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おふぼん。

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ICO/宮部みゆき

2011-06-04 | 小説
わーい(ノ´д`ノ。・ゎーぃ・。\´д`\)
『ICO』と『ワンダと巨像』がHDリマスターでPS3に降臨決定。
それも9月22日。思ってたより早い。
そのうえコナミがいろんなものをHD化。
と今日は少し小躍りしてしまいそうになりましたが、
この『ICO』。小説版が出ております。
宮部みゆきですね。
日本エンターテイメント小説家のお一人です。
いつかは『幻想水滸伝』を書くんじゃないか、
いやそれはもう『大極宮』でやったかとか思わなくもないですが、
とにかく、彼女が『ICO』の小説版を書いております。

経緯を少し記憶を頼りにおさらいすれば、
大沢在昌と京極夏彦とご一緒に立ち上げた大極宮。
これ、当時、出版社は脅威に感じたんですね。
作家自らが出版社を立ち上げるのではないか、と。
そう言うのも、僕の記憶が正しければ、新文化という業界専門新聞で、
大沢氏が「リストラされちゃった営業さんとかうちで雇ってみるのも良いかも」
と発言したことで、「ひいいいっ!こいつらマヂかよ」となった結果、
突然、宮部ちゃんが『ブレイブストーリー』を発表。
その後、京極さんも解き放たれたように様々なジャンルをお書きになった。
それも様々な出版社で。
慌てた出版社が媚びた、としか言いようがないんですが、
まあ大沢さんからしたらしてやったり。
これを表しているのは出版社の歪な構造で、
ある意味、結果を出して自分たちで舵を切れたら作家は好きなものが書ける、
その目標地点が「宮部みゆきである」と若い作家に示したようなものなのです。
だから直木賞というのは、作家にとって、はっきりとした目標地点となったと思います。
直木賞さえ取れば、自分は出版社の縛りから解き放たれる、と。

少し『ブレイブストーリー』に触れておくけれど、
『ブレイブストーリー』は元ネタというか、
イメージを想起させたゲームがありまして、これが『ブレス・オブ・ファイア3』。
このゲームの世界感を小説に落とし込みたかった、と宮部ちゃんも申しておる次第。
公言されたカプコンは販促誤ったね。ってか早く言えよ!!!となった可能性もあるかもな。
刊行されてから言われたから、確か。

さて、『ICO』は『ブレイブストーリー』の成功を受けて、
ミステリィというカテゴリーから羽ばたくことができた宮部ちゃんが、
どうしても書かせてとゲームの創世者でもある上田文人氏と直接話をし、
週刊現代(だったと思う)に連載を開始。
そう、これを週刊現代に連載したってんだからまずすごい。
まったく噛み合ってませんよ。
が、出版社の事情と宮部ちゃんサイドの事情なんだろうな、
と思うのでありますが。

さて、そして連載終了後に無事単行本として発売。
そして、実はこれがそんなにヒットしなかった。
ゲームのノベライズと思われた面が強かったからかもしれないし、
一般的に宮部=ミステリィという読み手サイドの意識が強かったからかもしれない。
また、『ブレイブストーリー』自体を受け止めきれなかった人が多かったからかもしれない。

作家というのは自分の思い入れが強い作品ほど、中身にいろいろと注入しすぎる。
宮部みゆきという作家もその一人で、僕個人は彼女の最高傑作はSF大賞を取った『蒲生邸事件』
と思うのだが、これは松本清張の『昭和史発掘』へのリスペクトに溢れた傑作。
ミステリィとタイムトラベルというSF要素と歴史を絡めた名作だが、
『ブレイブストーリー』は宮部ちゃんにとっては愛すべきゲーム的世界を展開させすぎた。
いわば「はっちゃけ宮部ちゃん」だったわけで(失礼)それでいてラストが弱い。
そう、この宮部みゆきという作家は書きたい部分を書き終えると、
動機とかラストが少し駆け足になり、おざなりになりがちなのだ。
『ブレイブストーリー』もご多分に漏れず、「ここまで引っ張っておきながら」
という展開になったわけだが、この『ICO』は違う。

だって、元のゲームに忠実且つ、ゲームではフォローできてない部分を補完した小説だからだ。
つまり、ラストは上田氏に準ずることが可能。
宮部ちゃんとしてはやりすかった作品ではないかと思う。

『ICO』というゲームは要約すれば、生け贄となった角の生えた少年が、
霧の城からの脱出を試み、その過程で一人の少女と出会い、
共に城を抜け出すという物語。
宮部ちゃんとしてはこの物語設定というか、お話のプロットをなぞり、
そこに妄想を詰め込めば良かった。
その妄想部分が、「少女・ヨルダ」である。
彼女に関してはゲームではぼかされている部分が多く、
ゼルダ的ゲームの発展型である『ICO』の語られていない部分にスポットをあてることで、
物語に重厚さを加味させる。
また、主人公の少年イコの宿命しかり、ヨルダしかり、「大人の都合で翻弄される子ども」
という点では、現代における児童虐待を想起させる部分もあり、
やはりどこか社会派の写実的な面を持つ作家・宮部みゆきを彷彿とさせる。
つまり、宮部にしか書けなかったな、と読後思う箇所が多く、
単純なゲームノベライズになっていない点で、非常に重厚なファンタジー小説となっており、
詰め込みすぎた『ブレイブストーリー』よりもあっさりしているので、
個人的には非常に読みやすかった。
また、「城からの脱出」という前提条件、つまり密室からの脱出劇という点で、
宮部ちゃんのエンターテイメント性とミステリィで培った筆力・発想力が活きてくる。
この点にも注目していただきたい。

なお、現在書籍版・ノベライズ版・文庫版と3種類刊行されており、
主な書店に陳列されているのはおそらく文庫版であろう。
が、できれば写真にあるノベライズ版をぜひ、と個人的には思う。
書籍版でも良い。一冊にまとまっているべき作品、と僕は思うからだ。
またノベライズ版のイラストを描かれた放電映像氏が良いのだ。
だから僕はノベライズ版を推す。

宮部みゆきという大衆作家が書いたライトノベル、
とも言えなくないが、その世界観を味わい、
ゲーム自体を「やってみたい」と思わせる可能性を秘めた一冊。
個人的には、ゲームともどもオススメです。


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