脳科学研究センター-脳研究の最前線

脳の研究を総合的に行うべく、脳科学総合研究センタが1997年に設立された。

100年前に発見されたアルツハイマー病

2024-07-25 01:43:33 | 脳科学
科学することの本質は、「因果関係の樹立」と「メカニズムの解明」です。そしてそのためには研究対象を詳細に記述しておかなければなりません。これは「現象論」や「博物学」と呼ばれるものです。研究は研究対象に名前を付けることからはじまります。アルツハイマー病研究もそのようにしてはじまりました。
たとえば天文学では、古代に星や星座に名前を付けられ、16世紀以降、コペルニクス、ガリレオ、ケプラーらによって天体の運動が詳細に記述されました。数学的に惑星の運動法則化することに最初に成功したのはケプラーです。さらに、ニュートンやライプニッツが確立した微積分学によって古典力学の対象として発展してゆきます。
その後、電磁気学、相対性理論、量子力学、統計力学のおかげで、天文学は今や宇宙物理学となって発展を続けています。アルツハイマー研究史もこれとよく似ています。最初は一疾患の研究だったアルツハイマー病も、今や新しい生命科学分野を切り開くまでになりました。後述はしますが、アルツハイマー病研究によって今まさに花開こうとしている研究分野が一つあります。それはこれまで正常な現象と考えられてきた脳の老化(健忘症)を制御しようというものです。私はこれを「脳老化制御学」と命名します。
アルツハイマー病は1906年にドイツ人医師アロイス・アルツハイマーが、ドイツのチュービルゲン大学で発表した症例が世界で最初です。患者は50代の女性でした。論文として発表されたのは翌年の1907年です(したがって、2006年にまたは2007年がアルツハイマー病研究100周年ということになります)。そのころのドイツは医療品・衛生の最先進国で、平均寿命が60歳を超えていました。
一方、日本は今でこそ世界の再長寿国ですが、当時の平均寿命は40歳代でした。後述するように、アルツハイマー病の最大の危険因子は加齢です。ドイツで世界初のアルツハイマー病患者が見出いだされたのは、それなりの社会的背景があったからなのだと思います。最初の症例報告後、1910年に著名な精神科医のクレベリン博士によって、正式に″アルツハイマー病″と命名されました。とはいっても、当時は希な疾患で、根拠になったのは五症例だけでした。
100年後の現代に、患者が爆発的に増えることは誰も予想していなかったでしょう。今では、全世界で患者数が2000万人を超えると考えられています。この数字は今後さらに増え続けます。しかも、数年で患者が入れ替りますから、延べ人数はものすごい数になるわけです。患者数が一多いのは米国(米国 Alzheimer's Association によると500万人以上)とされていますが、患者の増加速度が大きいのは中国とインドです。世界人口のほぼ三分の一を擁するこれらの国では、経済の発展に伴って平均寿命が伸びていることが原因のようです(中国はすでに米国を追い越したとの指摘もありますが、後述する理由から患者数を正確に把握するのは困難なのが実情です)。東アジア諸国と日本は、遺伝的・文化的背景が比較的近いため、情報を共有する意識が高いと考えられます。アジアでは、日本以外に韓国・台湾・シンガポールの研究レベルが高いので、韓国・台湾・シンガポール・中国との協同研究を積極的に促進することは相互の利益に寄与すると思います。また、欧米諸国は日本は、人口の高齢化があるレベルに達した時点で、強い不況を経験しています。社会福祉と市場経済のバランスが限界点を超えたのでしょう。中国とインドが大不況に陥ると世界が困ります。この数年以内に何とかしなければなりません。

本プログによる実験データは、おもに次の文献にもとづいています。
井原康夫、荒井啓介行「アルツハイマーが、にならない」朝日新聞社 2007
貫名信行、西川徹編「脳神経疾患の分子病態と治療への展開」実験医学増刊号 羊土社 2007
本間昭編「臨床医のためのアルツハイマー型認知症実践ガイド」じほう 2006


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