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3本の骨 01

2015-01-20 | i


*すべてフィクションです。使用している画像は合成です*



紀州犬だけれど背中にすこし茶色がまざっているから
あいつは俺のところへ来た。
まだ目のあかないのもいるよ。
あれはもうおっきいの。
二匹うまれたけどメスのほうはカラスにもっていかれた。

Kさんは僕の削いだ皮の内側を見て脂肪がまだ2枚くっついている、と言う。
こちらに来てナイフの使い方を見せてくれた。
「鹿は簡単だ。15分でできる。けどもシシはな」
Kさんは皮と皮下脂肪の間に細かく刃を差し込み、丁寧に少しずつ脂肪をこそぎ落とす。
「毛穴が見えれば大丈夫だ。左利きだから右用のナイフだとここがあたる。
これを使いなさい。わしはこれがいい」
手渡されたナイフには初めて見る生々しさがあった。
野菜に新鮮なものとそうでないものがあるように、ナイフにもそういうものがあったのだ。
このナイフは、赤い血にまみれている。人類がナイフを生み出したその起源を知っている。
このナイフはナイフとしての秩序を持っている。規律を持っている。
人間を知っている。
自らを生み出した人間の、ある突端にマップされているものが何かを、
自分の存在理由を知っている。


夢を見た。
教室で女の子が撃たれた。窓際にいる犯人が生徒達を銃で威嚇している。
僕は撃たれた女の子をかついで脱出した。
非常灯を頼りに保健室に向かった。
犯人に気づかれた場合、保健室では女の子がすぐに見つかると思い理科室に運び込んだ。
だけど、もし犯人が僕と撃たれた女子生徒の脱出に気がついたら、残された生徒達に危害を加える
のではないかと悩んでいるところで目が覚めた。





ドラム缶はどうやって手に入れるのだろうと考えていた。
扇風機のこここここという音、こここここという青空のような夜。

時間に取り残された昼の川辺、発電機の地響き、16匹の白い犬。
連れ去られたメスの子犬が見た、空の下ののっぺりとした昼の川辺。
連れ去ったカラス、山、発動機の響き、レンガのような砥石と4本のナイフ。
あのドラム缶はどうやって手に入れるのだろう。
両手で目を囲んで部屋のまどから火を眺める。
ヘチマのつる越しに見えるまぼろしの火の粉、ぱちりと乾く圧搾された木炭の音に
部屋の灯りが混濁して漸く見えるものに意識が触れた。
火は消えているよ。
視ていてくれたの。
ありがとうを言って席についた。

ゆっくりしなよ。と言われたとき、僕にはその方法がわからないのかもしれないと
返事をした。
杉の葉はよく燃えるから、茶色くなった杉の葉を枝ごと集めておくといい。
そう言って炭の上に葉を入れた。
こんな知識、君が知ったところでなんの役にも立たないけれど。くすくすと笑った。
火を絶やさないことに。
火に照らされる影の。その造形の為に組み立てられるピラミッドへの執着に充足を感じていた。
それ以来、よく火を焚くようになった。
傍に彼女がいるのに、僕は一人きりになることができた。
紺碧の火の深い溜まりに降りて行くハンスコパーの後ろ姿は、海水浴に出かけるようにも見える。