

メインは程よい間接照明で、暗すぎず、明るすぎず、

ストレスなく、ゆったりとした気分で過ごすことができました。

もちろん、ベッドサイドには手元用の照明もあり、

椅子の傍には読書用と思われる背の高いスタンドも備えられていたので、

必要に応じて明るさをプラスできます。

デザイン性と快適性、実用性を兼ね備えた照明づくりは、

簡単なようで意外と難しいのですが、

ここでもまた三水さんの「お客様満足の追求」が見えた気がしました。

 

そして、特に女性の方は、

何気なくチェックしてしまうお部屋のアメニティですが、

今回のお部屋にはMARKS&WEBさんの化粧水等が置かれていました!

個人的にMARKS&WEBさんの商品が好きなのと、

お宿側の立場に立つと、

どうしても業務用アメニティのほうがコスト・手間的に都合が良いので、

MARKS&WEBさん(恐らく業務用商品はないと思うのですが…)を

置いているとは!!と驚きと喜びで、

それだけでもテンションが上がってしまいました。

 

その他にも、

  大浴場・貸切風呂等に持って行ける荷物用カゴバックもおしゃれ。

  浴衣と作務衣の両方がお部屋にあり、好きな方を利用できる。

  大浴場もお部屋もドライヤーは

  パナソニックさんの大風量のナノイーを採用。

  お客様の視界に入らないよう、

  テレビ等の配線や恐らくWifiのモデム等も棚の中に格納されている。

などなど、あげ始めると切りがないですが、

一つ一つ丁寧に張り巡らされた気遣い。

そうありたいとは思っても、それを実現するのは容易でないことも多いです。

三水さんの努力に頭が下がる思いでした。

 

お料理目的でうかがったのに、特筆したいことが多すぎて、

既にだいぶ長くなってしまいました。(苦笑)

 

お夕食では、千葉県の名産・アワビや伊勢エビを含むお造りの盛り合わせ、

金目鯛の煮付けなど、お魚の甘さや脂など素材の味わいも

もちろん堪能させていただきましたが、

印象的だったのは「ブリしゃぶ」でした。

しゃぶしゃぶするお鍋のつゆにオリーブオイルが加えられていて、

「ん?これはどんな感じになるの??」と思いながらいただいてみると、

和のだしと洋のオリーブオイルの見事なマリアージュ。

そして、それらとブリやお野菜とのさらに見事なマリアージュ。

 

温かいのだけれど、お魚やお野菜がオリーブオイルをまとって

カルパッチョ的な…。

でも、鍋つゆのだしのちょっと香ばしいような風味も加わって…。

結論は…美味しい!!

お鍋にオイルは初めての体験で、

「へぇ~…こんなふうになるんだ!?」と

ちょっと目を見開いてしまいました。

 

お魚は種類が多いので、素材が良ければ、

生・焼く・蒸す・煮るなどシンプルなお料理で

十分様々な味を楽しむことができますが、

それに甘んじることなく、さらにお客様の記憶に残るよう、

工夫・研究されている料理長さん、厨房のみなさんの思いが

垣間見える一品でした。

 

そして最近は、デザートは口直し程度に力作の一品を!、

というお宿も多いですが、

三水さんのデザートは、力作の三品を!と言わんばかりに、

スイーツ好きな方には嬉し楽しいボリュームで

お食事を締めくくってくれました。

私もご飯は、満腹で少しだけギブアップさせていただいたにもかかわらず、

俗に言う、「甘い物は別腹」でデザートはしっかり完食いたしました!(笑)

ごちそうさまでした。

 

前述のとおり、今回、温泉に重きを置いていなかったので、

ご参考になることはあまりお伝えできないかもしれませんが、

温泉・お風呂は気になる方も多いと思うので、

最後にわかる範囲で触れさせていただきます。

 

別邸は全室温泉付き、本館には貸切風呂が2ヶ所あるので、

大浴場はそれほど広くはないですが、

私が夜と朝各1回利用した際は貸切り状態でした。

(平日だったこともあるかもしれませんが。)

 

最近はみなさん、旅行に行ったら、多少高額でも、

プライベート空間で贅沢にお風呂もゆっくり楽しみたい、

という方が多いようで、

温泉や露天風呂付き客室とそうでない客室があるお宿では、

むしろ前者から予約が埋まっていく傾向にあるようです。

私が以前働いていた旅館もまさにその状態で、

特にコロナの影響が大きかった時期は、

露天風呂付き客室「しか」予約が入らないという日々が続きました。

(その旅館は温泉ではなかったにもかかわらず、です。)

 

三水さんもほとんどの方が別邸を利用されているようでしたので、

その傾向があるのかもしれません。

もしかして、本館に宿泊しているのは私達だけ?と思うほどでしたので、

おかげで大浴場を貸切ることができました。

 

大浴場は2ヶ所あり、朝夕で男女交代制でしたが、

いずれも脱衣所や半露天風呂はリニューアルされているようで、

コンパクトながらモダンで落ち着くデザインでした。

ただ、配置上、海を眺めたりはできませんので、

海を見ながらお風呂を楽しみたい方は、

別邸に宿泊されるか、貸切風呂を利用されることをお勧めします。

 

私もマニアの間では名湯と囁かれる温泉旅館での仕事が長かったので、

温泉の難しさ、大変さはそれなりにわかっているつもりですが、

湯量が豊富とは言えない千葉で温泉を提供されるのは

大変なご苦労があることと思います。

それでもお客様に喜んでもらえるようにと、

温泉を提供されている心意気に感謝しながら、

ぐだ~っと手足を伸ばし、のんびり浸からせていただきました。

 

泉質は日本の中でも希少で良質な温泉なので、

湯量が増える奇跡が起きるといいのですが…。

こればっかりは、自然のものなので祈るほかないのが悔しいですね…。

 

 

翌朝、また一つ、再訪したいと思えるお宿に出会えた喜びとともに、

離れがたい気持ちでお部屋を後にしました。

 

最後に玄関の暖簾を上げて見送ってくださった

若い女性スタッフさんの笑顔が、

お寺の門前にふさわしく穏やかな温かさに溢れていて、

後光がさしているかのように素敵でした。


はじめに

2023-02-13 18:49:38 | 番外編

はじめまして。

15年以上、様々な異業種で仕事をしていましたが、

旅館・ホテル好きが高じ、宿泊業界に飛び込んで7年。

その間に、仲居やフロントスタッフなどの経験を積み、

仲居頭を務めさせていただくこともありました。

 

現在は諸事情により仕事を離れていますが、

働く側の立場からも宿泊業界を見たことにより、

旅館・ホテルを見る視点も増え、視野も広がり、

興味はますます深まっています。

 

実際にうかがったお宿の魅力を自分の備忘として書き残しておくとともに、

お宿情報の参考になればと思い、ブログを始めました。

まずは、私のお宿の見方をご挨拶代わりに書かせていただきます。

 

お宿は他の企業様同様に様々な制約のなかで運営されています。

交通の便や広い敷地の有無などの立地条件、

観光スポットの多少や温泉の有無などの環境条件、

人手確保が容易な地域かどうか、

建物の新旧などなど…。

なかなか努力だけではどうにもできない制約もあります。

お客様が大切なお金を費やして来てくださるのだから、

宿に満足して喜んで帰っていただきたいと思ってはいるものの、

すべてをベストの状態でご用意することは難しいのが現実です。

温泉が出ない場所で良質の温泉を提供することはできないので…。

 

それでも、足りないものをカバーして、よりお客様に喜んでいただけるよう、

自分たちの宿の強み・魅力を積極的に活用し、努力しているお宿がたくさんあります。

そういった【お宿の魅力】を書き残していこうと思っています。

 

お金を払ってお宿を利用するお客様の立場からすれば満足できることは当たり前で、

満足いかないことがあれば不満・不快に感じることも当然だと思います。

ただ、私個人的には客の立場でお宿を利用する際は、

せっかく非日常を楽しみに行っているのだから、

ゆったりとした気持ちで些細なことはあまり気にせずに、

おおらかに過ごしたいと思っています。

怒りの感情って、自分もパワーが必要で疲れるし、

一度怒りの感情が湧いてしまうとその後しばらく負の感情に支配されてしまうので…。

なので、お宿側に多少の不手際や不具合があったとしても、

人のやることにミスは付きものだし、悪気があってやっているのでなければ、

受け流して自分の大切な時間を楽しむことにしています。

 

そして何より、「サービス」というのは正解がなく、

「万人を喜ばせるサービス」というのは本当に難しいものです。

社会人2年目の頃、後輩の新人くんがお店にお客様が入っていらっしゃると、

元気に大きな声で「いらっしゃいませ!」とご挨拶をしていました。

ほとんどのお客様が「元気で気持ちがいいね」と言ってくださいましたが、

ある時、あるお客様から、

「挨拶がうるさい。声が大きすぎて、圧をかけられているように感じる」

とのお声をいただきました。

 

同じ対応をしても、それを喜んでくださるお客様と不快に感じるお客様がいらっしゃる

 

という教訓を痛感した出来事でした。

 

旅館の同じお部屋にお客様をご案内していても、

「いいお部屋だね~」と喜んでくださるお客様とお叱りをいただくお客様がいらっしゃいます。

良かれと思って広いお部屋にグレードアップしておくと、

「こじんまりした部屋が好きなので、予約したとおりの部屋に変更してください。」

とおっしゃるお客様もいらっしゃいます。

 

お客様が求めている「サービス」は、本当に十人十色。

 

サービス業というのは本当に難しいと実感しましたが、

でも、だからこそ面白い。

 

そして、だからこそ、いろんなお宿がある意味があるのだろうと思います。

時には、自分の好みでないお宿を利用してしまうこともありますが、

それは、「良くないお宿」なわけではなく、

私の好みでなかっただけ、相性が良くなかっただけなのだと思うのです。

他の方にとっては、「好みのお宿」、「良いお宿」であっても全く不思議ではありません。

これだけたくさんのお宿があり、それぞれ工夫して特色を出しているのですから、

自分の好みに合うお宿を探して歩くことも私にとっては楽しみのひとつです。

 

私も、私なりの好みを持っているお宿好きの一人なだけなので、

それぞれのお宿のすべてをお伝えできるわけではありませんが、

あくまでも一つの参考情報としてご覧いただければ。

 

ちなみに、写真が得意ではないのと、

今の時代、写真はネット上に溢れていると思うので、

私は文章のみで失礼いたします。

 

最後に、コロナ禍で大きな痛手を負った宿泊業界へ復活と発展のエールを込めて。