◎さらば新自由主義/投機マネーの暴走/1/原油高倒産が急増
しんぶん赤旗
「投機マネーがどうなろうが、庶民には関係ないと思っていた」という「しんぶん赤旗」の男性読者=神奈川県厚木市在住=から、次のような便りが寄せられました。「原油市場や穀物市場に影響し、灯油や食料品をはじめとした値上げラッシュが押し寄せて…投機マネーや金融のことは、わからないではすまされないと思うようになってきました」。シリーズ企画「さらば新自由主義」の第1弾では「投機マネーの暴走」について考えます。
「シンナー(溶剤)の値段が六割も上がっているんですよ」と顔を曇らせるのは、東京都大田区で塗装業を営む永田保さん。
塗装業の場合、ペンキ塗料や周辺に塗料がつかないように覆うポリエチレンなど、ほとんどが石油製品。平均して一割以上、価格が上がっています。シンナーは、吹き付け塗装では塗料を半分に薄めたり、清掃や道具の手入れなどで多用するもの。使わないわけにはいきません。
転嫁は難しい
塗装業は、請負代金に塗料などの材料代も含まれる「複合単価」のため、その高騰は直接、業者の稼ぎにひびきます。
建設不況で、零細業者の間では、不渡りの危険がある手形取引が避けられるほどです。ところが単価は、ゼネコンや工務店が一方的に決める「指し値」。このころようやく低下がゆるやかになってきたにすぎず、材料値上げ分の転嫁は困難な状況です。
永田さんはいいます。
「マネーゲームのせいで石油に限らず金属なども値段が上がっているのは許せないね。政治の責任。だけど、〝先物〟なんていわれても、よくわからないなというのが実感」
民間調査会社の帝国データバンクによると、原油や金属をはじめ資源高によって倒産した企業の数は、二〇〇五年の七十八件から、〇六年に百四十件、〇七年に二百二十九件に増加。このうち原油高によるものは、〇五年の三十一件から〇六年に九十九件、〇七年に百四十二件に急増しています。
〇七年には、〝原油価格高騰分を価格に転嫁できず〟(東京都・化粧品向けプラスチック容器製造)、〝受注単価抑制で収益が確保できなかった〟(埼玉県・アルミダイカスト製造)、〝需要の低迷に加え、資源価格高騰、建築基準法改正が追い打ち〟(島根県・かわら製造)など、業況悪化に原材料の価格高騰が加わり、倒産に追い込まれる事例が目立ちます。
努力だけでは
原油高の影響が大きい運輸・倉庫業でも、値上がりがほとんど転嫁できていない(0―20%)とするのは72・5%、建設業では70・6%にのぼります。
帝国データバンク情報部の中森貴和課長は、「〇四年ごろからの資源高の影響がタイムラグ(時間差)をもって現れています。資源高は中小・零細企業への打撃が大きい。ただでさえ状況のよくないところに原油高が追い打ちをかけ、経営努力では支えきれなくなっています。この傾向は、たとえ原油が一バレル=五〇㌦から七〇㌦に戻っても、半年から一年は続くと思います」といいます。
(つづく)
新自由主義
日本共産党第二十四回大会決議(二〇〇六年一月)は「アメリカ政府は、IMF(国際通貨基金)、世界銀行などとともに、経済の『グローバル化』の名のもとに、『新自由主義』にもとづく『構造改革』を、世界の多くの地域におしつけてきた」と指摘。日本で自民・公明政権が「構造改革」としてすすめてきた「新自由主義」の経済路線を「大企業の利潤追求を最優先にし、規制緩和万能、市場原理主義、弱肉強食をすすめる経済路線」と特徴づけています。
(2月11日付)
◎さらば新自由主義/投機マネーの暴走/2/原油「ペーパー取引」急増
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)で取引初日の一月二日、WTI(西テキサス産中質原油)の価格が歴史上はじめて、一バレル(百五十九㍑)当たり百㌦をつけました。投機資金の流入によるものです。その後も九十㌦前後の高止まりが続いています。
ニューヨーク商業取引所にWTIが上場されたのは一九八三年。原油を必要としないのに、投機による利益を目的とする業者が参入し、実際には原油が流通しない「ペーパー取引」が急増することになります。
WTIの生産量は一日三十万バレルほどで世界の数%にすぎませんが、WTIだけで先物を中心に一日にのべ約六千万バレルが取引されています。世界の原油需要は一日約八千五百万バレルですから、原油の取引が実際の需要に基づいていないことが分かります。
実需では50ドル
WTIの取引が世界から大量の資金を集めるため、その価格は、中東産原油の価格をも主導するようになりました。OPEC(石油輸出国機構)の価格決定力は弱まり、原油価格はコントロールの難しい市場まかせの時代に突入しました。
アメリカの低信用層向け高金利型(サブプライム)住宅ローンの焦げ付き急増がもとで、金融市場の混乱が深まった二〇〇七年後半には、金融市場から逃げ出した投機資金が高騰を続ける原油市場に流入し、WTI価格は一年間でさらに六割以上も上昇。WTIの取引残高が約千四百億㌦であるのに対し、ヘッジファンドなどの約二兆㌦の短期投機資金が動いたと推計されています。
石油連盟広報グループ長の田中英樹さんは、「イラク戦争前の原油価格の水準は一バレル=三十㌦程度でしたが、その後は中国やインドでの需要の急増があって、そこから考えると実際の原油需給にもとづく原油価格は五十㌦ぐらいになると思います。それ以上は中東地域の地政学的なリスクや投機により押し上げられたものと考えられます」といいます。
日本で使われる原油は主に、中東産油国との長期契約ですが、その価格もWTI価格に連動。円ベースでみた輸入原油価格は、第二次オイルショック以来の高水準となっています。
規制をなくす
しかし、石油の需給調整を定めた石油業法が二〇〇二年に廃止されました。規制を緩和し、市場原理を活用して石油の安定供給を確保するというふれこみでした。しかし、政府による規制がなくなったため、今日のような原油高に対しても対応策がなく、「需給調整は基本的にできない」(経済産業省の担当者)という状況です。
一方、世界では、シェブロン、BP、シェル、エクソン・モービルの「スーパーメジャー」とよばれる石油大企業は、原油高騰の中で総収入を二倍近くにまであげ、ばく大な利益をあげています。
(2月13日付)
◎さらば新自由主義/投機マネーの暴走/3/飼料高騰が酪農を直撃
トウモロコシ、大豆、小麦など穀物価格の高騰が、国民の暮らしを直撃しています。飼料代の急激な値上がりに苦しむ酪農の現場では―。
「このままエサ代が上がり続けたら、農家の半分がつぶされる」。千葉県睦沢町で酪農を営む中村種良さん(56)は窮状を訴えます。
時給は200円台
中村さんは、乳牛五十頭(うち搾乳牛三十頭)を飼育しています。トウモロコシが中心の配合飼料の価格は、一昨年末時点で一㌧当たり三万八千円だったのが、一年で四万五千円に跳ね上がりました。牧草なども加えた飼料代は、一頭当たりで一日四百円近くの上昇だといいます。
配合飼料価格の高騰分は、配合飼料価格安定制度によって、農家に補てんされるため、負担はなんとか低く抑えられています。しかし、飼料を混ぜる機械に使う軽油などの燃料の値上げも重なり、農家には負担増がズシリとのしかかります。
加えて乳価の下落です。「乳価を下支えする政府の機能も弱まり、価格は安定していない」(中村さん)といいます。一月に乳価は引き上げられましたが、飼料代などの値上がり分に見合っていません。
収入は、時給に換算すると「二百円台」にしかなりません。「どの農家も、みんな青息吐息の状態。廃業も相次いでおり、経営難から自殺する人も出ている」と中村さん。最盛期に、百二十戸ほどあった町の酪農家も、現在では九戸に減りました。「牛の数を今の倍にしたいけれど、先の見通しが立たないのでできそうにない」と声を落とします。
飼料高騰の背景には、石油代替燃料になるバイオエタノールの増産でトウモロコシの需給がひっ迫したことや、投機資金の流入が国際的な穀物相場を押し上げたことなどがあります。
日本の飼料自給率は25%。トウモロコシの97%をアメリカから、小麦の80%をカナダからの輸入に頼っています。世界的な穀物相場の変動の影響をまともに受けます。
飼料販売会社のゼンケイによると、二年で倍以上に値上がりした飼料もあります。特に、昨年の秋ごろから急騰しています。トウモロコシを主原料にした飼料を使う養鶏農家などは、いっそう大変な状況といいます。「取引農家からは悲鳴に近い声を聞く」と同社の担当者。「この状態が続けば、生産すればするほど赤字という悪循環に陥ってしまう」と心配します。
給食費値上げ
穀物価格高騰の影響がこんなところにも波及しています。
給食食材を調達している東京都学校給食会は小学校など約千八百校への小麦製品の売り渡し価格を二〇〇八年度から引き上げることを検討しています。パンの原価割れが続いているためとしています。これを受け、千代田区教委は、一食二百七十二円(小学校高学年)などの給食費を引き上げる方向で動きだしています。
値上げに踏み切った自治体もあります。兵庫県加古川市。四月から、市内二十八の小学校で実施している給食費を一食当たり二十円引き上げます。年間負担増は小学校で三千六百円にのぼります。
現在、小麦の国際価格は一年前の約二倍の高水準で推移しています。これに連動し、政府は製粉会社に売り渡す輸入小麦価格を四月から約30%引き上げる方針。春以降も食品などの値上げ連鎖は避けられそうにない情勢です。
(2月14日付)