「カーク船長が出る」
ジェネレーションズが公開されるとき、こう言う情報を手に入れたワタシは、TNGにはまーったく興味がないまま、映画館へと行きました。
正直ショックでした。
ええ、色々な意味で。
何よりもあの死に様!!! 何という情けない…!!
公開当初あの「体重の重さに耐えかねた橋が崩壊して船長ごと崩落して挙げ句死亡」という画像に、船長が死んでしまったことを見せつけられたショックと共に憤りを覚えたものです。
もっと、カークらしい、カッコいい死に方があってもいいじゃないかと。
まあ、歴史上の公式の死亡は、エンタープライズBでの救出行動中の事故となっているので、ソレはソレでカッコいい部分もちゃんとあった訳でございますが。
しかしですね、あのサイッテーなシナリオの中でも、シャトさまはちゃんとカッコいい、カークらしさを演じていたのだと最近やっと気づきましてん。
船長はちゃんとカッコ良かったんですよ。
どんなに情けない死に様を用意しようと、シャトさまの船長はちゃんと輝いておったんです。
ピカードと協力して、ネクサスという永遠の楽園を後にする時、カークは実はもう自分の死を覚悟していたと思うんです。
自分らしい人生の締めくくりを、自分の意志で選ぼうとしている、そう言う意志が、馬上のカークが最後に恋人の幻影に向けた時に感じられるんですよ。
絶対にあれは未練で振り返っているのではなく、幸せな幻想に決別を告げているんです。
果たしてネクサスを抜け、狂気にかられたソラン博士の野望を打ち砕くため、ネクサスのエネルギーリボンの軌道を変えるために博士が開発した装置を破壊しようと戦うことになります。
何とか装置を自爆する様に設定したものの、最後の起爆の設定は、ソラン博士によって厚いバリアーがはられてしまい、阻まれて起動できない。バリアーを解除するためのスイッチは、崩れかけた橋の先に飛ばされてしまう。
ピカードが最後の起爆の設定を完了させるためには何としてでもバリアーを解除しなければならない。
リモコンを何とか取り戻し、バリアーを外し、起爆装置のスイッチを入れなければ全ては終わり。
その時に、それまで激しく戦っていた「動」の演技から、すぅっと「静」の演技にシャトさまは切り替えるんですよ。
強い日差しの中、目を細め、壊れたいつ崩れ落ちるかもしれないボロボロの橋の先に在るリモコンを見つめるカークの顔のアップ。
その瞬間に、もうカークは全てを受入れる覚悟を決めたんだなって思えるんですね。
ただ、自分に与えられた目の前の使命を全うする。
その先には死ぬかもしれない、とか、もうそんなことは全て思考の中から消え果てて、達観してしまった様な、そんな感じ。
実際、その後のカークの行動には全く迷いがないんです。
ソラン博士と戦っている時には、まだどうやったら相手を出し抜いて上手くことを運べるかとかという計算が見え隠れしているのですが、ここから先のカークの行動は、ただリモコンを手に入れ、バリアーを解除し、ピカードに最後の起爆の設定をさせる、その為にギリギリまで努力し続ける、それだけ。
カークは、リモコンを手にし、バリアーの解除ボタンを押した瞬間、勝利を確信し、その刹那、無情にも崩れかけていた橋はカークの重量に耐えきれずにカークを乗せたまま崖下に崩落していく訳です。
カークは見届けることはできなかったけれど、バリアーはギリギリで解除され、ピカードは起爆の設定を完了し、ソランの野望は露と消えます。
最後にピカードと交わす会話の中で、「楽しかった」と自分の人生を振り返る言葉が出て来ますが(吹替え版のセリフはこの際無視だ無視!!)、ほんの僅かなカットの中でシャトさまが演じきっている所作に気が付けば、このセリフは、より一層重みを増して生きてくるんですよ。
本当に限られたカットの中で、精一杯生ききった、というカークの人生、生き方にものすごい意味が与えられる様に、シャトさまは演じていたんです。
ピカードに微笑みながら、最後事切れる時に「oh my...」と言うのですが、このセリフの後、魂が抜けてカークが、ただの亡骸に変わるんです。
ここの演技も、物語の王道としては、もっと綺麗な死に顔にするものかもしれないのですが、シャトさまは敢えてそうせず、あの一瞬で、「カーク」というものの全てが死という世界に飲み込まれたことを演じていた様に思うんです。
この人本当に、観客を色々な意味で裏切ってくれる!!
TOSの頃のカークは、観客が望むカッコいい主役であろうとシャトさまは演じていたと思うんです。
どうしたら見ている側に美しくてカッコいい、誰もが憧れる存在として注目を集められるか。計算して計算して演じていた。
でも、このジェネレーションズでは、特にカークが死に至るあの橋の上で覚悟を決めた演技をしてからは、死ぬということがどう言うものなのか、ヒーローだって死ぬ時はただのモノでしかないということをやってのけていると思うんですよー。
それは、カッコいいヒーロー、主役を演じようとしていたTOS時代の演技をある意味裏切って、そして更に先を行ったという風に思えてならないんですよね、最近。
たぶん、TOS時代のシャトさまがそのままこのシーンを演じていたとしたら、同じセリフでも、きっと誰もが感動するとても劇的でカッコいい死に顔を見せていたと思う。
けれど、年齢を重ね、様々な経験をして来たシャトさまが出した答えはあの演技だった。
最初は全然カッコ良くない死に様と死に顔に愕然としていたのですが、何回も見ているうちに、こんな考えになったというただのバカ話でございましたぁ。