赤羽や王子界隈は、王子の「大勝軒滝野川店」、志茂の「ラーメン○二郎」、王子神谷の「博多ラーメン 虎」、赤羽の「麺高はし」など、錚々たる実力店が軒を連ねる東京北部エリア屈指のラーメン激戦区として知られているが、2004年3月、そのような激戦区にまたひとつ、新たな名店が誕生した。その店の名は「中華そば屋伊藤」。秋田県角館の「伊藤」の暖簾分けとのこと(残念ながら私は秋田県の「伊藤」には食べに行ったことがない)。
最寄り駅の営団メトロ南北線王子神谷駅から徒歩にして15分程度の距離があり、しかも、北本通りや環七などの大通りから遠く離れた商店街の一角にある看板もない小さな店なので、立地の便はお世辞にも良いとは言えないが、たとえ、数時間、迷いに迷った挙句に漸く辿り着いたとしても、その労苦を一瞬のうちに、名店に巡り会うことができた喜びへと一変させるだけの魅力を備えた至高の一杯を提供してくれる。まさに「伊藤マジック」と呼ぶにふさわしい超一級の名品である。その美味さは、原則として、短期間のうちに同じ店のリピートを行わないことを旨とする私が、一週間も経たずして再食を余儀なくされてしまったほどである。
赤羽、王子エリアのラーメン屋には、上述したとおり名店が多く、また、つけ麺、二郎系、博多とんこつ系など、それぞれ、タイプが全く異なるのだが、そのようなタイプの違いを考慮に入れたとしても、この「伊藤」の「そば」の美味さが、それらの名店の中でも最上位のランクに位置することは、まず、間違いあるまい。
店の目印は、手入れが行き届いた白地に黒字で「中華そば屋伊藤」と描かれた暖簾のみ。知らない人であれば、気付かずに通り過ぎてしまうくらいである。店内も、テーブルとカウンターを合わせて9席ほどの簡素なつくりであり、雰囲気は、ラーメン屋というよりはむしろ、地方の小さな食堂といった趣。メニューも、かけそばの中華そば版のような「そば(500円)」と、「そば」にバラ肉チャーシューを加えた「肉そば(650円)」の2種類のみ。店構え、店内の雰囲気、そしてメニューのすべてにわたってシンプルで無駄がなく、味一本で勝負したいという店主の意気込みがひしひしと伝わってくる。
それはまるで、最近のラーメン・シーンを席巻している店構えを華美にし、メニューを幅広に提供すれば良しとする傾向に挑戦状を叩きつけているような感じですらあり、私に、「ラーメン屋とは本来、味で勝負するものだ」という、当然の理を改めて思い起こさせてくれる。
まずは「肉そば」をオーダーしてみる。幾分、少な目のスープに、しっかりと芯を残した清冽な中細ストレート麺が湛えられ、その上に、白ネギと心持ち小さめのバラチャーシューが4枚乗せられているだけのシンプル極まりない表情だ。
スープは煮干ベース。煮干のパンチが利いており非常に濃厚な味わいであるが、いわゆる魚介系独特の癖はほとんど感じさせず、極めて口当たりが良い。スープ表層に漂うきらきらと輝く粉は魚鱗であろうか。このスープを仕上げるのに、一体、どの程度の手間暇がかかったのだろうかと、食事中であるにもかかわらず考え込んでしまいたくなるような絶品中の絶品である。
麺は言わずもがなの自家製麺。上質の小麦を惜しげもなく用いた最高ランクの麺である。かん水臭さなどとは無縁の境地に到達していることはもとより、麺そのものが極めて美味い。茹で加減はかなり硬めであり、麺が口の中でプチッと弾ける食感が心地好い。また、あえてストレート麺を用い、スープの持ち上げを抑えることにより、麺そのものの旨味が一際引き立っている。これ以上に美味い麺が、果たしてこの日本に存在するのだろうか。麺とスープの絡みが良いことは、確かに、美味いラーメンの条件のひとつになり得るものであるが、そのようなテクニックを用いずとも、絶品ラーメンを創ることができるという事実をまざまざと見せ付けられた。
具の白ネギやバラチャーシューも、スープや麺との相性を考え尽くしたものであり、素晴らしいの一言に尽きる。
あまりに美味かったので、一杯目をあっという間に平らげてしまい、止むなく二杯目をオーダーせざるを得ない状況に陥ってしまった。二杯目は、シンプルな「そば」をオーダーしてみた。これは、「肉そば」からバラチャーシュー4枚を除いた、つまり、麺とスープと白ネギの3者のみにより構成されるこの上なくシンプルなラーメンである。チャーシューから染み出る肉汁がスープと混ざり合わない分、こちらの方が幾分、あっさりしているように感じたが、二杯目に入っても、麺、スープの美味さは些かも衰える気配を見せなかった。
総じて、シンプルに見えて、麺の配合、スープの風味、麺とスープの量のバランスから具の選択に至るまで、考えに考え尽くされ、しかもそのどれもが見事に成功している稀有なラーメン。非の打ち所が全くなく、素直に感動すら覚える出来映えである。
麺:15点、スープ:19点、具:5点、バランス:10点、将来性:8点の計57点。
一度、箸をつけ始めれば、いかなるラーメン嫌いであろうとも完食は必至である。2005年4月現在の東京のラーメン屋の中でも、屈指の完成度の高さを誇る驚異的な一杯である。
所在地:王子神谷
実食日:2005年4月
→採点方法について
最寄り駅の営団メトロ南北線王子神谷駅から徒歩にして15分程度の距離があり、しかも、北本通りや環七などの大通りから遠く離れた商店街の一角にある看板もない小さな店なので、立地の便はお世辞にも良いとは言えないが、たとえ、数時間、迷いに迷った挙句に漸く辿り着いたとしても、その労苦を一瞬のうちに、名店に巡り会うことができた喜びへと一変させるだけの魅力を備えた至高の一杯を提供してくれる。まさに「伊藤マジック」と呼ぶにふさわしい超一級の名品である。その美味さは、原則として、短期間のうちに同じ店のリピートを行わないことを旨とする私が、一週間も経たずして再食を余儀なくされてしまったほどである。
赤羽、王子エリアのラーメン屋には、上述したとおり名店が多く、また、つけ麺、二郎系、博多とんこつ系など、それぞれ、タイプが全く異なるのだが、そのようなタイプの違いを考慮に入れたとしても、この「伊藤」の「そば」の美味さが、それらの名店の中でも最上位のランクに位置することは、まず、間違いあるまい。
店の目印は、手入れが行き届いた白地に黒字で「中華そば屋伊藤」と描かれた暖簾のみ。知らない人であれば、気付かずに通り過ぎてしまうくらいである。店内も、テーブルとカウンターを合わせて9席ほどの簡素なつくりであり、雰囲気は、ラーメン屋というよりはむしろ、地方の小さな食堂といった趣。メニューも、かけそばの中華そば版のような「そば(500円)」と、「そば」にバラ肉チャーシューを加えた「肉そば(650円)」の2種類のみ。店構え、店内の雰囲気、そしてメニューのすべてにわたってシンプルで無駄がなく、味一本で勝負したいという店主の意気込みがひしひしと伝わってくる。
それはまるで、最近のラーメン・シーンを席巻している店構えを華美にし、メニューを幅広に提供すれば良しとする傾向に挑戦状を叩きつけているような感じですらあり、私に、「ラーメン屋とは本来、味で勝負するものだ」という、当然の理を改めて思い起こさせてくれる。
まずは「肉そば」をオーダーしてみる。幾分、少な目のスープに、しっかりと芯を残した清冽な中細ストレート麺が湛えられ、その上に、白ネギと心持ち小さめのバラチャーシューが4枚乗せられているだけのシンプル極まりない表情だ。
スープは煮干ベース。煮干のパンチが利いており非常に濃厚な味わいであるが、いわゆる魚介系独特の癖はほとんど感じさせず、極めて口当たりが良い。スープ表層に漂うきらきらと輝く粉は魚鱗であろうか。このスープを仕上げるのに、一体、どの程度の手間暇がかかったのだろうかと、食事中であるにもかかわらず考え込んでしまいたくなるような絶品中の絶品である。
麺は言わずもがなの自家製麺。上質の小麦を惜しげもなく用いた最高ランクの麺である。かん水臭さなどとは無縁の境地に到達していることはもとより、麺そのものが極めて美味い。茹で加減はかなり硬めであり、麺が口の中でプチッと弾ける食感が心地好い。また、あえてストレート麺を用い、スープの持ち上げを抑えることにより、麺そのものの旨味が一際引き立っている。これ以上に美味い麺が、果たしてこの日本に存在するのだろうか。麺とスープの絡みが良いことは、確かに、美味いラーメンの条件のひとつになり得るものであるが、そのようなテクニックを用いずとも、絶品ラーメンを創ることができるという事実をまざまざと見せ付けられた。
具の白ネギやバラチャーシューも、スープや麺との相性を考え尽くしたものであり、素晴らしいの一言に尽きる。
あまりに美味かったので、一杯目をあっという間に平らげてしまい、止むなく二杯目をオーダーせざるを得ない状況に陥ってしまった。二杯目は、シンプルな「そば」をオーダーしてみた。これは、「肉そば」からバラチャーシュー4枚を除いた、つまり、麺とスープと白ネギの3者のみにより構成されるこの上なくシンプルなラーメンである。チャーシューから染み出る肉汁がスープと混ざり合わない分、こちらの方が幾分、あっさりしているように感じたが、二杯目に入っても、麺、スープの美味さは些かも衰える気配を見せなかった。
総じて、シンプルに見えて、麺の配合、スープの風味、麺とスープの量のバランスから具の選択に至るまで、考えに考え尽くされ、しかもそのどれもが見事に成功している稀有なラーメン。非の打ち所が全くなく、素直に感動すら覚える出来映えである。
麺:15点、スープ:19点、具:5点、バランス:10点、将来性:8点の計57点。
一度、箸をつけ始めれば、いかなるラーメン嫌いであろうとも完食は必至である。2005年4月現在の東京のラーメン屋の中でも、屈指の完成度の高さを誇る驚異的な一杯である。
所在地:王子神谷
実食日:2005年4月
→採点方法について
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