OBSニュース

小樽商科大学ビジネススクール(専門職大学院)に関する情報を定期的にお知らせいたします。

「ビジネスプランニング」では何を学ぶのか?

2007-11-29 02:51:00 | 授業紹介
OBSの実践科目である「ビジネスプランニングⅠ・Ⅱ」の授業内容について、齋藤一朗教授にお話を聞きました。

Q:「ビジネスプランニング」の特徴は何でしょうか?

この授業を履修すると、ビジネスプランを立てる能力が身につきます。ただ、「とりあえず事業計画書を作る」というアプローチはとりません。われわれのやっている授業は、プランの書き方というよりも、「ビジネスを構築するための思考」「戦略思考」をどう身につけるかに重点を置いています。その思考の結果をプランとしてまとめるわけです。つまり、ビジネス「プラン」よりもビジネス「プランニング」を重視します。理論をツールとして身につけた上で、ロジカルな議論をし、それを読み手にとって整理し、最後にプランを出すわけです。「書き方」ではなく「考え方」を学びます。

Q:具体的には、どのような課題に取り組むのでしょうか?

1年生の後期に履修する「ビジネスプランニングⅠ」の場合、例えば「札幌の中心街で小売業に関するビジネスプランを作ってください」というテーマを与えます。小売という業種と札幌という市場だけを設定して、どういう事業を展開するかはグループで決めてもらいます。その演習が終了し、ビジネスプランニングの考え方が理解した段階で、個人毎にプランニングしてもらいます。去年は「ものづくり」というテーマでした。このとき、一人の力で考えることが重要になります。

Q:2年次の「ビジネスプランニングⅡ」では何をするのですか?

「ビジネスプランニングⅡ」は、まったくのフリーハンドです。履修者が自分の関心のあるテーマをもちこみ、完全に一人でプランニングしてもらいます。これまでのテーマとしては「バイオ燃料のプラントの事業設計」、「女性専門の病院づくり」「医師の研修派遣研修ビジネス」「地域資源を生かした鹿肉弁当ビジネス」などがありました。本当に何でもOKです。自分が社会で抱えている問題を持ち込むケースもあれば、将来独立することを展望してビジネスを考えるケースもあります。

Q:具体的なビジネスプランニングの流れを教えてください。

まず、事業領域を定めます。次に、外部環境を分析してから、戦略を考えます。その際、自社の経営資源分析を実施し、外部と内部を整合させて戦略を策定すことが大切になります。そして、具体的な個別戦略につなげ、オペレーション、アクションプランに落とし込んでいきます。最後に、この事業に採算性があるのかどうかを財務シミュレーションで検証します。こうしたプロセスを繰り返して、ビジネスプランを練り上げていくのです。

Q:ありがとうございました。

教員インタビュー(3) 齋藤一朗教授

2007-11-26 10:19:44 | 教員紹介
教員インタビュー第三弾は、齋藤一朗教授です。OBSでの先生の担当は「金融システムのアーキテクチャー」「ビジネスプランニングの技法」「ビジネスプランニングⅠ・Ⅱ」です。

Q:齋藤先生の専門は何ですか?

金融論、地域金融について研究をしています。具体的に言えば、地域の金融機関の経営、地域経済のめぐるマネーフローの分析ですね。北海道を題材にして、信金や地方銀行の経営のあり方、とくにグローバル化、市場化が進展する状況の中で「どうやったら地域に根ざした金融機関が生き残っていけるのか」というテーマに関心があります。もう一つのテーマは、北海道の市場全体を視野に入れて、北海道の金融システムを研究しています。つまり、民間金融機関同士がどのように役割分担すべきか、公的金融と民間金融がどのように相互補完すべきか、自治体の企業向けの融資制度や支援制度はどうあるべきか、などについてです。

Q:金融論のオモシロさはどこにあるのでしょうか?

地域を研究対象にすると身近で、リアリティに富んだ内容を研究できます。分析だけではなくて提言もできますしね。例えば、2003年に、北海道で設置された制度融資委員会の委員長をさせていただいたのですが、そこで北海道における制度融資のあり方を提言しました。現在の制度はそのときの提言に基づいています。とてもやりがいのある研究分野です。

Q:そうしたテーマに取り組むきっかけは?

私は大学を卒業して、都市銀行に7年勤務した後、大学院に進みました。金融論に関心があるのは、それが強く影響していますね。自分のやってきたことを振り返りかえり、理論的に整理したかったんです。そういう意味では、社会人で大学院に入ってくる人と似ているかもしれません。最初は、メガバンクの銀行行動を研究していたんですが、ある先生のアドバイスがきっかけとなり、地域金融に取り組むことになりました。

Q:地域金融の魅力はどのへんにありますか?

実は、学会においても、地域金融は未知の分野で、先行研究も少なかったんです。バブル崩壊後の大手の不良債権処理が終了した後に、学会の関心が地域金融システムの安定に移って行きました。やっている人がいないぶん、面白い研究ができそうな金鉱を見つけたぞ、という感じです。学会の中でもここ2~3年注目されつつあります。

Q:先生は実務を経験されていますが、研究にどう役立っていますか?

銀行の行動を見るときに、実感を添えながらモデルを吟味できる、という点でしょうか。手触り感覚や皮膚感覚がもてる点がよかったと思います。ただ、実務に引きづられると経験論になってしまいます。現実と理論の世界とうまくミックスさせると「使える理論」になります。やはりベースは理論であり、その上に実務の皮膚感覚を生かすようにしています。理論は現実からの抽象なので、理論と現実を行きつ戻りつすることが大事だと思います。

Q:「金融システムのアーキテクチャー」という授業を担当されていますが、簡単に紹介していただけますか?

この授業では、金融システムの成り立ちを理論的に教えています。例えば、どうして銀行を中心とした金融システムと、証券を中心とした金融システムがあるのか?という問題です。欧米は証券市場が中心で銀行はサブ的役割ですが、日本は銀行中心で証券がサブでした。ドイツも日本と似ています。各国の金融システムの発展の仕方はそれぞれで、グローバル化という言葉で片付けられない側面があります。また、銀行システムと証券市場システムのメリット、デメリットなどについても考えます。

Q:この授業は、ビジネスパーソンにとってどのように役立つのでしょうか?

自分のビジネスプランに関して、どこから資金調達すべきかがわかります。融資と投資では、お金が入ってくるという意味では一緒ですが、お金の性質、つまりリスク許容度が異なります。また、資金調達の方法は、コーポレートガバナンスに関わってきます。株式の場合は支配証券の側面があり、株主が経営に参画してきます。一方、負債の場合には、経営に口は出しませんが、経営が危機的状態になると、銀行側が破産申し立てができるのです。どちらも口を出してくるわけですが、株主のほうがソフトに経営危機を処理することができ、負債(銀行)の場合には、ハードランディングになります。

Q:ありがとうございました。

これからの現場マネジャーのあり方

2007-11-23 16:20:29 | 講演・記事
「これから現場を支えるマネジャーのあり方」というテーマで11月21日(水)に開かれた第1回OBSフォーラムは、160名を超える方にご参加いただき、盛況のうちに終えることができました。コーディネーターをつとめたOBSの松尾睦教授に、フォーラムの概要を報告してもらいます。


今回のフォーラムは、(「ここでみなさんに考えてもらいます」という具合に)講演の途中で演習が入ったり、隣の席の方と意見交換する時間を設けるなど、「聴衆と一緒に考えるスタイル」だったのが特徴だ。

講師であるリクルート・マネジメント・ソリューションズの石井さんのメッセージは2つあったように思える。一つ目は、「現場のマネジャーに求められるものは多様なので、全部一人で抱え込んでしまうとつぶれてしまう。だから、職場のメンバーを巻き込んだ『場づくり』が大切となる」という点だ。

二つ目のメッセージは、「会社、部下、家庭の要求に応えようとする前に、まず自分が成長することが大事になる」ということ。マネジャー自身が生き生きと働いていなければ、部下や家族も苦しくなる。まず、小さなことでもよいから、「自分の学習戦略、成長戦略」を立てて、自分が成長していると実感することが大切だ。それが部下や家族に良い影響を与える。

一つ目のメッセージに関して、リクルート社が10年毎に実施した調査が紹介された。これは大企業の経営者(役員)がマネジャーに求めるものを1位から18位までランクづけしたデータだ。1985年の時点では、1位が「目標に向かって意欲的に行動する人」、2位が「与えられた仕事を確実に遂行できる人」、3位が「一生懸命に仕事をする人」だった。

ところが、バブル崩壊後の1997年には、1位が「目標に向かって意欲的に行動する人」、2位が「自らが問題形成し提案できる人」、3位が「状況の変化に柔軟に対応できる人」に変化する。驚いたことに「人間関係を大事にする人」「一生懸命仕事をする人」が17、18位に落ちてしまった。

そして2007年には、1位「広い視野でものごとをとらえられる人」、2位「上位者に対して自らの意思・戦略を明確に出せる人」、3位「自らが問題形成し提案できる人」となる。つまり、「会社から与えられた目標に向かって、一生懸命仕事をする」ことだけではマネジャーとして不十分であり、「自らが問題を考え、自分の戦略を会社に提言できる人」が求められているのだ。

講演のあとに15分ほど隣同士で議論してもらい、質問を出してもらった。いろいろと質問が出たが、ここでは2つほど紹介したい。

一つは、「部下は人間関係を大事にしてほしいと考え、経営者はあまり人間関係を重視していない。このギャップをどうするのか?」という質問。実は、経営者アンケートで1985年に4位だった「人間関係を大切にする人」は、1997年に17位に落ちてしまう。リストラや歪んだ成果主義の影響だろう。しかし、2007年の調査では、再び6位に上昇する。つまり、改めて職場の人間関係の重要性が認識されてきたのだ。だから、部下と経営者の間にはそんなにギャップはない。

2つ目は「時代によってマネジャーに求められるものが変化することはわかった。では、変わらない原理・原則のようなものはないのか?」という質問だ。これは第1の質問にも関係している。リクルート社が新入社員を対象に行った「理想の上司はどんな人か」という調査では、ベスト3の中に「人間関係を大事にする人」「明確な理念や理想を持っている人」が入っている。そして、2007年の経営者の調査でも「人間関係を大切にする人」は6位、「自らの意思・戦略を明確に出せる人」は2位である。

つまり、一見、時代とともに変化しているように思われるマネジャー像であるが、時代が変わっても、立場が変わっても重要な原理・原則がある。それが今回の石井さんの講演の中に込められていた「人間関係を築きながら、メンバーを巻き込んで、場作りをすること」と「自分の理念・理想を明確にして、自分が成長すること」だろう。

リーダーシップ研究で有名な神戸大学の金井壽宏先生は、「夢をかかげ、職場を巻き込みながら実現する人」が変革型リーダーである、と述べている。「自分の夢(目標)」と「職場の巻き込み」をつなげる鍵は、石井さんが主張するように「マネジャー自身が成長すること」だと思った。

今回のフォーラムにおけるメッセージが、混迷の時代で苦闘する現場のマネジャーに「拠り所」や「方向性」を与えるものであれば幸いである。


OBSフォーラムは明日開催されます

2007-11-20 16:04:39 | イベント
第1回OBSフォーラムは明日(21日)開催されます。おかげさまで、150名を超える方から事前申し込みをいただいております。事前に申し込まれていない方でも、当日参加を受け付けますので、是非おいでください。

概要は以下のとおりです。

講演タイトル「これから現場を支えるマネジャーに求められるものは何か?」
講師 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ・組織行動研究所
主任研究員(マネジャー) 石井宏司氏
コーディネーター 小樽商科大学ビジネススクール・教授 松尾睦

日時:2007年11月21日(水)18:30-20:30
場所:アスティホール(札幌市中央区北4条西5丁目 アスティ45ビル・4F)
参加費:一般2000円、OBS関係者1000円(OBS関係者から紹介を受けた方を含む)

スケジュール
18:30-18:40 挨拶
18:40-19:30 講演
19:30-19:50 ピアディスカッション
      (近くの席の方と意見交換し、質問シートに記入)
19:50-20:00 休憩(質問シート回収)
20:00-20:30 全体ディスカッション(質疑応答)




オープンクラス(授業参観)のお知らせ

2007-11-19 18:21:24 | イベント
OBSの授業を体験していただくために、オープンクラス(授業参観)を実施することになりました。次の2つの授業を実際に見ることができます。


日時:12月7日(金)18:30~21:40
「戦略的ファイナンス」 講師:籏本智之 教授

日時:12月10日(月)18:30~21:40
「顧客志向経営」 講師:松尾 睦 教授

場所:小樽商科大学札幌サテライト
札幌市中央区北5西5sapporo55ビル3F

参加ご希望の方は,ウェブ(http://www.otaruuc.ac.jp/hnyu1/graduate/setsumei1208.htm)あるいは、電話にてお申込みください(小樽商科大学入試課、TEL:0134-27-5253)。



OBSフォーラムのお申し込みはお早めに

2007-11-17 00:08:30 | イベント
第1回OBSフォーラムの開催が近づいてまいりました。お申し込みがお済でない方はお早めにお願いいたします。

「御氏名、御所属、連絡先(メールアドレス)、OBSとの関係(①一般の方、②OBSのOB、③OBS在校生、④OBS関係者(OB・在校生・教職員)から紹介を受けた方)」をご明記の上、小樽商科大学・学務課(E-mail:gakubu@office.otaru-uc.ac.jp)までメールをお送りください。

詳細は以下のとおりです。

第1回OBSフォーラム
(小樽商科大学ビジネススクール・MBA会共催)

講演タイトル「これから現場を支えるマネジャーに求められるものは何か?」
講師 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ・組織行動研究所
主任研究員(マネジャー) 石井宏司氏
コーディネーター 小樽商科大学ビジネススクール・教授 松尾睦

企業の競争力は、現場の力にかかっています。しかし、要求が厳しくなる顧客、離職する若手、激化する競争など、現場を取り囲む環境は厳しくなる一方です。第1回OBSフォーラムでは、株式会社リクルートマネジメントソリューションズ・組織行動研究所・主任研究員の石井宏司氏をお迎えして、「現場を支えるマネジャーには、どのような能力が求められているのか?」について考えたいと思います。本フォーラムは、ディスカッションを多く取り入れ、双方向のコミュニケーションがとれるように工夫したしました。講師と聴衆がいっしょになって、これからのマネジャー像を議論しましょう。

講師略歴
1997年東京大学教育学部大学院学校教育開発コース修士課程終了。同年、株式会社リクルート入社。新規事業開発、海外コンテンツ提携事業などに従事。2001年より人材開発のコンサルティング、新人・若手領域の研修プログラム開発、管理職の対人コミュニケーション研修プログラムの開発、個社カスタマイズ研修プログラムの開発を経て、現在にいたる。

スケジュール
18:30-18:40 挨拶
18:40-19:30 講演
19:30-19:50 グループディスカッション(近くの席の方と意見交換し、質問シートに記入)
19:50-20:00 休憩(質問シート回収)
20:00-20:30 全体ディスカッション(質疑応答)

日時:2007年11月21日(水)18:30-20:30
場所:アスティホール(札幌市中央区北4条西5丁目 アスティ45ビル・4F)
参加費:一般2000円、OBS関係者1000円(OBS関係者から紹介を受けた方を含む)
定員:200名

申し込み方法
当日参加も受け付けますが、11月19日(月)までにお申し込みいただけると幸いです。以下の事項を明記の上、下記(小樽商科大学学務課)までEメールをお送りください。

・御氏名
・御所属
・連絡先(メールアドレス)
・OBSとの関係(以下を参考に番号をお書きください)
①一般の方、②OBSのOB、③OBS在校生、④OBS関係者(OB・在校生・教職員)から紹介を受けた方(紹介者のお名前も明記ください)

申し込み先
小樽商科大学・学務課
E-mail:gakubu@office.otaru-uc.ac.jp

「入試説明会&模擬授業」が行われます

2007-11-14 18:22:18 | イベント
12月8日(土)にOBS(小樽商科大学ビジネススクール)の説明会が開かれます。場所は小樽商科大学札幌サテライト(札幌市中央区北5西5sapporo55ビル3F)、時間は14:00~17:00です(時間は早めに終了する場合もあります)。

内容としては、OBSの概要や入試について簡単に説明した後、在学生から「学習の現状」についての紹介があります。最後に、OBSの雰囲気を感じていただくために、参加者を対象とした簡単な「ケーススタディ」授業を実施いたします。ケーススタディを担当する松尾教授にお話をお伺いしました。

Q:ケーススタディをされるとのことですが、どんな授業ですか?

OBSで行っているケーススタディの授業は1日一杯かけて実施していますが、今回の模擬授業は、50分程度で終わるショート・ケーススタディです。本来は20ページ程度のケース(企業の現状を記述した文書)を読んだ上で議論しますが、今回は10分程度のビデオケースを見てもらってから、グループでディスカッションし、最後に全体でディスカッションします。

Q:どのようなケースなのでしょうか?

ヒット商品の開発物語のビデオですが、マーケティングや組織論の観点から分析してもらいます。

Q:グループディスカッションはどのように行うのですか?

5~6名のグループを作ってもらって「なぜこの商品がヒットしたのか?」という課題を20~30分程度で話し合ってもらいます。

Q:発表もあるのでしょうか?

グループで話し合った内容は、ホワイトボードに書いてもらいますが、簡単に「こんな話がでました」ということをチーム毎に発表してもらう予定です。OBSですと、ディベートのような激しいディスカッションになりますが、今回は雰囲気を感じてもらうだけなので、ソフトな感じで議論したいと思ってます(笑)。

Q:最後に、参加者の方に一言お願いします。

説明会ですので、気軽に参加してください。OBSで実施している授業の一端でも感じていただければと思います。

 

OBSブックレビュー(2)後編

2007-11-12 08:16:29 | 書籍紹介
籏本先生によるブックレビューの後編です。稲盛和夫著『稲盛和夫の実学——経営と会計』(日本経済新聞社)の紹介をしてもらいました。

愛情がベースにある厳格管理

原理原則を管理者が言い立てると、逆に部下は「管理されている」と感じ、モチベーションが下がるのではと訝る人もいるかもしれない。実際、京セラはダブルチェックの厳格さでも有名である。このシステムを始めた動機は、「人間不信や性悪説のようなものを背景としたものでは決してなく、そこに流れているものは、むしろ人間に対する愛情であり、人に間違いを起こさせてはならないという信念である。」(109頁)という。

「よしんば出来心が起こったにしても、それができないような仕組みになっていれば、一人の人間を罪に追い込まなくてすむ。そのような保護システムは厳しければ厳しいほど、実は人間に対し親切なシステムなのである。」(109頁)とも述べている。ダブルチェックは内部統制の根幹をなすシステムであるので、内部統制の強化が叫ばれている昨今、設計思想として最重視しなければならないであろう。

従業員には真の暖かさを求めている一方で、経営者には重い責任を意識すべきだとしている(110頁)。

…経営者が、会計、資材などの管理システムの運用に関して、時と場合に応じてつじつまの合わない判断をするようなことがあれば、自らの経営の一貫性を否定することになり、それは管理システム全体を崩壊させてしまうことにもなる。最近の各界での不祥事を見ても、経営者の自己本位な甘い判断が、会社を揺るがすような大問題へと発展していったことがわかる。このような点に関しても経営者はまず自らを厳しく律するようにしなくてはならない。

アメーバ経営と原価管理

本書は精神論だけではない。時間あたり採算という指標を使ったアメーバ経営についても詳細に説明している。アメーバとは、小集団独立採算制度での組織単位である。アメーバ間の取引は、まるで企業外部での市場取引であるかのように行われ、各アメーバが付加価値を最大にするような行動をとるよう、組織が設計されている。それは製造現場が利益を稼ぎ出しているという見方を保証するシステムでもある。本書の第二部では経営問答が5題ほど記述されているが、原価管理に答えて、アメーバ経営を次のように説明している(204頁)。

アメーバ経営では、製造部門が現実に動く市場に直面するようになっています。変動する市場価格に直結する売価に対して、自らが責任を負うようになっており、市場に柔軟に対応し、経費を引き下げ、利益を上げられるような仕組みになっているのです。また、目標の売上・利益というものは、製造部門が自らの採算を向上させていくために、思い切った高い数字を上げられるようになっています。さらに、そういう挑戦的なシステムの中で、費用項目はわかりやすく管理しやすくなっており、結果として徹底的にコストが引き下げられるようになっているのです。この方式では、文字通り製造が利益を稼ぐ主役として舞台に上がれるようになっているわけです。

このアメーバ経営について、ミニ・プロフィット・センターとして管理会計でも広く論じられていることを付言しておこう。

出版されてから10年近く経過したが、その価値は薄らぐどころが、ますます教訓として学んで欲しい組織や経営者が増えているような気がする。名著として数えるべき書物である。

OBSブックレビュー(2)前編

2007-11-08 08:59:08 | 書籍紹介
旗本教授が、稲盛和夫著『稲盛和夫の実学——経営と会計』(日本経済新聞社、1998年)を紹介してくれました。前編と後編に分けてお届けいたします。

名経営者による名著の誕生

経営者が会計の持つ力を信じ、よい経営を行いたいと考え、制度を設計し、実践していく中で、管理会計という学問が発展してきた。これまで研究書や教科書に書かれてきた先人の知恵と、現代の経営者の哲学・実務が管理会計論の対象であり、母胎である。とは言うものの、名経営者に会って議論する機会は非常に限られ、多くの学者が文献を通じて論理を展開するしかない。

そうした研究環境の中、古典になりうる名著が誕生した。著者の稲盛和夫氏については評者があれこれ説明するまでもなく、現代の第一級の経営者である。その彼が、この書物の出版の意図を次のように述べている(4頁)。

本書は、私の考える経営の要諦、原理原則を会計的視点から表現したものであり、少し過激な表現ではあるが、「会計がわからんで経営ができるか」という思いで出版させていただいた。それは、混迷する時代に、血を吐くような思いで叫んでいる、私の叱咤激励であることをどうかご理解いただきたい。本書が「経営のための会計学」を真摯に学ぼうとする多くの方々に読まれ、よりすばらしい経営をするための一助となることを心から期待している。

京セラの会計哲学

ベンチャーであった京セラにおいて、経営のための会計学、つまり管理会計が制度として備わっていたわけではない。稲盛氏が斎藤昭夫経理部長(故人)と議論を重ね、稲盛氏の経営者としての誠実さと懸命さに経理部長が開眼し、制度を設計し始めた。斎藤氏がまとめ上げた京セラ経理規定の「冒頭には、私とのやりとりから彼が学びとった経営のための会計の本質が『京セラフィロソフィの中から生まれた会計思想』として掲げられている」(19頁)という。

哲学や思想という、一見すると会計らしからぬ文言が用いられているが、斎藤氏も「あとで聞くと『社長の言っていることは、会計の本質を突いているのではないか』ときづいたという」(19頁)と稲盛氏は述懐している。
 京セラフィロソフィを具現している文言を、目次から拾ってみよう。

・ 原理原則に則って物事の本質を追究して、人間として何が正しいかで判断する
・ 一対一の対応を貫く
・ 筋肉質の経営に徹する
・ 健全経営に徹する
・ 投機は行わない:額に汗した利益が貴い
・ 完璧主義を貫く
・ ダブルチェックによって会社と人を守る
・ 人に罪を作らせない
・ 透明な経営を行う
・ 公明正大な経理
・ フェアなディスクロージャー
・ 公正さを保証するための一対一対応の原則

一対一対応の原則

「一対一対応の原則」は説明が必要であろう。企業活動の中で、もの又はお金と伝票が一対一に対応していなければならないという原則である。稲盛は次のように述べる(64-65頁)。

これは一見当たり前であるが、実際にはさまざまな理由で守られていないのが現実である。たとえば、伝票だけが先に処理されて品物はあとで届けられる、これとは逆に、モノはとりあえず届けられたが、伝票は翌日発行されるといったことが、一流企業と言われる会社でも頻繁に行われている。このような「伝票操作」ないし「簿外処理」が少しでも許されるということは、数字が便法によっていくらでも変えられるということを意味しており、極端に言えば企業の決算などは信用するに値しないということになる。

実際、期末に苦しまぎれに売上を水増しする例もよくあると聞く。取引先に電話を入れて、「今期、売上がどうしても足りない。これこれの内容で十億円の売上伝票をこちらで立てるが、来期早々に返品を入れてもとに戻すので、よろしく」というような依頼をする。取引先とのつじつまだけ合わせて伝票を上げて、期末の売上を少しでもよく見せようというのである。このようなことが一度でもあると社員の感覚が麻痺してしまい、数字は操作できるもの、操作して当然のものと、考えるようになってしまう。

その結果、社内の管理は形だけのものとなり、組織のモラルを大きく低下させる。数字はごまかせばいいということになったら、社員は誰もまじめに働かなくなる。そんな会社が発展していくはずがない。
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後編をお楽しみに。

教員インタビュー(2) 籏本教授

2007-11-06 15:49:18 | 教員紹介
教員インタビュー第二弾は、「ケーススタディ」「戦略的ファイナンス」を担当している籏本智之教授です。

Q:先生のご専門は管理会計ですが、財務会計との違いはどこにあるのでしょうか?

財務会計は企業の外部にいる人のための会計ですが、管理会計は企業の内部にいる人のための会計です。外部の人には株主や債権者が含まれますが、彼らは自分が行った投資が戻ってくるかどうかに関心があります。これに対して、管理会計は、経営管理のための会計情報です。例えば、「予算と実績を比較するしくみ」や「製品の原価をつかまえるしくみ」など、戦略を実現するための会計情報システムを扱うのが管理会計です。

Q:原価というと、やはり製造業が対象となるのですか?

いえ、サービス業でも原価管理が可能です。今、学会で注目を浴びているのは病院の原価管理です。なぜ原価管理が必要なのかというと、放っておくと高くなってしまうからです。例えば、働いている人のモチベーションが下がって生産性が低くなったり、必要以上にモノを作ってしまうと無駄が出て、原価も高くなります。これをマネジメントしなくてはいけない。バランススコアカードという管理手法も管理会計の分野に入ります。

Q:管理会計では、お金以外の情報も扱うのでしょうか?

原価というときに必ずしも金額である必要はありません。財務データは異なる部門を比較するときに便利ですが、他の物量データも扱えます。ただし、数値でないと測定が難しくなるので、数値に落とすことは大事ですね。「測定しないものは管理できない」という考え方です。

Q:先生が研究されている内容を教えてください。

私の研究テーマは大きく二つあります。一つは「投資の意思決定プロセス」です。ある事業に投資すべきかどうかを意思決定するための計算方法や、組織で意思決定するためのプロセスについて研究しています。例えば、中国に進出すべきかどうか、進出するとしたら製造と販売のどこを持っていくのか、それを全社戦略の中でどう位置づけて、成功失敗をどのような評価基準で判断するか、などを研究しています。この分野は財務もからんでくるために、財務論の分野でも研究が行われています。

Q:もう一つのテーマは何ですか?

日本の管理会計の進化プロセスについて調べています。日本は、1950年代に管理会計の考え方をアメリカからたくさん輸入してきました。戦前には日本的な会計システムが存在したと思うのですが、それがはっきりしないのです。何らかのやり方があったところに、新しいものが入ると、何かが起こる。日本的な手法とアメリカ的な手法が融合することで、日本の管理会計システムがどのように進化したのか、そのプロセスを文献によって分析しています。

Q:日本とアメリカの会計システムはどのように違うのでしょうか?

日本の企業は会計情報を使いますが、その依存度はアメリカより低い、と言われています。そこに日本的経営の特性があるのでしょうね。会計情報に基づいて厳しく事業を評価すると組織の学習が阻害されることがあります。また、経済の発展状況は国によって異なりますので、アメリカのやり方を日本に当てはめるだけでは機能しない。同様に、今のアメリカや日本の管理会計システムを中国に持っていってもそのままでは機能しないわけです。中国の実情に合わせて変えていかねばならないといえます。

Q:最後に、授業について聞かせてください。「戦略的ファイナンス」という授業では何を学ぶことができるのですか?

製造業において、会計情報がどのように作られ、使われるのかについて教えています。この授業を受けると、まず原価計算の考え方を理解することができ、CVP分析(原価・営業量・利益の分析)ができるようになります。CVP分析ができると短期的な利益計画を立てることができる。予算を立てる前の最初のステップですね。その後、いろいろな財務的な意思決定について演習し、最後に企業価値の分析方法を学びます。企業価値分析はファイナンス特有の考え方ですが、「ある戦略を実行したときに、どの程度企業価値が上がるか」を分析するものです。

Q:ありがとうございました。