前回のエントリではバスタブ曲線を用いて、以下のことを説明しました。
バスタブ曲線は、故障率の時間変化のモデルとして半ば常識化していますが、それが妥当であるかについての検討は意外なほどなされていません。ある種の「神話」と化しているのかもしれません。
RCM手法の開発の過程で実施され、Moubray氏のRCM解説書でも紹介された研究を紹介します。1960年代に米国ユナイテッド航空で集められた航空機のコンポーネントの故障データを、故障率のパターンごとに集計した結果を以下の表にまとめます。

表に故障率パターンAとあるのがバスタブ曲線です。この行の「比率」の欄に4%とあるのは、研究で取り上げたアイテムのうちパターンAに該当するものの比率です。たった4%です。これでは普遍的なモデルとは言えません。
パターンBとCは初期故障がなく時間経過と共に故障率が増大します。パターンBでは偶発故障期と摩耗故障期が区別できるのに対して、パターンCでは一貫して故障率の漸増傾向が見られることが特徴です。
パターンD、E、Fには摩耗故障期が存在せず、一定の故障率がずっと続きます。つまり決まった寿命は存在しないということです。このようなパターンに該当するアイテムでも時間の経過と共に故障が発生するはずですが、それはランダムに起きる偶発故障であって経年劣化の現れではありません。
前回のエントリで述べたようにバスタブ曲線(パターンA)に該当するアイテムであれば適切な頻度での時間計画保全によって劣化故障を予防できます。パターンBについても同様です。パターンCの場合は故障率の明確な立ち上がりがないので最適なタイミングは自明ではありませんが、故障率、故障損害、予防保全コストのトレードオフを考えることによって最適な時間計画保全の方針を設定できるはずです。ところがパターンD、E、Fの場合は摩耗故障期が存在しないので、時間計画保全を行っても故障率は低下しません。結局、時間計画保全が有効であるアイテムは11%(=4+2+5)であるのに対して、時間計画保全が有効でないアイテムは89%(=7+14+68)に上ります。
初期故障にも注意が必要です。パターンAとパターンFには初期故障期があるので、保全を行うたびに初期故障期を繰り返すことになります。つまり時間計画保全の頻度を増すと信頼性が低下するのです。この二つのパターンに該当するアイテムは全体の72%(=4+68)です。また、初期故障期の有無にかかわらず保全作業には何がしかのコストが伴うわけですから、有効性のない時間計画保全はいずれにしても有害無益です。
航空機の保全においては、この研究結果を受けてRCM手法が開発され、オーバーホール(分解点検)を中心とする時間計画保全が大幅に見直されることとなりました。
今回の内容を以下にまとめます。
参考エントリ:故障率曲線に関する4つの研究
- 適切なタイミングで時間計画保全を行うことによって劣化故障を予防できる
- 時間計画保全は初期故障と偶発故障を予防するものではない
- 過剰な時間計画保全は初期故障の発生を増加させて信頼性を損なう
バスタブ曲線は、故障率の時間変化のモデルとして半ば常識化していますが、それが妥当であるかについての検討は意外なほどなされていません。ある種の「神話」と化しているのかもしれません。
RCM手法の開発の過程で実施され、Moubray氏のRCM解説書でも紹介された研究を紹介します。1960年代に米国ユナイテッド航空で集められた航空機のコンポーネントの故障データを、故障率のパターンごとに集計した結果を以下の表にまとめます。

表に故障率パターンAとあるのがバスタブ曲線です。この行の「比率」の欄に4%とあるのは、研究で取り上げたアイテムのうちパターンAに該当するものの比率です。たった4%です。これでは普遍的なモデルとは言えません。
パターンBとCは初期故障がなく時間経過と共に故障率が増大します。パターンBでは偶発故障期と摩耗故障期が区別できるのに対して、パターンCでは一貫して故障率の漸増傾向が見られることが特徴です。
パターンD、E、Fには摩耗故障期が存在せず、一定の故障率がずっと続きます。つまり決まった寿命は存在しないということです。このようなパターンに該当するアイテムでも時間の経過と共に故障が発生するはずですが、それはランダムに起きる偶発故障であって経年劣化の現れではありません。
前回のエントリで述べたようにバスタブ曲線(パターンA)に該当するアイテムであれば適切な頻度での時間計画保全によって劣化故障を予防できます。パターンBについても同様です。パターンCの場合は故障率の明確な立ち上がりがないので最適なタイミングは自明ではありませんが、故障率、故障損害、予防保全コストのトレードオフを考えることによって最適な時間計画保全の方針を設定できるはずです。ところがパターンD、E、Fの場合は摩耗故障期が存在しないので、時間計画保全を行っても故障率は低下しません。結局、時間計画保全が有効であるアイテムは11%(=4+2+5)であるのに対して、時間計画保全が有効でないアイテムは89%(=7+14+68)に上ります。
初期故障にも注意が必要です。パターンAとパターンFには初期故障期があるので、保全を行うたびに初期故障期を繰り返すことになります。つまり時間計画保全の頻度を増すと信頼性が低下するのです。この二つのパターンに該当するアイテムは全体の72%(=4+68)です。また、初期故障期の有無にかかわらず保全作業には何がしかのコストが伴うわけですから、有効性のない時間計画保全はいずれにしても有害無益です。
航空機の保全においては、この研究結果を受けてRCM手法が開発され、オーバーホール(分解点検)を中心とする時間計画保全が大幅に見直されることとなりました。
今回の内容を以下にまとめます。
- 実データに基づく研究によると、バスタブ曲線は普遍的なモデルとは言えない
- 摩耗故障期が存在しないため時間計画保全が有効でないアイテムが多い
- 有効ではない時間計画保全を行うことは信頼性やコストの上での損失である
参考エントリ:故障率曲線に関する4つの研究