8月27日付けの読売新聞で「民間の若手社員 自衛隊にレンタル移籍…人材確保へ防衛省検討」という記事(http://job.yomiuri.co.jp/news/jo_ne_07082709.cfm)が掲載された。内容は、少子化や民間企業志向の影響で若手隊員の人材確保が難しくなっている防衛省が、民間企業の若手社員を自衛隊に2~3年の期限付きで入隊させる「レンタル移籍制度」の創設を検討しているというもの。そもそも、自衛隊は精強な部隊を維持する上で若手隊員を確保する必要があるため、2、3年の期限で勤める「任期制自衛官」の制度を設けている。数回の任期を終えた自衛官は、警備会社や運送会社などのほか公的機関では警察や消防などに再就職するのがふつうだ。
ところがこうした大量採用、大量退職を前提とした制度では良質の人材確保が困難になる恐れがあり、団塊世代の大量退職などで企業が採用者数を増やしていることや、大学進学率の増加が見込まれることから、防衛省の人的側面検討会は中長期的に人材確保が困難になると予想しているという。
そこで防衛省が目に付けたのがプロサッカー業界で普及している「レンタル移籍」。公的機関や企業に採用された若手職員・社員・内定者を2、3年の期間、自衛隊の任期制自衛官として勤務させ、任期満了後に元の採用元に復帰させることを考えたのだ。もちろん、身分は通常の自衛官と同じで、待遇や訓練内容も変わらない。しかも入隊後は数か月間の基礎教育を経て全国の部隊に配属され、災害派遣など実際の現場での活動が想定されているという。
徴兵制のない日本で防衛省が人材確保に苦心してよりフレキシブルな制度を思いついたこと自体はそれほど驚くべきことではない。郵政民営化をはじめいまや公的機関は民営企業との競争に否が応でも直面せざるをえなくなっている。
より重要なのは、企業がむしろこの制度を歓迎していることだ。その背景にあるのが企業で高まる「自衛隊人気」。現在でも自衛隊は企業の研修に協力する形で、3~4日間の社員の体験入隊を受け入れており、昨年度の陸自への体験入隊は約1万5000人にのぼる。(年々増加しているようだ。)企業からは「団体生活を経験して社員の意識が向上した」などの声が寄せられ、任期制自衛官が退職後に就職した企業の人事担当者からも「自衛隊経験者は規律がしっかりしていてまじめ」と評判が高いという。
POSSEの「style3」http://npoposse.jp/style3/にもあるように、現在企業は終身雇用や年功序列を若者に対して放棄しており、もはや終身雇用と年功序列に支えられた「会社に一生を捧げる労働者」を再生産することはできない。企業社会が崩壊する中、容易に解雇をつきつけられる不安定な非正社員が増加している一方、「辞めることが許されない」社会でドロップアウトすることによる差別を恐れ、超長時間労働やサービス残業など過酷な状況に耐え続ける正社員がいる。
今回の制度はおそらく後者に向けられたものだ。終身雇用や年功序列を保証できない企業が、それらに替わるものとして「レンタル移籍」制度を設け、若者を従順に働かせ続けるために自衛隊に規律や集団意識を叩き込んでもらおうというのだ。しかもこの制度は社会で広まっている「今の若者はなまけていてだらしがない」という若者バッシングと親和的であるため、世間的にもウケがいいことは間違いないだろう。しかしもちろん、就職したばかりの新入社員が会社に「レンタル移籍」を告げられて断れるはずがない。(誰も自衛隊に「移籍」なんてしたくないというのが本音だろうが…)
「冗談でしょう?!」と思ってしまうこの制度だが、防衛省が具体的方法について検討するなど着々と議論が進んでいる。この制度の普及で若者がさらに過酷な雇用環境に追い込まれていくのは間違いない。POSSEとしては、政府と企業が手を取り合って制度を変えようとしているところに、「style3」などの政策提言で介入していくことがいっそう重要となってくるだろう。(priv)
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