千歳市にいる。
空っぽの心はよく響き、その心の空洞に重たい毛布のような不安をいれるとその大きな音にミュートがかかる。
ふとしたときにはいつも、僕たちは大なり小なり悩みを抱えている。
常に不安を抱えているのは、心が強く響きすぎるのを恐れているから、なのかもしれない。
繁忙期のようなものが過ぎて、川下りの途中に落雷があったらどうしようという不安は今年も杞憂に終わろうとしている。
カヌーがひっくり返ったらどうしようとか、増水してたらどうしようとか、お客さんが全然楽しめなかったらどうしようとか、このまま天涯孤独だったらどうしようとか、気がつけばそんな不安を常に抱えている気がする。
情報があふれる世の中は、不安を取り除く方法をありとあらゆる媒体を通して教えてくれるが、僕はこの不安を誰かに譲るつもりはない。
「不安の9割は杞憂に終わる」
手元の黒い物体が映し出すこの言葉には、きっと沢山の人が救われている。
それでも、それをわかっていても僕らは不安になるのだと思う。
この星で一番種類と数が多い動物は節足動物だ、もっと細分化すればそれは甲殻類や昆虫になる。
彼らは大脳(中枢指揮系統と主な記憶を保存する器官)を持たない。※ちなみに記憶がないということはない、学習もある程度する。
大きな指揮系統を持たない彼らは、外部の情報処理を手や足、触覚などの末端器官に依存する。
体全体で捉えた危険信号を、大脳を介さずに各部位の独立した神経節の条件反射で対処しにいく節足動物は、俯瞰的には自分がどんな状況に陥っているのかあまりわかっていない。
そんな彼らには、自分が置かれた現状に対して蓄積された知識を介して不安を覚えることは少ない、ただ来たものや、そこにあるものに対処、処理することに長けている彼らこそほんとうの意味で今を生きているのだ。
一方で先祖を重んじて大脳に保存された記憶を頼りに、次へ、次へと(物語を通して)世代を繫いでいく僕たち哺乳類(人類)が、他のどの種族よりも多くの種類を反映させた節足動物に対して、「大脳をもたない」という理由だけで劣等種であると決めつけるのはあまりにも傲慢であるように思う。
前置きが長くなったが、不安は哺乳類が獲得した危機管理能力という類の生存技術である。
群れで生活する動物が「寂しい」という感情を発達させるのと同じだ。
哺乳類は節足動物より反射神経が劣っている。
だから遅れを取らないように事前に危機を予測する、予測により試算された結果が映像として脳内に映し出される。
それが不安の正体なんじゃないかと思っている。
・・・てな感じで、今は節足動物について調べているのだけれど、この話がどうやったら面白くなるのかを模索しているが、全然わからない。
この情報を羅列されただけの時点で既に面白がれる人は学者気質だと思う。
多くの人はこれを聞いたところで「でぇ?」となる。(気がする)
僕たち人間の意識は乱世になればなるほど「今」にフォーカスされ、治安が回復すればするほど「未来」にフォーカスされるようになる。これは歴史を学べばそれなりに伺える。
未来にフォーカスしたほうがいい。という話ではない。
今を生きることに集中し続けた節足動物が、5億年の時間を生き続けているので、そっち(節足動物)が正解!と言われても10000年そこそこの歴史しか持たない人類には反論が難しい。
時の洗礼を受けてもなお生き続けるのは、彼らが生物として限りなく優秀な証拠になりえる。
僕らは節足動物にはなれない、しかし節足動物にはない喜びもあるに違いない。
例えば節足動物には「思い出」がない。
思い出を保存するのに脳の容量が足りないのだ。
思い出が作れない彼らには同窓会がない。
そもそも記憶を蓄積する能力が乏しい節足動物たちが長生きするメリットは少ない、高齢者を重んじる文化は、記憶を価値として保存できる生き物ならではであるから、今を生きる彼らは、各個体の寿命が短い。
早い話が節足動物に同窓会をしている暇などないのだ。
・・・だんだんわけがわからなくなってきたのでまとめに入る。
1、不安は生きていくために必要な機能で、それが過度に反応して身体を壊してしまうことがあるだけ。つまり正常。
2、哺乳類と節足動物は五億年以上前に袂を分けたかなり遠い種族であり、女子(時々男子)が「やだー、虫キモーイ」というのは、身体の構造から脳の仕組み、行動のきっかけまであらゆるところが違っているせいである。そのことを認識せず、同じ生き物だから、と心のどこかで理解できるかもという可能性を模索しているから、つまりあなたが優しいからだ。(個人の意見です。書いてたら少しずつ違う気もしてきた)
3、同じ節足動物でも甲殻類より昆虫のほうが嫌われがちなのは、昆虫が人間と同じ陸上にいるからだ。やつらは陸にいながらも行動が予測しにくい、なおかつ動きが異様に速い。昆虫でも嫌われるのはだいたい速い奴らか毒を持つ奴らだ。カブトムシが人気なのはそのどちらでもないからだ。甲殻類は水中だとめっちゃ速い。一方でザリガニが子供達に人気なのも、甲殻類の中では比較的動きが遅いからで、もし人間が海の生き物であれば、嫌われるのは甲殻類の方だったかもしれない。
4、ラジオのザリガニ編の台本作りがめっちゃムズいので今回の節足動物ことで「ここ意味わかんなかった」とか言ってくれるとすごく嬉しいです
5、気がついたらこんなことを書いていたが、もともとこんなことを書く予定ではなかった。今月からまた少しずつ時間ができるので、近いうちに今日書く予定だったことはまた書きたい。
6、書かれるはずだったのに、一度は打ち込まれたはずの書かれなかったたくさんの言葉たちが、僕の中には存在している。そんな言葉たちが再び日の目を見るのかはわからない。けれど、そんな「書かれなかった言葉たち」に僕は確実に支えられている。