脳科学研究センター-脳研究の最前線

脳の研究を総合的に行うべく、脳科学総合研究センタが1997年に設立された。

ネプリライシンを活性化する

2024-08-08 08:36:13 | 脳科学
ネプリライシンを用いた遺伝子のは、アルツハイマー病の患者さんに対して成功する可能性は十分にあります。ただ、脳外科的処置を要するため、実際の患者さんを治療する神経内科医や精神科医には敷居が高いのが現状です。そこで、薬理学的方法の探索が進められています。その結果、神経ペプチドであるソマトスタチンが、培養神経細胞のネプリライシン活性を上昇させることを見いだしました。
さらに、ソマトスタチン破壊マウスを用いて検討したところ、海馬においてソマトスタチンはネプリライシン活性を制御することによってAβ(特に病原性Aβ42)の量を調整することを見いだしました。ソマトスタチンは、ソマトスタチン受容体を介して作用します。受容体の結合部位は特異的な鍵穴のような構造をしているため、格好の創薬の標的です。また、ソマトスタチン受容体には五種類の(異なる遺伝子の産物である)サブタイプが存在し、その中には脳内に選択的に発現するものがあります。このサブタイプだけを活性化する低分子薬剤は、全身的な副作用がなく、脳内Aβレベルを下げる作用があると期待されます。
また、ソマトスタチン自身は認知能力改善作用があることも報告されており、二重の意味でアルツハイマー病に対して予防・治療作用があることが期待されます。さらに、脳内のソマトスタチンは加齢によって減少し、孤発性アルツハイマー病患者では顕著に低下することが報告されています。Aβレベルを上昇させることによって、孤発性アルツハイマー病の原因となる可能性を示唆しています。
米国のヤンクナーらは、ヒト脳を用いて約一万個の遺伝子の発現と加齢との関係を検討しました。加齢に伴って発現が低下する遺伝子は全体の1パーセントにあたる約100個でした。その中の一つがソマトスタチンで、40歳以降有意に低下します。アルツハイマー病の罹患患者率が80歳以降に急激に増えることによく一致しています。もちろん、ソマトスタチン以外にもネプリライシン活性・発現を上昇させる物質が存在する可能性はあります。



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