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Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

宮部みゆき「チヨ子」

2012-01-04 22:26:32 | 読書感想文(国内ミステリー)



年末年始のお休みに、宮部みゆきの新刊「チヨ子」を読みました。
裏表紙の解説によると、「個人短編集に未収録の傑作ばかりを選りすぐった」贅沢な一冊だそうです。
私は宮部さんの小説を読むようになってもう10年以上になりますが、宮部さんの小説は何冊も続く長いものより
薄めの一冊あるいはそれ以上に短い作品のほうが、ストーリーがすっきりまとまっていて読みやすく
完成度が高いですね(※個人の感想です)。そして、この本のように宮部さんが書くファンタジー&ホラーは
とてつもなく不条理で後味が悪かったり、後ろを振り返るのが恐くなるほどぞっとするものが多いので
かなり期待して読みました。

短編集でなおかつ初出した時期にかなりの幅がありますので(1999年から2010年)、今読むと「?」と思うほど
懐かしい空気の作品もありますが、とりあえず総評は後にして、まずは各作品の感想から。

「雪娘」
小学生の時、主人公の同級生の一人が何者かに殺された。主人公は卒業した小学校が廃校になることをきっかけに、
久しぶりに当時の仲間たちと集まるが…同級生の少女・雪子を殺したのは誰か、いろいろ深読みしながら読んたら
最後にドカーンときました。限られたページ数のなかでの犯人探しは、対象が限られるのでやりやすいはずなの
ですが…「この人が犯人であってほしくない」と思ってしまう読者(=私)の心理をまんまと利用されました。
だって、雪子を殺した犯人と同じように、何者にもなることができず、日々を生きていくだけで精一杯の人は
たくさんいると思うから。私のように。

「オモチャ」
主人公クミコの家の近所の商店街にある玩具屋に、幽霊が出るという噂が流れる。さびれた商店街にある、
更にさびれた玩具屋にはいい評判がなかったが、実は玩具屋の店主はクミコの父親の叔父だった…読み終わって
みると、特に大きな騒動が起きる話ではないのですが、商店街がさびれていく様子とそれを食い止めることも
できずただ流されていくだけの人々、という図式が他人事ではなくて心に残りました。自分の身の回りで起きる
出来事に、「かわいそうだ、理不尽だ」と腹立たしく思うことはできても、それを正すことはできない。
噂好きの人は噂で、欲深い人はその欲で、無神経な人はその無神経さで人を傷つけ追いつめても、
“必要悪”という言葉で許されてしまう。大人になったクミコが、これから大人になる子供たちが、そういった
“自分の都合のいいように現実をねじまげて解釈し、都合の悪いことは存在を無視する”人間にならないことを
祈ります。

「チヨ子」
大学生の「わたし」が、アルバイトで着た古びたウサギの着ぐるみは、なんとそれはかぶって中から外を覗くと
人がぬいぐるみやロボットに見えるのだった…着ぐるみから見えるのは、その人が子供の頃大切にしていた
おもちゃたちでした。ぬいぐるみを大事にしていたひとはぬいぐるみに、ロボットのおもちゃを大事にしていた人は
ロボットに。なんとも胸をせつなくさせる、ノスタルジックな作品です。

“何かを大切にした思い出。
 何かを大好きになった思い出。
 人は、それに守られて生きるのだ。それがなければ、悲しいくらい簡単に、悪いものにくっつかれてしまうのだ。”
(本文より)

子供の頃、大好きだったくまのぬいぐるみを思い出しました。今は等身大の動くクマ(=マリコ)がいるけど…。

「いしまくら」
小さな出版社につとめる主人公が、中学生の娘が書いた、住宅地にある公園で殺された女子高生の幽霊騒動について
書いたレジュメを検証する話。殺された女子高生には良くない噂が広まっているが、果たして真実は…主人公の
娘の麻子が言う、「なぜ殺された女子高生について悪い噂が広まるのか」という根拠の、
「『素行の悪い不良娘だったから殺された。だから素行の悪くない自分たちは殺されない』と思って安心したい」
という論理は、かつて宮部さんの「模倣犯」にも出てきました。あのときは違和感なくなるほどと思えたのですが、
今回は…中学生の麻子がこんな達観したことを言うのか?という疑問が先にきてしまいました。
「オモチャ」同様、人の口から口へと伝わる「噂」がテーマになっていますが、「オモチャ」よりもこちらのほうが
やや理屈っぽい感じがしました。“人は己の見たいものしか見ない。見るのは心の内側ばかりだ”(本文より)が
私の心にグサッと突き刺さったからかもしれませんが。

「聖痕」
調査会社を経営する<わたし>のもとにやってきたのは、12年前に当時14歳で母親とその内縁の夫を殺害した少年の
実の父親だった。少年はとうに刑期を終えて社会復帰していたのだが、ある日親を殺した自分を神とあがめる人々が
集うサイトを発見し…この短編集の約半分を占める読みごたえのある作品ですが、ほどよいボリュームで読みやすくも
ありました。スピーディなどんでん返しにはあっさりダマされましたし。そもそも、主人公の<わたし>のように
親や教師といった人たちとは異なる立場から子供に接する人は、宮部作品ではたいてい“いい人ポジション”に
いるので、今回もそういう立ち位置なんだろうと勝手に解釈していました。いやはやなんとも。
というわけで読者をだますお手並みは大変鮮やかなんですが、小説の読後感はすさまじく悪かったです。
幼少期から悲惨な目にあわされ続けてきた少年が気の毒で気の毒で…むごすぎて泣きそうになりました。
主人公の<わたし>にも同情したいところはあるんですが、その狂気に身震いする気持ちのほうが強かったです。
「私は正しい」と思い込むことほど恐ろしいことはないのだなぁと。押しつぶされるほど罪悪感を持つ必要も
ないけど(大抵罪悪感って持たなくていい人ほど持ってるよね)。


全部読み終わってみたら、一番印象に残ってないのは「いしまくら」でした。まあ、特に大きな動きのある
話じゃないしね…でも似たようなテーマの「オモチャ」は残ってる。たぶん、クミコの父親が玩具屋の主人に
対して感じている気持ちがわかるからなんだろうなぁ。手助けすることができない相手に対して、もどかしく
思う気持ち。後悔ってあんまりしたくないけど、後悔できない人にはなりたくない、です。
内容の重さにもかかわらず、エンターテイメントとして楽しめたのは「雪娘」と「聖痕」。限られたページ数の中で、
大御所の職人技を楽しませてもらえたので満足です。でも、満足できた一番の理由は、宮部先生の

読んでるこちらが恥ずかしくてもぞもぞしてしまうほどの少年愛

がなかったからかも?宮部さんどうしたの?何か悪いもんでも食べたの?


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