下記の記事は東洋経済様のホームページからお借りして紹介します。(コピー)です。
11月末に感染例が報告され、その2日後にはWHO(世界保健機関)から「懸念すべき変異株」に指定されたオミクロン株。日本を含め、各国が水際対策を強化するなど、世界中で警戒感が高まっている。オミクロン株はこれまでの変異株と何が異なるのか。“正しく恐れる”ために今分かっていること、今後注視すべきことを整理したい。(ナビタスクリニック理事長、医師 久住英二)
オミクロン株の何がそんなに厄介なのか?
50カ所“プチ整形”で別人レベルの顔つきに
11月26日、WHOが新型コロナウイルスのオミクロン株を「懸念すべき変異株」(VOC)に指定した。南アフリカ共和国の感染例報告からわずか2日での、警戒度最大。WHOの迅速すぎる動きは世界を震撼(しんかん)させた。
南ア国立伝染病研究所(NICD)によると、同国では10日間のうちに感染者数が312人から1万1535人へと急増(12月2日)。11月中にゲノム解析された分だけでも、オミクロン株は249件中の183件に上り、74%を占めたという。
世界では全大陸でオミクロン株が確認され、すでに50超の国と地域に広がっている(12月8日時点)。
そうした感染拡大のスピードはもちろん脅威だが、それ以上にオミクロン株が厄介視されているのは、けた違いの変異の多さによる。
国連地域情報センターのまとめ(11月30日時点)によれば、オミクロン株には50個もの変異が確認されており、そのうち32個は「スパイクタンパク」に生じている。スパイクタンパクは、感染(ウイルスの細胞への侵入)に不可欠な役割を果たし、免疫システムにとってはウイルスの目印でもある。
大量の変異は、いわば一気にあちこち“プチ整形”が施されて、顔つきがすっかり変わってしまったことを意味する。
インドから世界に広まり、先行の変異株に代わって感染の主流となったデルタ株でさえ、スパイクタンパク上の変異は9個である。デルタ株のVOC指定まで約半年かけたWHOも、今回は一層の危機感を持つわけだ。
細胞に侵入しやすく、免疫から逃れやすい
“顔認証をすり抜け”再感染リスク2.4倍
ただし、一口にスパイクタンパク上の変異といっても、その影響にはいくつかのパターンがある。
例えば、アルファ株(英国型)やベータ株(南ア型)、ガンマ株(ブラジル型)では、「細胞への侵入のしやすさ」を高める変異が確認されている。デルタ株に特徴的なのは、「免疫からの逃れやすさ」を促す変異だ。
オミクロン株は上記の両パターンを複数持ち合わせているため、「感染力が高い」とされる※。
特に、免疫から逃れやすいということは、「再感染しやすい」と言い換えられる。無理もない。免疫の“顔認証システム”は、過去の感染の記憶をベースに準備されている。顔つきがガラッと変わっていれば、すり抜けるのは簡単だ。
実際、南アの研究グループは12月2日、「オミクロン株の再感染リスクはデルタ株やベータ株の2.4倍」とする査読前論文を公表した。
研究では、11月27日までに感染が判明した280万人中、再感染の疑いは3万5670人だった。特に、デルタ株の流行時に感染した人の再感染が多いという。オミクロン株に、過去の感染で得た免疫を回避する能力があることを示す、疫学的な証拠といえる。
ただし、南ア国立伝染病研究所(NICD)のアン・フォン・ゴットベルク氏は、再感染やブレイクスルー感染では重症化しないとの見通しを示している。
※ロイター「南ア、オミクロン株の再感染拡大 症状は軽度=専門家」(12月3日配信)
では、オミクロン株に対し、私たちは今あるワクチンと治療薬でしのげるのか。今回はひとまずワクチンについて確認しておきたい。
世界でブレイクスルー感染続々
ファイザーは3回接種でオミクロン株にも自信
ワクチンについて一番問題になっているのが、「ブレイクスルー感染」だ。ワクチン接種完了後のオミクロン株感染が、世界中で続々と報告されている。
日本国内でも、2例目に感染が確認されたナミビア人外交官は、入国前の10月に2回接種を完了していた。また、イスラエルではファイザー3回接種を完了した医師2人のブレイクスルー感染も報告されている。ただ、いずれも軽症だ。
そもそも再感染が多いなら、ブレイクスルー感染が起きても何ら不思議はない。ワクチンは疑似的な感染を起こして免疫システムを作動させ、本当の感染に備えるものだからだ。
これに対し米ファイザー社は当初から、ワクチンの効果に自信を示してきた。同社幹部のラルフ・レネ・ライナート氏は12月2日、同社ワクチンはオミクロン株に対して「効果が著しく低下するとは考えていない」とした※。
※ブルームバーグ『ファイザー幹部、オミクロン株へのワクチン効果楽観-約2週間で判明』(12月2日配信)
ただ、オミクロン株の感染を防ぐには、3回接種が必須のようだ。
12月8日、同社は3回接種であればオミクロン株の感染も防げそうだとする暫定的な研究結果を公表した。ファイザー接種者の血液を使った実験で、3回の接種によって、オミクロン株の感染を防ぐ抗体量が2回接種の25倍に増加。従来株に対する2回接種後とほぼ等しい効果が望めるとした。
なお、ファイザー接種者12人の血液を使った細胞実験では、2回接種で生じる抗体だけではオミクロン株感染を防げないことも報告されている(12月7日)。
それでも同社は、2回接種でもオミクロン株感染による重症化は防げるとみている。あるいは、過去に新型コロナ感染経験がある人がファイザーを接種していた場合は、その抗体はオミクロン株の感染を予防できるという。
ファイザー社は、来年3月にオミクロン株に対応した最新型のワクチンを供給できるとしている。また、いずれにしても接種は「今後何年にもわたって毎年必要になる可能性が高い」と、同社CEOのアルバート・ブーラ氏は定期接種化の必要性を指摘している※。
※BBC『新型ウイルスのワクチン接種、「毎年、何年間も必要に」 米ファイザーCEO』(12月3日配信)
モデルナの効果は「はるかに低い」可能性
それでもワクチンは無意味ではない
米モデルナ社の見立ては厳しい。CEOのステファン・バンセル氏は11月30日、オミクロン株に対する同社ワクチンの効果は、従来株に対するより「はるかに低い」との見通しを示した。オミクロン株に特化したワクチンを大規模に製造できるまでには、数カ月かかるとしている(フィナンシャル・タイムズ)。
やはり免疫をすり抜ける能力の高さには、相当の警戒が必要のようだ。では疫学的な視点ではどうだろう。公式発表はないが、考える手掛かりはある。
南ア医学研究会議によれば、12月2日時点のコロナ病棟の入院患者38人のうち、6人がワクチン接種を受けており、24人が未接種、8人が接種状況不明だという。また、新型コロナによる肺炎患者9人のうち8人は未接種で、子どもは1人だった。
オミクロン株の割合は、11月中に急速に7割以上に達した。Our World in Dataによれば、南アで接種されたワクチンの内訳は、ファイザーが約58%、モデルナ約38%、ジョンソン・エンド・ジョンソンが約4%となっている。
母数が極端に少ないが、入院患者の接種状況に照らしてみると、オミクロン株への効果は皆無とまではいえないようだ。
WHOのマイケル・ライアン氏も7日、オミクロン株がワクチン接種で得られる免疫を完全に回避する可能性は「非常に低い」とAFP通信に語った。
オミクロン株発生前の9月時点の米国では、ワクチン接種者に比べて未接種者の感染確率は5.8倍、死亡確率は14倍だった(CDC)。オミクロン株の出現によってこの数字が世界的にどう変わるか、注視していく必要がある。
いち早く外国人入国を禁じた岸田政権
毒性によっては早々に緩和の決断も?
さて今回、オミクロン株に対する日本政府の対応は確かに速かった。
岸田首相は11月29日、南アフリカ共和国からのオミクロン株の報告を受け、早々に外国人の全面入国禁止を発表した。安倍・菅政権の“轍(てつ)”を避けるべく、批判を自ら「すべて負う覚悟」を示したもので、国内から一定の評価を得た。
ただ、同日に通知した国際線の新規予約停止要請は、3日で撤回を余儀なくされた。
その直前には、アフリカ南部諸国のみを対象に渡航制限を敷いた日本や米英各国が、南ア大統領から「不当で非科学的、かつ発展途上国を苦しめるもの」「大きく失望した」と名指しで批判を受けるなど、混乱も続いていた。
なぜこれほどまでに、国は翻弄されるのか。それはひとえに、オミクロン株が「何をしでかすか」が未知数で不気味だからだ。人は知らないものを恐れる。
ただ、大量の変異も、人類にとって実際どの程度の脅威になるかは、厳密にはまだ分からない。
発症前に感染させやすいのであれば、水際対策にも限界がある。オミクロン株は「デルタ株と比べ、感染から他の人に感染させるようになるまでの期間が短い可能性がある」という報道もあり(英保健当局、BBC)、すでに日本人の感染例も報告され始めている。
今後オミクロン株の性質がより明らかになり、もし毒性がさほど強くないとなれば、早めの入国規制緩和も考えるべきだろう。ワクチンや治療薬に一定以上の効果が認められ、円滑に十分に入手できるのなら、なおさらだ。その場合、往来再開の遅れは経済に甚大な被害をもたらしかねない。
オミクロン株を取り巻く状況は、刻一刻と変化している。引き続き、岸田政権の迅速で柔軟な判断に期待したい。
(監修/ナビタスクリニック理事長、医師 久住英二)
久住英二
ナビタスクリニック理事長、内科医師。専門は血液専門医、旅行医学(Certificate of knowledge, the International Society of Travel Medicine)。1999年新潟大学医学部卒業。2008年立川駅ナカにナビタスクリニック立川を開設。
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