121．I'M ONLY SLEEPING

【ALBUM "ANTHOLOGY 2"】

　
　"REVOLVER"では、様々な実験的要素が試みられたことは有名である。
'I'm Only Sleeping '（キー：Ｅ♭マイナー）でも、最初のテイクで
は「ヴィブラフォン」が採用された。このテイクは"ANTHOLOGY 2 "で
聴くことができる。

　この曲で私の心に響いたのは、Ｂメロのコーラスだ。特に、Ｂメロ
１～２小節めの「Ａ♭ｍ９」を構成する「Ｇ♭」「Ｂ♭」に感動だ。
コーラスのリズムといい、この音といい、1966年当時への憧憬といい
なぜかこの「音」にインパクトを感じるのである。
　リンゴも曲想に合わせ、スネアのチューニングをかなり落としてい
る。ボールのベースとシンクロさせたバスドラもこの曲の進行を的確
に支える、表現力豊かなドラミングとなっている。

ＭＵＮＤＡＮＥ　ＬＩＦＥ

　もしもいま、私が編集盤を企画することが許されたのならば、この
曲を含め、以下のような構成でアルバムをリリースしてみたい。

"MANDANE LIFE"
01.Nowhere Man
02.Dr. Robert
03.I'm Only Sleeping
04.Rain
05.The Word
06.Tomorrow Never Knows
07.Day Tripper
08.And Your Bird Can Sing
09.Hey Bulldog
10.Revolution
11.A Day In The Life

　偶然であるが、すべてジョンの曲である。やはり、社会への痛烈な
メッセージを発信する力は４人の中でもジョンがずば抜けているのだ
といえよう。

　朝早く目が覚める
　枕から頭を上げても起きられない
　まだまだ夢の中
　ベッドの中でふわふわ気分さ

　ジョンの詞作も"RUBBER SOUL "から比べ、さらに深みを増していく。
"REVOLVER"でジョンは、この曲の他に'She Said She Said''And Your
Bird Can Sing''Dr.Robert 'そしてこの時期のサイケデリックの代表
作ともいえるあの'Tomorrow Never Knows'を発表する。ジョンのヴォ
ーカルも、その詞作の深遠化とともに微妙に変化する。初期のストレ
ートな歌唱法がこの時期になると、ファルセットとストレートの間と
でも言おうか、的確に表現することが難しい「ハーフトーン」に変化
するのである。その境界は"RUBBER SOUL "と"REVOLVER"の間であると
私は考えるのであるが、この件についてはまた別にとりあげてみたい。

　お願いだから起こさないで
　ゆすらないで
　ほっといて
　このままただ眠っていたいんだ

　コンサート・ツアーに疲れ、朝起きられない、しかし無理やり起こ
される。この曲を最初に聴いた頃は、ビートルズの1966年のそのよう
な心情を歌ったものだという解説を読んだ。

　みんなボクのことを怠け者だと思っているみたい
　でもボクは気にしない
　あちこちあくせく駆けまわるなんてナンセンス
　そんなことに気がつかないみんなのほうがどうにかしているのさ

　社会人になるとこの曲からサラリーマンの生活を連想する。自分が
そうであるように。朝目覚ましで起き、食事もろくにせず駅へ走り、
すべり込んできた電車に突進する。電車の中は寿司詰め状態。昼間は
ノルマ達成のために、オフィス街をセカセカと分刻みのスケジュール
で走り回る・・・。

　お願いだから今日のボクの邪魔をしないで
　ボクはみんなとはかけ離れたところにいるんだよ
　で結局・・・
　このままただ眠っていたいんだ

　最近、私の考えの中では'I'm Only Sleeping 'に対する解釈を拡大
させている。もちろんジョンの意図とは異なる勝手な解釈である。

　世の中すべて。毎日余裕もなく、じっくり考えることもなく、そし
て、相手の気持ちを察することもなく、ただ自分の考えを相手に対し
一方的に押し付けようとする。そして、自分の思い通りにならないと
我慢できずに、「マイナスの行動」へと走ってしまう・・・。

　窓の外で移ろいゆく世の中を絶えず気にはするけど
　マイペース・マイペース
　そのまま横になって天井を見つめる
　このままじっとしていると再びまどろみが・・・

　'I'm Only Sleeping '。非常に考えさせられる「深い曲」である。