Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

湊かなえ「サファイア」

2016-01-24 17:36:48 | 読書感想文(国内ミステリー)


つい最近、収録作品の一つがドラマになった、湊かなえの短編集「サファイア」を読みました。
宝石をモチーフにした7編の短編ミステリーが収録されています。


湊かなえといえば、「告白」とか「贖罪」とか、読後にイヤ~な気分になる作品が多いので、彼女の書くものは「嫌ミス」なんて呼ばれ方をしていますが(※個人の感想です)、この「サファイア」に収録されている短編の中には、そうでもないものもあって新鮮でした。もちろん、読み終わった後イヤ~な気分になるものもありましたが。もう、それはお約束ということで。

表題作の「サファイア」とそれに続く「ガーネット」以外の5編は、共通点のない独立した話でした。どれも短くてあっさりさくさく読める軽いものばかりですが、ひとつの短編種にこれだけバラエティ豊かにそろえられる湊さんはさすがだなと思います。相変わらずだなと思う点も多々ありますけどね。

それでは、各短編の感想を。短い話だしネタバレを回避したので感想も短いです。

「真珠」
お世辞にも美しいとは言えない中年女性の自分語りを聞く男性。彼女はなぜ彼に自分の話を聞かせるのか。彼は彼女の話を聞くうちに、あることに気がつくのだが…。
結末の予想がつかなくて、読みながらあれこれ想像しましたが、最後まで読んでも結局「なにがなんだか」でした。いやそんなにうまくいくのかよ、とか。ツッコミどころが多くても逃げ切れるのが、作者にとっては短編の長所で、読者にとっては短所なんだなぁという感想。でも、この話で女の一人芝居を作ったら、面白いかも。タイトルの「真珠」は、女がかつて持っていた真珠のイヤリングのことかと思いきや、そうではなかったことが最後にわかって、「やっぱりこの本も嫌ミスかぁ」とこの時点では思いました。ちなみに私の頭の中では、中年女性は富士真奈美に変換されてました。

「ルビー」
東京の出版社で働く女性が、瀬戸内海の小島にある実家に帰省した。彼女の実家の畑のすぐ隣には、ある施設が建っている。彼女の家族は、その施設にいるある老人と懇意にしていて、毎日ベランダ越しに挨拶を交わしているというが…。
地方の濃すぎる人間関係と、そこからくる閉塞感を描くのがうまい湊さんですが、この話はわりと爽やかでした。過疎化の進む瀬戸内海の小島に、“ある施設”が建てられた経緯は、全然爽やかではないですけど。うーん、今は「こんな施設ありえない!」って言えるけど、今に現実化してしまうかも…?過疎化が進んでいて、しかも周りを海に囲まれている場所が、どんなことに利用されるのか。いろいろ暗い想像が頭をよぎるけど、それらに比べたらこの施設はまだマシなのか?小説の最後の会話で、都会で1人暮らす姉と田舎で両親とともに暮らす妹の思いには、隔たりがあるように見えて根底ではつながっているのがわかってほっとしました。我が家の場合はどうかというと…とても他人様に聞かせられるつながりではないなぁ。

「ダイヤモンド」
お見合いパーティで知り合った女性にプロポーズした直後、道端でけがをしたすずめを助けた男性のもとに、茶色い服を着た若い女性が「私はあの時のすずめです。恩返しをさせてください」とやってきた。ためしに男性は、自分がプロポーズした女性が何を欲しがっているのか調べてほしいと頼むが…。
まさかのファンタジー。小説冒頭の男性のハイテンションから、きっとロクな結末にならないぞと思ったら案の定、の展開でした。結末の後味もさることながら、途中で明らかになる真実もダメージが大きかったです。すずめを助けるなんて優しい人だなぁと思っていたから、男を気の毒に思っていたのに。映像があればすぐわかることでも、文章ではわからない。そこに自分がまんまと騙されたことを悔しくも思いました。結局、真相はどうだったのか。ファンタジーだと思えば納得できる細かい点も、ファンタジーでないのなら突っ込まざるを得ないので、そこはがっかりでした。短編でも、緻密に計算して読者にぐうの音も出させない作家もいますけどねぇ。

「猫目石」
いなくなった飼い猫を探すマンションの隣人を手伝うことにした大槻家の一家。猫は無事に見つかったものの、その日から隣人は大槻家の家族それぞれに話しかけるようになり…。
タイトルは宝石の名前ですが、小説には宝石はでてきません。猫が発端だから猫目石、ってのはこじつけっぽいけど、後味の悪さも含めて面白かったです。登場人物全員が壊れている話だと、すっきりしない結末でも許せるんですよね。強引な展開だなぁとは思うけど。この話に出てくる猫の種類、ブリティッシュ・ショートヘア―を画像検索したら、想像してたのよりずんぐりむっくりした猫がたくさん出てきました。いや、ぬいぐるみみたいでかわいいけど。もっとスリムなのを想像してたので。こんなもふもふした猫に冷たくするなんて…大槻家許すまじ。

「ムーンストーン」
市会議員の妻の役目を、献身的につとめてきた女性。しかし、夫婦の生活は夫が県会議員選挙に落選したときから狂い始めた。妻は度重なる夫からの暴力に耐え続けたが、その矛先が幼い娘に向かったとき、ついに限界が来た。夫を手にかけ、留置場で絶望の中にいる彼女の下に現れたのは、中学時代の友人だった…。
叙述トリックは湊さんの十八番だというのがわかっているのに、妻が夫を殺害した現在と中学時代の回想までを読んだ後、再び現在に戻った時、またしてもうっかり騙されてしまいました。自分の思い込みが間違いだったことに気づいたときは、しまった!またやられた!と悔しくなりましたが、読後感が爽やかで、人は変われる、過去の自分から抜け出せるんだと勇気づけられたのでよかったです。逆に言うと、リーダーシップがあって周りから一目置かれている人でも、誰にも言えない闇を抱えていることがあるのだとも。それと、中学時代の久実が、教師からも生徒からも家族からも見下され、自分に自信が持てずにいる様子はいたたまれませんでした。こういう人のえげつなさを赤裸々に描くところが湊かなえなんですけどね。受け付けない人がいるのもわわかります。

「サファイア」
子供の頃から人にものをねだったことがない女性が、誕生日のプレゼントに指輪が欲しいと、恋人に人生初のおねだりをした。その結果、彼は彼女の誕生石のサファイアの指輪を用意したのだが…。
化粧にもファッションにも無頓着で超地味な主人公が、恋人のために思い切ってイメージチェンジしたら、別人に生まれ変わるというう「これが私…?」な展開は「ひと昔前の少女漫画かよ!」と突っ込みたくなりましたが、時代設定自体がひと昔前なので、これもアリなのかもしれません。まあ、それを差し引いても突っ込みたいところはありましたが。読み終えた後、これって倫理的にどうなんだとすっきりしなくてもやもやして、やっぱり湊かなえだなあと思ったのですが…。

「ガーネット」
「サファイア」の続き。あることをきっかけに小説家になった主人公は、自作が映画化し、主演女優と対談することになる。その対談の中で、主人公は美しい女優からは想像できないような意外な出来事を聞かされ…。
後味の悪い結末の復讐小説がベストセラーになるというのが、まるで主人公のモデルは湊さん本人なんじゃないかと思わされる出だしにギョッとしましたが、その後の展開はやや甘口だけど読者を不快にさせないものでした。人によっては、実際に被害に遭ったことがある人には、不愉快かもしれませんが。犯罪は犯罪ですし。主題は「サファイア」で起きた出来事の真相ですが、個人的には主人公が作家になるまでの話が興味深くて面白かったです。別に湊さん本人のことじゃないのはわかっているけど。以前、スマスマで湊さん本人が話してましたが、作家になる前の湊さんは普通の主婦で、カルチャースクールで小説の書き方を学び、30代半ばでデビューしたのだそうで。失礼ながら、カルチャースクール出身のベストセラー作家がいるとは思わなくて、驚いたので覚えています。これも事実は小説よりも奇なり、かもしれませんね。


湊さんは、“本屋に行くといつも平積みコーナーに置いてある”作家の1人なので、いつか読もうと思っているのにいまだに読んでない作品がいくつもあります。さて次は何を読もうかしら。「望郷」と「ユートピア」のどちらにしようかな…。



2 コメント

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Unknown (お姉様)
2016-01-24 21:36:11
そうねえ、お姉ちゃん大好き過ぎて、他人様には聞かせられないわねえ~

この本では、ムーンストーンが読後感が良かったので気に入ってる。人は変われる、それと思春期って自己否定の連続だから、肯定してくれた存在は、その後にも大きな意味を占めるのよね
そうねぇ (もちきち)
2016-01-24 22:20:08
>お姉様
大阪のお姉ちゃんのことを語ったら、ボリュームありすぎて大河ドラマの脚本になっちゃうものねぇ~
ムーンストーンの叙述トリックは、読者への引っかけだけじゃなくて、生き方次第で小百合と久実のどちらの立場にもなりうるんだって表現してて上手いな~って思うよ。

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