Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

高野史緒「カラマーゾフの妹」

2014-07-26 00:17:58 | 読書感想文(国内ミステリー)


第58回江戸川乱歩賞受賞作、「カラマーゾフの妹」を読みました。

その理由は、図書館で高野和明の本を取ろうとして間違ってこの本を手に取って、そのまま高野和明の本だと勘違いして借りてしまったから。高野和明が江戸川乱歩賞を獲ったのは「13階段」だろうが私よ…しかもそれ読んだことあるじゃないか私よ…。

かの有名な「フョードル・カラマーゾフ殺害事件」から13年。父親を殺した罪で流刑となった長男ドミトリーは、刑期の途中シベリアで死亡。次男イワンは内務省の特別捜査官となり、凶悪事件の犯人逮捕に追われている。三男のアレクセイは見習い修道士をやめ、結婚して教師となっていた。
ある日、イワンは父フョードルを殺した真犯人を探るために、故郷に舞い戻ってきた。同行者は帝国科学アカデミー会員の貴族・トロヤノフスキー。しかし、13年前の事件の真相に迫るべく2人が捜査を始めたその矢先、新たな殺人事件が起きた。しかも、被害者に遺された凶器の跡は、かつてフョードルの死体に遺されたものと一致していた…


昔から名前は知ってるけど読んだことないロシアの文学作品と言えば、「アンナ・カレーニナ」、「罪と罰」、そして「カラマーゾフの兄弟」の3つ。その理由は長いから。登場人物の名前が覚えにくいからというのもあります。中学生の時、友人の家の本棚で「アンナ・カレーニナ」を見つけたとき、好奇心で手に取って開いたら、中から友人のお父さんが書いた登場人物の覚書がはらりと落ちてきました。しかもそれは、どう見ても“最初は熱心に細かく書いてたけど、途中で飽きたのかだんだん雑になっていった”のがわかる内容。まだ中学生だった私は、それを見て「ああ、私にはロシア文学絶対無理」と悟りました。そしてそれから四半世紀以上の時がたち、変則的な形でロシアを代表する文学作品のひとつ「カラマーゾフの兄弟」に触れることになったのです。フジテレビのドラマのほうじゃなしに。(今思えば父親役は吉田剛太郎だったんだから見ればよかった)


で、感想。

ロシアの文学作品の続編を、日本のSF作家がミステリー小説として書くというのは突飛な発想だなと思いましたが、実際読んでみると、正直な話突飛すぎてついて行くのが大変でした。登場人物の設定からして、私みたいにオリジナルの「カラマーゾフの兄弟」を読んでない人にはともかく、オリジナルに思い入れがある人は、違和感があって落ち着かないだろうなぁと。

もっとも、名探偵シャーロック・ホームズだって、パロディだのオマージュだのでスピンオフ的な小説はたくさん書かれているので、この「カラマーゾフの妹」もそのひとつとして存在してもおかしくはないでしょうけど。

小説の構成は、イワン・カラマーゾフ視点とトロヤノフスキーの視点、そしてアレクセイ・カラマーゾフの視点の3つで書かれていて、各章ごとにトーンが変わるので前半はかなり戸惑いました。なんせ、ロシアを舞台にした小説ってほとんど読んだことないので。せいぜい「チャイルド44」シリーズくらい。ミステリーと思って読んでたらロケットとかコンピューター(ここでは計算機器と呼ばれてました)とかが現れて、まるで荒俣宏の「帝都物語」のよう。なのでこのあたりを読んだときに「あちゃー、もしかしてトンデモを踏んじゃったかも?」と焦りました。

だがしかし、SF要素を挟みつつも基本はフョードル・カラマーゾフの死の真相を探るミステリー。イワンが多重人格とか、事件を陰で操っていた人物の特殊能力とか、うさん臭い要素はあるけれど基本はミステリー。真犯人(というか実行犯)が誰なのかは初めからうっすらわかってたけれど、クライマックスの謎解きの場面はミステリーとしての態を成していました。ぎりぎり。惜しむらくはその謎解きの場面が非常に説明的でひねりが足りなかったことでしょうか。淡々としすぎていて、ほんとにこれがクライマックスなのかと疑いたくなるほどでした。

そんな事件の真相よりも面白かったのは、エピローグの話。「江戸川乱歩賞」を意識したわけではないでしょうが、真犯人の晩年の姿が乱歩の有名な作品に出てくるアレにそっくりだったので、なんかきれいにまとまった気がしてすっきりしました。オリジナルの作品の彼のファンの人には、阿鼻叫喚ものの姿ではありますが。

あと、小説とは別に面白かったのが、江戸川乱歩賞の各選考委員のコメント。石田衣良、京極夏彦、桐野夏生、今野敏、東野圭吾といった錚々たる顔ぶれが、受賞作「カラマーゾフの妹」を含む最終選考に残った作品をぶった切っているのが興味深かったです。これを読むと、選考委員全員が受賞作を高く評価しているわけでもないし、高く評価している人でも世界的に有名な作品をベースに書くという禁じ手に対して「もう同じ手は通じない」と釘を刺しているのにスッキリしました。

今回は私の知識不足のせいもあって「???」な部分も多かったですが、作者の高野史緒さんはSF小説をメインとされてるそうなので、次はもっとがっつりSFな作品を読んでみたいと思います。SF最近読んでないから、それはそれでハードルが高そうだけど…。


あ、あと最後に一つだけ。

妹、ほとんど出番がねぇ。

タイトルにあるくらいだから、もっと出番があると思ってたぜ。ちっ。

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