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“人を殺して死のうと思った”事件続発、「孤立を防げ」の連呼が逆に危険な理由

2022-02-06 15:30:00 | 日記
下記の記事はダイアモンドオンライン様のホームページからお借りして紹介します。(コピー)です。

少年が通っていた高校のコメントは「模倣犯」を生みやすい!?
東京大学前の歩道で高校生の男女と男性の3人が刃物で切りつけられた事件で、逮捕された17歳少年が通っている進学校の対応が称賛されている。
事件の翌日、「保護者・学校関係者の皆さんにご心配をおかけしたことについて、学校としてお詫びをします」というコメントを出すとともに、「勉学だけが学校生活のすべてではないというメッセージ」をコロナ禍で生徒たちに、しっかりと届けることができなかったと反省の弁まで述べたのだ。
これを受けて、ネットやSNS上で「学校側として言える最善のコメント」「危機管理体制がしっかりしている」などとベタ褒めされている。


仕事柄、多くの学校の危機管理に関わってきた経験がある筆者もこれにはまったく同感だ。誰に対して、何について謝罪をしているのかということも明確だし、反省から再発防止まで、紋切り型のコピペ文章ではなく自分たちの言葉でしっかりとまとめられている。
ただ、「学校の危機管理」ということをちょっと脇に置いて、「模倣犯を出さない」という視点から見ると、この高校の出したコメントはやや問題がある。次のように「言ってはいけないこと」まで言及してしまっているからだ。
 <『密』をつくるなという社会風潮のなかで、個々の生徒が分断され、そのなかで孤立感を深めている生徒が存在しているのかもしれません。今回の事件も、事件に関わった本校生徒の身勝手な言動は、孤立感にさいなまれて自分しか見えていない状況のなかで引き起こされたものと思われます。>
「これのどこが悪い!教育者らしい的確な分析ではないか!」というお叱りを受けるかもしれないが、この手の事件が起きた際、「孤立によって引き起こされた」などと原因を推測したり、「孤立を防げ」などと声高に叫ぶことは、少年と同じような心理状態に陥っている人にかえって悪影響を及ぼす恐れがあるのだ。
見ず知らずの他人を傷つけているので「少年による刺傷事件」だと勘違いしている人も多いが、今回の少年がやったことは「拡大自殺」と呼ばれる自殺の形態のひとつだからだ。
なぜ原因を推測で言ってはいけないのか
メディアでもちょこちょこ報じられるようになったのでご存じの方も多いだろうが、「拡大自殺」というのは、人生に絶望したり、社会に憎悪を抱いたりした人が、無関係の人を大勢巻き込む形で自殺を図ることだ。昨年10月の京王線刺傷事件や、年末の大阪で24人が犠牲になったクリニック放火事件もこの「拡大自殺」だと言われている。
と聞くと、「やはり日本でも格差が広がって社会が分断されているからだ」と感じる人もいるだろうが、これは近年になって急にあらわれた現象ではない。
古くは昭和13年に、岡山県の山村で男が親族や近隣住民を次々と猟銃で殺害し、最後に自殺をした「津山30人殺し」なども、凶行前に遺書を準備していたことから「拡大自殺」だったと言われている。これ以降も、「死にたい!」と叫びながら、見ず知らずの人を切りつけるような「拡大自殺」事件は定期的に発生している。今回、事件を起こした17歳少年もその系譜である可能性が高い。「人を殺して罪悪感を背負って切腹しようと考えた」と言っているからだ。


さて、では今回の事件が「拡大自殺」だったとしたら、なぜ「孤立感にさいなまれて引き起こした」みたいに、原因を推測で言ってはいけないのか。
WHO(世界保健機関)の「自殺対策を推進するために メディア関係者に知ってもらいたい 基礎知識 2017年最新版」から引用しよう。
「有名人の死を報道する上で自殺の原因がすぐにはわからない場合は注意が必要である。有名人の死として考えられる原因を、メディアが不確かな情報に基づいて推測することで悪影響を及ぼす可能性がある」
どんな悪影響かというと「影響を受けやすい人による模倣」、つまりは後追い自殺だ。
例えば、有名人が自殺してメディアが「恋人に別れを告げられて絶望した」「育児ノイローゼが引き起こした」などと原因を憶測で報じてしまうと、その有名人のファンで、なおかつ失恋したり育児のノイローゼになっていたりする人は影響を受けて、亡くなった有名人と自分を重ねて、同じ行動に走ってしまうケースがあるのだ。


実際に、いのち支える自殺対策推進センターによれば昨年、2人の著名人が自殺してから10日間程度、自殺者数が急増しているという。特に衝撃的なのが次の分析だ。
「自殺日を含めた10日間で、約200人が女性俳優の自殺・自殺報道の影響を受けて亡くなった可能性がある」(厚生労働省 著名人の自殺に関する報道にあたってのお願い 令和3年12月19日)
「拡大自殺の後追い」が起こる可能性
さて、ここまで言えば、なぜ、今回の少年が東大前で他人を切りつけた原因を「孤立感にさいなまれて引き起こした」などと推測で語ることを避けるべきなのか、ご理解いただけたのではないか。
今回の少年がやったことは「拡大自殺」という自殺の一種なので、「模倣」や「後追い」を防ぐためには情報発信には細心の注意を払わなくてはいけない。有名人の自殺のようにセンセーショナルに報道をしてさまざまな憶測が飛び交うようであれば、当然「影響を受けやすい人による模倣」が引き起こされてしまうからだ。
例えば、今回のような事件でマスコミの“動機予想合戦”が繰り広げられて、「孤立感にさいなまれて自分しか見えていない状況のなかで引き起こされた」というストーリーが社会に広まったらどんなことが起きるか。


まず、少年と同じように「なりたいものになれない」「思うように生きられない」という境遇にある人や、孤立感にさいなまれている人はこのストーリーに関心を持つ。「あ、オレと同じかも」と自分と少年を重ねてしまう者も現れるだろう。
そうなれば次に起きるのは「模倣」だ。有名人の自殺に影響を受けて、同じように命を断つ人があらわれてしまうのと同じ現象だ。この少年のように精神的に追い込まれて、「もう死ぬしかない」という考えが頭によぎると、少年と同じアクションに走ってしまうのだ。
つまり、自分が死ぬため、たまたま目に入った人を殺すという「拡大自殺の後追い」である
「拡大自殺」にも早急に報道ガイドラインを
今回の事件の原因を早々に「孤立感にさいなまれて自分しか見えていない状況のなかで引き起こされた」などと推測をしたり、「このような人がでないように孤立を防げ」と声高に叫んだりすることが、実はかなり危険な行為だということがおわかりいただけたと思う。しかし、ここで断っておきたいのは、コメントを出した高校を批判しているわけではないということだ。
確かに、事件の当事者でもない高校側が、捜査もしっかりと進んでいない発生翌日に、少年の心情や犯行に及んだ原因まで言及するというのは「蛇足」である。通常は「捜査に全面的に協力して、事実関係が判明し次第、ご説明します」くらいに留めるのが定石だ。

ただ、生徒や保護者の不安を一刻も早くとりのぞきたいという思いからしたことだと考えれば、そこまで責められない。多くの子どもがコロナ禍で孤立を感じているのは事実なので、「君たちは独りじゃないよ」としっかり言って励ますというのは、教育者という立場からは当然だ。問題はそんな「身内向けのメッセージ」を報道機関にまで発表してしまったことだ。
メディアというのは「拡声器」なので、発信者側の意図を無視して、強いワードをチョキンと切り取って、「わかりやすいストーリー」に落とし込む。例えば、次の通りだ。
●「孤立し自分しか見えず」と高校 東大前刺傷事件で謝罪コメント(共同通信 1月16日)
●【東大刺傷】逮捕少年通う高校が謝罪「孤立感にさいなまれ引き起こされた」(日刊スポーツ 1月16日)
こういうニュースが大量に拡散されれば、「孤立している人はあのような事件を起こしがちなんだな」と受け取る人が増えて、「孤立を防げ」の大合唱が始まる。一見すると、「孤立する人に手を差し伸べる機運が高まっている」ので良いことだと錯覚するが、それはあくまで「孤立していない人」の視点だ。
本当に孤立している人たちには心の余裕がないので、「わかりやすいストーリー」を示されたらそこに飛びついてしまう。つまり、「孤立している人が無差別殺人を起こしました」というニュースを朝から晩まで流されると、「孤立している人」は精神的に追いつめられる。そして、人によっては「あなたが進むべき道はこっちですよ」と暗示にかけられて誘導されてしまうのだ。
情報操作の世界では、これは「アナウンス効果」と呼ばれる。
自殺報道がまさしくこれだ。今はだいぶ自制してきたが、かつてマスコミは有名人が自殺をすると、それを1週間くらいぶっ続けで扱った。通夜、葬式、出棺まですべて中継し、自殺の手法をCGで詳しく解説した。家族や友人、幼なじみ、果てはなじみの店まで探して、店員や常連客にまで追悼コメントをしゃべらせて、ワイドショーのコメンテーターたちは、ああでもない、こうでもないと好き勝手に自殺の理由を推測していた。神妙な顔をしていたが、やっていることは完全に「祭り」だった。


マスコミ側は、「故人をしのぶ」「愛したファンのため」「このような悲劇を繰り返さない」ともっともらしいことを言って、自分たちの行いを正当化したが、なんのことはない。亡くなった有名人の熱心なファンや、自殺の動機だと推測されるようなことと同じ悩みを抱えている人たちに、「あなたが進む道はこっちですよ」と煽っていたのである。
海外から十数年遅れで、ようやく自殺報道はガイドライン遵守の動きが出てきた。「人を殺して死のうと思った」と他人を道連れにする「拡大自殺」にも、早急に報道ガイドラインが必要なのではないか。
(ノンフィクションライター 窪田順生)


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