体外受精ステップアップセミナーで、よくあるご質問についてお答えいたします。
今回の記事は、体外受精ステップアップセミナーでのご質問について:2017/12/9開催分から抜粋したものになります。
Q6. 治療年数が長いのと金額的に治療できる回数が限られていて、多胎も考えているのですが、初めての体外受精では難しいのでしょうか?あと、流産死産をしているので、そのリスクを考えると多胎を考えない方がいいのでしょうか・・・
A6. 院長朝倉です。かつては体外受精による妊娠率を高める為に、複数の受精卵を子宮に移植することが日常的に行われてきました。その背景としては、より着床しやすい胚盤胞を育てる培養技術が確立していなかったことと、受精卵を凍結することで胚の質が低下する可能性が高かったことが挙げられます。これまで日本の体外受精は、多胎妊娠(同時に二人かそれ以上の胎児を子宮に宿すこと)を治療の目標とすることはありませんでしたが、30歳代で2個の受精卵を同時に子宮に移植すると、約2-4割の妊婦が多胎妊娠になります(図1)。
図1
多胎妊娠では、早産により出産時期が約3-4週間早まることが通常となり、胎児が未熟の状態で生まれる可能性が高くなります。未熟で生まれる胎児は、人工呼吸器による治療が必要になり、脳、眼、肺、心臓等の内臓が未熟でもあるので、生涯続く後遺症が発生する可能性が高くなります。 多胎妊娠は、母体へも妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、胎盤異常などの出産リスクを高くする合併症が多発することが知られ、出産も帝王切開になる可能性が高くなります。 一度の出産で、二人の子供を得ることで、今後の治療を受けなくても良くなる利点はあるかもしれませんが、それと引き換えに新生児および母体への身体的なリスクを受け入れる必要があります。また、新生児を2人、特に未熟で生まれる場合の育児労力も大きく、多くの多胎出産後の体力的、経済的および精神的負担に悩む場合が少なくありません。
参考:東京歯科大学市川総合病院リプロダクションセンター「多胎妊娠のリスクと予防」
ガラス化法というより胚に負担の少ない受精卵の凍結保存方法が普及したことから、2008年に日本産科婦人科学会は、下記(図2)の胚移植個数についての学会ガイドラインを発表しました。
図2
当院でも、妊娠ではお一人を出産されることをお勧めし、上記のガイドラインを基本とした移植個数をお勧めしています。結果として当院の体外受精による多胎妊娠(ほぼ双胎のみ)の発生率を4%程度に抑えることができています。
図3
移植する胚の個数は、患者の年齢や治療経過(回数や結果、胚の状態)、出産される母体の健康状態等を元に、予想される治療結果(妊娠率)と副作用(多胎妊娠率)のバランスを考えてお勧めしますが、患者ご夫婦のお考えを最優先するようにしています。
特に早産、流産や死産を繰り返される女性へは、多胎妊娠が流産や早産のリスクをより高める場合があるので、複数胚の移植は慎重であるべきと考えます。
今後、一層当たり前の生活が困難になると予想されています。生まれた赤ちゃんが立派な社会人になるまで養育するのに長い時間と2-3千万円以上かかる時代に、赤ちゃんの可能性を最大限に引き出せるように、できるだけ健やかに出産し、一人一人と濃厚に向き合い、丁寧に育児していただけるご判断を期待しております。
扇町ARTレディースクリニックのホームページはこちらからどうぞ
最新の画像もっと見る
最近の「よくあるご質問・セミナーのご案内」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事