Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

東野圭吾の最高傑作?「名探偵の掟」

2008-10-18 16:27:42 | 読書感想文(国内ミステリー)


完全密室、時刻表トリック、バラバラ死体に童謡殺人…12の難事件に立ち向かうのは、名探偵の天下一大五郎。ワトソン役の警部・大河原番三を引き連れて、時には犯人を無視し、時には作者にケチをつけ、すべてのトリックを解き明かしたその先に名探偵が見たものは―

密室殺人が起きれば「ああ、またか」とうんざりして肩を落とし、死体が不可解なダイイングメッセージを残せば「もうすぐ死んじゃうっていう人間に、メッセージを書き残している余裕があるはずがない」と推理小説における禁句をずばりと言い、犯人が立てた完璧な時刻表トリックはめんどくさくなってありえない設定をでっちあげる。本格ミステリー作家としてヒット作をばんばん世に出している東野圭吾が、なぜこんな、ミステリーの“お約束”をおちょくるような作品を発表したのか…いちミステリー作家としてのセルフパロディなのか、それとも「俺はこんな陳腐な推理小説は書かないぜ」と主張しているのか。いやでも東野作品の中にもときどき「そりゃ無茶だろ」「現実なめんなよ」と突っ込みたくなる話はありますけどねぇ。

陳腐なトリックと謎解きにうんざりして、天下一探偵と大河原警部はしばしば小説世界を抜け出して互いに愚痴をこぼします。作者に文章力がないので自分で「頭脳明晰、博学多才、行動力抜群の名探偵」と言わなければいけない天下一は、自分の解いたトリックがどれだけ使い古しでも、現実味のない荒唐無稽なものでも、もったいぶって大げさに発表しなくてはいけない天下一と、誰が犯人なのか最初からわかっているのに的はずれな捜査をしなくてはいけない大河原警部。2人の愚痴を読んでいたら、テレビのサスペンスドラマの主人公達も同じこと考えてるんじゃないかと思えてきて面白かったです。おかげでいままでつまらなかったサスペンスドラマの見方が変わって、制作側の意図とは別の意味で面白いと思えるようになりましたから。

2時間ドラマと言えば、この小説の第六章で天下一探偵と大河原警部は2時間ドラマになります。そのタイトルは「花のOL湯けむり温泉殺人事件」!…木の実ナナと古谷一行が出てきそうなタイトルです。いまどきここまでベタなタイトルのドラマはないでしょうよ。しかも、ドラマ化のお約束で天下一探偵はいつもの“よれよれスーツにもじゃもじゃ頭の男”という設定から、ロングヘアーでアイドル顔の女子大生(女子大生…時代を感じるなぁ)に変更になり、大河原警部と天下一の恋バナも用意されています。男2人の設定が男女になり、恋愛要素も多少あり…なんか某局でドラマ化されたあの作品を思い出しますなぁ、東野先生。でもそれを言ったら某医療ミステリーの映画もそうなるか。逆なのは「弁護士のくず」くらい?

しかし、ベタなトリックを使ってはいますが、そこはやはりベストセラー作家の手腕で読者をうまくだましてあっと言わせるオチが来るようになっているので、「笑い飛ばしつつだまされる」という不思議な感覚を味わう事もできます。そしてエピローグも終わってからの最終章で、天下一探偵は推理小説の主人公として究極の選択を迫られ――あ、でも死んだと思ったシリーズ探偵がその後読者の要望とか大人の事情で復活するなんてことは昔からあるっけ。なーんだぁ。それに「実は主人公が○○でした」ってオチだと、読者は絶対再読するから、ある意味一番美味しいかも?(←限りなくすれた感想)






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