Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

東野圭吾「秘密」

2009-04-22 22:55:38 | 読書感想文(国内ミステリー)






1985年。自動車部品メーカーの技術者・杉田平介は、妻の直子と小学5年生の娘・藻奈美とともに、
平凡ながら幸福な生活を送っていた。しかし、親戚の葬儀のために直子が藻奈美をつれて実家に
戻る途中、2人をを乗せたバスが崖から転落した。転落の瞬間、母親がかばったおかげで藻奈美は一命を
とりとめたが、直子は搬送先の病院で亡くなった。そして直子の葬儀の夜、悲しみに暮れる平介の目の前で
娘の藻奈美が意識を取り戻した。しかし、少女の体に宿っていたのは、死んだはずの妻だった…。
その日から杉田家の切なく奇妙な“秘密”の生活が始まった―




注:ここから先はネタバレがあります。要注意!



えー…正直な感想を言わせてもらえば、感動はしませんでした。というかこのオチってブラックジョーク?
そのほうが
藻奈美(直子)が事故の元凶である根岸文也と結婚するのは、娘を奪った憎い敵への復讐
ってことで納得がいくんですけど。え?性格ひねくれすぎ??


“死んだ母親の魂が娘の体に憑依する”という設定から、読む前は大島弓子の「庭はみどり川はブルー」みたいな
話かなと思ってたんですが、読んでみたら楳図かずおの「洗礼」のほうが近かったです。あと、夫婦が同じ時間を
共に生きられない、っていうのは「ベンジャミン・バトン」を思い出しました。どれもこの作品とはオチは違いますが。
まあ、前情報もなしに読んでたら、もっと面白く読めただろうと思います。
私が勝手に“絶対感動する”とか“ラストに驚愕の大どんでん返しがある”とか余計な情報を仕入れすぎてただけで。


話の運び方や伏線の張り方、登場人物の配置などはさすが東野圭吾だけあって絶妙でそつがなく、2時間くらいで
一気に読み終えることができました。そのかわり、消化が良すぎて腹もちしなかったですけど。
東野圭吾のいいところは、重いテーマの作品でもウェットになりすぎず、無駄なものをそぎ落として
読者にわかりやすくしてあるところだとはわかっているのですが、残念ながら私にとってこの「秘密」は
ちょっとドライ過ぎる感じがしました。

特にひっかかったのが、父親の平介も母親の直子も、一人娘が死んだことをほとんど気にしていないこと。
平介はひたすら「直子、直子」と妻を求めるだけだし、直子は娘の体を自分が乗っ取ったことに悩みも葛藤も見せず、
後ろめたさを感じてなそうだし。2人とも「自分≧相手>>>>>>>>>>>娘」なのが鼻につきました。
「これが人間のしたたかさだ」と言われればそんな気もしますが、そこまで伝わってこなかったし。
平介と直子の夫婦の話だけでなく、娘の藻奈美についてももっとページを割いてほしかったです。
藻奈美の存在感が薄すぎて、藻奈美オリジナルと直子の違いがよくわからなかったので(もっとも、これは後の伏線でもあるのでしょうが)。

事故の関係者として、直子と藻奈美が乗っていたバスの運転手の家族と、同じ事故で双子の娘たちを失った男性が
出てきますが、これらの人たちの話のほうが現実的な分だけ共感できるし、いろいろ考えさせられもしました。
事故を起こした運転手の妻が、自分が夫を超過労働させたわけでもないのに被害者遺族に「あんたのダンナは人殺し」と
罵られ、第三者から嫌がらせをされたあげく娘(この娘さんがまた気の毒で…)を遺して死んでしまったのは
とてもやるせなかったです。死んだ娘たちの賠償金で事業が持ち直した男性も、その複雑な心境を想像すると
胸が痛みました。


ストーリーとは関係ありませんが、作中で藻奈美が「モナ」と呼ばれるたびにあの女性タレントを思い出して、
微妙な気分になりました。娘の名前が「モナミ」なのは、"mon ami"とかけてるんだろうけど(しかしフランスに
行ったら苦労しそうな名前だな…)。


2 コメント

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なんてグッドタイミング! (レミサラ)
2009-04-23 00:54:20
もちきちさん、出張お疲れ様でした~。

ビックリしました。ちょうど、私も大分前に読んでたけど細かい所を思い出そうと思って、さら~っと昨日読んだところなんですよ!(といってもパリのブックオフ立ち読みですが・・)。

あの夫婦には私も引っかかりました。
娘(の精神)が死んでるかもしれないのに気にしてませんでしたよね。娘の身体なのにHに挑戦しようとしたり・・。未遂でしたけど。
私もオチはブラックだと思ってます。ネタバレなしで読んだので、オチにビックリはしましたが感動はなかったなあ・・。

>娘の名前が「モナミ」なのは、"mon ami"とかけてるんだろうけど
には、ほんまや~!!と今さらながら気づく遅さ・・。
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もしこの小説の作者が○○だったら (もちきち)
2009-04-24 00:40:23
>レミサラさん
ぼんそわ~

>ビックリしました。
いや~そりゃ私もビックリですわ。やっぱ私たちって生き別れの双子なんでしょうかね?

>オチはブラック
もしこの小説の作者が筒井康隆とか中島らもだったら、
まったく同じ内容でも「これはブラックジョークなんだ」と
疑いもせずに納得してたと思います。
というかむしろ筒井康隆バージョンの「秘密」を読んでみたくなりました。

あと、この小説の作者が男性じゃなくて女性だったら、こんなに
感動作として扱われなかったかも…。だって平介って女性(=直子)にとって
都合良すぎるんだもん。

>"mon ami"
平介にとって藻奈美は娘ではなく"mon ami"、ってことなのかな~と思ったのですが、
作者の意図はどうなんでしょう。しかし70年代生まれで藻奈美ってオシャレですよね。
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