俳句日記/高橋正子

高橋正子のブログ
俳句雑誌「花冠」代表

俳句作品H19.10~H20.9月号

2008-08-27 11:10:33 | 俳句作品
平成19年

10月号
夏寒し蜆汁をたっぷりと
店頭に走り甘藷の紅を積み
夏空の青をつっきるもののなし
青多き水着の縞を洗いけり
冷蔵庫に西瓜が入りて鋭(と)き匂い
青闇を美しきまで稲光
道々を水ふうせんを突きつつ行き

11月号
鎌倉・宝戒寺三句
葉ばかりの萩の青さへ分け入りぬ
あおあおと萩の葉路を攻めて垂る
白萩の奥なる門の半開き
 鶴岡八幡平氏池
白蓮のほどけるほどに咲きいたり
小雨降る中の芙蓉を一つ剪る
辻に出て通う秋風身にまとう
梨割って地球に住むもまたよかり

12月号
 六本木ヒルズ
壁泉を秋水はてもなく滑る
 虚子庵跡
虚子庵へところどころの花芙蓉
秋高し稲村ヶ崎は逆光に
大仏の御身の背より薄紅葉
つやつやと穂芒昼の空に出づ
みずひきも蓼も赤なり野に来れば
貝割菜茹でてみどりのひとにぎり

平成20年
1月号
秋海は青より銀に由比ヶ浜
遠き帆は白き帆沖へと秋の海
 東慶寺
竜胆の青咲き残る山の寺
 寿福寺
立子の墓菊のいずれもいきいきと
朝日よりははそ黄葉を拾い来し
星生まるときも柿の実熟れつづく
芒野にまなざし遠く佇めり

2月号
朝の日のははそ黄葉を拾い来し
疵なくての寒の椿の小ささよ
炎(ほ)の色と思わすほどに寒椿
長子来て二日の夜の灯を増やす
正月の三日の灯のかく静か
火の力ありてさらりと七草粥
こまやかに青菜匂いて七草粥

3月号
初雪がたいらに積んだうすい影
ストーブのうしろを雪が降っている
水仙の花を浮かせて庭が枯れ
椿落ちて草のみどりにうかぶだけ
梅蕾すこしばかりに風がすぎ
竹やぶの竹の太さに冬がある
寒ン空に破れ芭蕉の鳴りづめに

4月号
ふるさとを呼び起こしつつ街に雪
枯山はわがふところに星とある
春寒の港のすべてすべて白
つばき落ちる音の一会に朝厨
梅蕾白きは空にかがやける
青空の果てしなきこと二月なる
花びらのあい重なりぬ陽のチューリップ

5月
やぶ椿揺るる揺れれば風のさま
荒東風に山の風音のふくらみ来
春一番西日のなかの草や木や
びっしりと菫を植えて風荒らぶ
仰ぎ見て空いっぱいの欅芽木
蕗のとう裏畑いっぱい伸びさかり
てっぺんより辛夷が白くほどけ出す

6月
欅若葉空をうずめて浅みどり
芽木若葉たちまち空の蒼に和す
たんぽぽの閉じし眠りの強固なる
キーを打つその間も蕗の香指にあり
 横浜日吉本町
子らあそばす丘の平地の桃さくら
花の塵掃き寄す少女の一心に
多摩川の奥へと桜咲き連らぬ

7月号
明け初めし空の丸さよ柿若葉
 都築里山
青嵐の中の色濃き高野槙
 境田貝塚跡
森奥のたんぽぽ大方は絮に
 小石川植物園三句
やわらかに足裏に踏んで桜蘂
たんぽぽの草の平らに散らばりぬ
銀杏大樹青葉の青という力
8月号
卯の花に月は届かぬ高さまで
梅雨空に星あることを見て眠る
アスパラガス束ね大地の浅みどり
キャベツ剥ぐ水ころことと流しつつ
ゴーギャンの色にマンゴウ真半分
ハルジオン青き花瓶に挿し飾る
若きらと夜を働き汗涼し

9月号
透き通るバケツにあふる朝の百合
紫陽花を剪るに真青き匂いたち
老鶯の一つよく鳴く風みどり
青葉蔭砂場にいろいろ子どもの色
月見草のかるさに浮び梅雨の月
駅の灯も今宵は星を祭る灯に
夕立のあとの急がぬ軒しずく
山際のつゆけき青に花胡瓜
雷鳴の一度っきりの雲白し
黒南風に葉は充実の揺らぎ見す

水煙各賞推薦の言葉/7月9日(水)

2008-07-08 23:59:06 | 俳句作品
▼第二十五回水煙賞
 宮地佑子さんは、南国高知にお住いで、インターネットを通
して、一人こつこつと俳句を作ってこられた。その俳句は、高
知の風景はもちろんのこと、主婦として、家庭のこと、農の仕
事、山の仕事をしっかりとされながら、それを句にして、抒情
ゆたかな作品となっている。末永く続けられることをお祈りす
る。
 春北斗大きく懸けて山連なる
 茎漬のみどり揃えてざくざく切る
 軒幅に薪高く積む冬はじめ
 若竹伐り空もろともに落ちてくる
 すっきりと西瓜の縞の切られあり

 藤田荘二さんの俳句は、自然への観察が深く細やかで、本質
を見る目がたしかである。職場では重要なポストにおられるが、
山行きも楽しまれ、自然への愛着のほどがよく句に表れている。
信じるところを、よく句にしていただきたい。
 寝転べば峰より峰へ天の川
 時雨来る山茶花の葉を鳴らしつつ
 葉の陰に揺れはそれぞれ桜の実
 桜咲く朝日が初めにあたる木に
 太陽も空もわがものみずすまし

▼第十回橘俳句賞
 黒谷光子さんは、琵琶湖、つまり湖北のお寺の坊守として、
お寺や、地域のお仕事をされながら過ごしておられる。俳句
は、その宗教的な生活がそのまま俳句となって、その精神が
まっすぐである。湖北の風景も自然体で詠まれ、日本の良い
風景を見せていただける。ご健吟をお祈りする。
 選り終えて夜の灯りに青山椒
 竹林の撓みゆたかに春の雪
 比良を背に菜の花明かりひろびろと
 花冷えの玻璃戸きしきし拭きあげる
 残雪に月平らかに届きおり

 奥田稔さんは、八十歳も間もない時期に、現役の医師を勤
めながら、水煙に入会された。矍鑠としておられ、水煙の吟
行、また、オフ句会にも、ほとんど欠席なく出席され、熱心
さは、皆の範となっているが、詩が本当にお好きなのだろう。
懐旧の句、現在の句、どれも捨てがたい味がある。ご健康、
健吟をお祈りする。
 背に負いし達治の詩集若葉旅
 目も口も無きわが影の冬野行く
 水滴の光る紫陽花母逝けり
 水仙の葉直として白く咲き
 さいはてのたんぽぽの野を一輌車 

▼第15回水煙新人賞
 安藤智久さんは、伊豆湯河原の山葵農家の三代目の青年であ
る。天城は、井上靖や川端康成の小説でも良く知られるところ
であるが、そこに描かれた自然が、またよく智久さんの俳句に
も表れている。作品は、素直で、しなやかな感性から生まれた
もので、今後ますますのご活躍を期待する。
 鈴なりの柿も天城も透きとおる
 切り出され杉は春野に積み上がる
 吊橋を軋ませ猟師が山に入る
 たんぽぽの花の内より満ちて咲く
 山葵植う沢さわさわと暮れゆけり

▼水煙三百号記念特別賞
 藤田裕子さんは、水煙創刊以前の愛媛大学俳句会から、四十
数年の長きに亘り、偏に水煙の俳句を支えてこられた。そのご
功労は、感謝に堪えない。

 藤田洋子さんは、発行所の近くにお住いで、水煙の仕事、また、句会のお世話など、骨身惜しまず協力していただき、水煙を支えていただいた。そのご功労に深く感謝する。

9月300号後記/7月8日(火)

2008-07-08 23:30:34 | 俳句作品
後記
★今月号は、記念すべき三百号となりました。
創刊より欠号なく三百号となりましたので、
これは、いろんな意味でお祝いに値すること
と思います。細く長く、一号一号、力を入れ
すぎず、また力を抜きすぎず、折々に、一生
懸命だったことが、思い出されます。この大
きな節目にほとんどの会員の皆様のご投句を
いただきまして、感謝いたします。
★「三百号に寄せて」では、大きく三期に分
けて、もっとも主宰の身近で水煙に関わって
いただいた三人の方に、ご自身のことを中心
にそれぞれの時期を語っていただきました。
そのことによって、今現在、水煙にご参加い
ただいているみなさまに、水煙の歴史を含め、
なしてきた仕事、水煙の求める俳句などにつ
いて、より深くご理解いただけるものと思い
ます。ご味読ください。
★また、本年度は、三百号記念号に合わせて
水煙各賞の発表をいたしました。受賞者の皆
様おめでとうございます。各受賞者の皆様へ
ささやかですが、推薦の言葉を書かせていた
だきました。ますますのご活躍をお祈りいた
します。 
★三百号までは、過去のこととなります。過
去は貴重な歴史として、しっかりと踏まえ、
また新たな一歩を皆さんと、踏み出さねばな
りません。グローバル化によって、世界は今
までにない経験をしています。このときこそ、
冷静に不易と流行を考えねばならないと思い
ます。経験を重ねた方の叡智を、若い人たち
の先駆的な自由な活動をともにいただきなが
ら三百一号へと踏み出して参りたいと思いま
す。今後とも一層のご支援、ご協力をお願い
いたします。          (正子)

朝の百合/(9月300号)/7月8日(火)

2008-07-08 22:16:08 | 俳句作品
朝の百合
          高橋正子

透き通るバケツにあふる朝の百合
紫陽花を剪るに真青き匂いたち
老鶯の一つよく鳴く風みどり
青葉蔭砂場にいろいろ子どもの色
月見草のかるさに浮び梅雨の月
駅の灯も今宵は星を祭る灯に
夕立のあとの急がぬ軒しずく
山際のつゆけき青に花胡瓜
雷鳴の一度っきりの雲白し
黒南風に葉は充実の揺らぎ見す

俳句メモ/6月13日~7月8日

2008-07-08 22:14:51 | 俳句作品
夕立のあとの急がぬ軒しずく
透明なバケツに朝の百合あふれ
あふれ咲く百合を抱きて汚れもす
老鶯のひとつよく鳴く風みどり
青葉蔭砂場にいろいろ子どもの色
夏鶯深山というほどにはあらず
青嵐に吹かれて座る丘の上
百姓の家のしずまり花胡瓜
雷の一度っきりの雲白し
夾竹桃の白き落花の奥に住み
梅雨星の青きは遠きことゆえに
梅雨月のあかりほのかに天心に
少女らの下校の路の夕涼し
ガスの炎のほっと点きたる梅雨湿り
黒雲のあやしくなりし梅雨夕べ
夕立のあとの路面に灯が落ちる
ほころびを手芸のごと縫い梅雨日曜
拭き清む梅雨日曜の小一時間
早き灯をともし団地の梅雨日曜
あー啼きあーと応えて梅雨烏
つゆ草の花の白きが薮を占め
さくらんぼ今果物屋をかざり
世の不穏さくらんぼより生まれしか
夏蒲団眠れぬ夜の肩寒し
月見草のかるさをもって梅雨の月
山ぼうし一樹の花の真っ白に
紫陽花を切るに青き匂い立ち
卯の花のさぞやと思う実の多数

俳句メモ/5月12日~6月12日

2008-06-12 10:52:22 | 俳句作品
泥水に声鳴きみだる夏燕
雨に照る額あじさいの朝の青
梅雨空に星あることを見て眠る
アスパラガス大地のみどりを一束に
ころことと水を流してキャベツ剥ぐ
晴れの日のあじさい毬をかがやかす
二度渡る多摩川すでに梅雨の中
夏芝を塊り走るユニフォーム
六月の寒さシチューを自家製に
ゴーギャンの色かマンゴウ真半分
新駅の道にあふれるハルジオン
グミの実の垂れて今日の空の晴れ
ハルジオン青き花瓶に挿し飾る
空渡る風のふもとの庭石菖
つややかな茄子を刻むに朝眠し
大方の苺買われて夜が来る
紫陽花のはじめの色の濃むらさき
降り出して定家蔓の葉のひかり
オリーブの花はいずこの空を欲る
竹林の青さますます五月行く
石楠花を見つめて深山の精かとも
さつき咲く白亜の壁のより照りて
なにかしら空がさびしい麦の秋
天花粉を忍び付けたる薄暑かな
紫陽花の蕾の覗くブロック塀
労働のあとの新茶の喉越しよ
若きらと夜を働き汗涼し
卯の花に月は届かぬ高さまで
封切し新茶のかくも香りけり
掃き終えて薫風空より吹いて来し
目の隅に蜜柑の花の純白を
芍薬をバケツに入れて外の風に
芍薬のゆさと葉叢を茂らせる

青という力(7月号)/5月12日(月)

2008-05-12 11:23:08 | 俳句作品
青という力
           高橋正子

明け初めし空の丸さよ柿若葉
 都築里山
青嵐の中の色濃き高野槙
 境田貝塚跡
森奥のたんぽぽ大方は絮に
 小石川植物園三句
やわらかに足裏に踏んで桜蘂
たんぽぽの草の平らに散らばりぬ
銀杏大樹青葉の青という力

俳句メモ/4月11日から5月10日

2008-05-12 11:04:19 | 俳句作品
青嵐の中の色濃き高野槙
谷戸の水滲み菖蒲を育てける
 境田貝塚跡
森奥のたんぽぽ大方は絮に
青葉若葉あふふる山の鳥の声
森の池さみしからむは春の鴨
都市空間メタセコイヤの若葉が埋め
楠若葉まぶしきほどに雨が降り
登りゆくほどに若葉の色に染み
雨傘を差す人差さぬ人楠若葉
キャンドルの若葉の窓に映りたる
青嵐石に座りて飲むコーヒー
柿若葉駅まで続く曇り空
わらび茹で青きみどりを炊き惜しむ
蔕までも茄子の紫紺に漬けあがり
萱葺の屋根をしずめて藤の花
欅若葉老婆よろりと立っており
八百屋まず茹で筍を店頭に
三軒の家にいずれももっこう薔薇
暮れてより足下に匂うフリージア
摘み集め空気のごとき木の芽なり
鉢植えの木の芽したたか雨に濡れ
摘み取って雨滴の残る木の芽なる

柿若葉あしたの空のとのぐもり
おぼろ夜の町騒のみが浮き上がる

明け初めし空の丸さに柿若葉
うぐいすの声が聞こえて寒き朝
はや明けて柿の若葉が目にしみる

牡丹の蕾に雨のくる気配
瀟洒なる窓をかくして花ミモザ
手を振って青める草を出勤す
大木の伐られ積まれて樫の花
粗衣ゆるり着てゆっくりと春の宵
関東の春は寒かり日曜日
風ほどに震えブルーベリーの花
葉桜のこのごろあかき桜蘂
葉桜のみどり冷えびえ新駅見え
桜蕊まだあかあかと樹に残り
春宵の駅より人のみなれ
若葉蔭白壁古き家数軒
木蓮にかがやく甍と空とあり

播磨坂2句
どこまでも新緑の坂駆け下る
葉桜を下りつつ行き時計あり
 植物園
草青むところどころに落花溜め
やわらかに足裏に踏んで桜蘂
池水におたまじゃくしの流れける
風冷えて残花飛ぶことしきりなる
若葉してメタセコイヤの鉾林立
吹かれ来て池水の端に寄る落花
大いなる若葉の冷えし植物園
たんぽぽの草の平らに散らばりぬ

 ☆江東区芭蕉記念館
青柳の揺れ定まらず川風に
上げ潮の匂い立夏の隅田川
大玻璃に若葉の奥行き深みたる

 ☆小石川植物園
蛇苺薬草園の草がくれ
ハンカチの花の降り来る立夏の空
黄菖蒲のすなおに伸びて雨意の空
銀杏大樹青葉の青という力
池水の若葉の色のすでに古り
盛り上がる新緑空へまでゆかず
踏み入りし一画クローバの匂い満

『花冠』以後

2007-08-27 22:13:14 | 俳句作品
■花冠以後(2007年9月号まで)
<水神の甕>(2006 俳句四季10月号20句より)
油絵にぎっちり描きたき夏港
雲の峰高きは高きかがやきに
夏霧へボートざんぶと弾み出る
かなかなのうす刃の声の森に満つ
十日目の夜はみどりに木莵の声
水神の甕をかかげて噴水噴く


●2003年
梅林に水平線の引かれけり
らんまんの一花こぼさぬ花強し
十三夜刻む大根のきらきらと
 
●2004年
 父三十三回忌
梅開く四方しずかに忌を修す
あおあおと水が滲んで土筆摘む
前哨登山馬が来ていてすれ違う
どんぐりにわが家のどれかの灯が映る

●2005年
樹氷見し子のきらきらと座りおり
子が持って草餅海を渡るなり
葉桜のみどりに染みて墨堤を
野いちごを摘むも一心わが性に
のうぜんの朝(あした)の花と目が合いぬ

●2006年
1月号~9月号
漂白されすずしき食器となりいたり
春灯に本の斜めも直立も
野の草の色をまといて雛おわす
フリージアの茎に曲線育ちたり
雪運ぶ風音すざまし聴くばかり
 瀬戸内海
島を縫い冬灯台の灯と会いぬ
 東大寺
わが白息秘仏の玻璃を曇らせる
蓮の実のおびただしきが日当たれる


H19年9月号
花芭蕉掌にはつつめぬほどの花
射干を活ける鋏が濡れてあり
冬瓜にさくっという音のみありぬ
袋かけ終りし葡萄の夜目にあり
 伊予西条
改札を出ですぐ噴井の水あふれ
 考古舘
蒲の穂に夜は灯のなき村となる
 富士登山
いたどりのラバに花散り身のほてり

8月号
雲ふえて栗の花より鋭き匂い
紫陽花のみどりの珠の吹かれける
花束のなかの白薔薇おおぶりに
ひるがおのこの世に透ける日のひかり
熟れきってまるきトマトの冷やされし
雷鳴の北よりばかり繁しかな
蕗の灰汁つきたる指のきしみがち

7月号
山桜空に燃えたつ葉のくれない
若葉寺戸障子閉めきり人もなき
菖蒲湯のあおあおとして沸きてあり
緑蔭のはやも生まれて喫茶せり
カーネーションの鉢洩る水も朝日受く
卯の花に遠雷さざめきつつ起こり
竹の秋あわれ黄金の色尽くし

6月号
風のまま落花のままの中に佇ち
うぐいすの声竹幹を青めたり
山畑の蝶はひとりとなるべくに
遅れゆくわれに芽吹きのさまざまに
青空にくらみてありぬ花さくら 
 多摩センター
さざなみに新緑映る水たいら
花は葉に五日とっぷり風邪に臥す

5月号
青空も陽もかがやいて冴返る
寒桜喫茶ホールのものの音
ほおじろにきのうの雨の樋にあり
菜の花の買われて残る箱くらし
一部屋に春の炬燵を置きしまま
 臼井千里氏書展
書展へと銀座の春をあるきけり
 治代さんより
雛菓子の届きてからのうららかさ

4月号
噴水の噴けば柱となる冬日
 氷川丸
冬海より伸びし鉄鎖の船つなぐ
梅林の影あわあわと草にあり
逆光に白梅ばかり耀ける
青空に砥ぎ澄まされて梅真白
梅の枝のどれかの揺るる風のあり
港湾の動きに満ちて春浅し

3月号
恃むには遠き冬月日吉の丘
一本の冬川電車にゆれて越す
枯葉踏むはさびしさ踏むに異人墓地
蝋梅の灯ともしころの店にあり
寒星に真夜より風の乾ききる
降りそめし雪のしじまを仰ぐなり
水枕吊るし干されて雪催い

2月号
大倉山三句
辛夷の芽銀をひそけく丘の上
風止むと銀杏黄葉の聳ゆなり
梅林の若枝すくすく日の中に
追いかけて来ては彼方へ都鳥
潮風の詰まりし蜜柑の荷が届く
ワイン壜のうすきみどりを珠とす冬灯
一葉に近く来て住み一葉忌

1月号
晴れたるを波打ち飛んで嬉々と鵯
黄落の天地のなかの坂下る
 和代さんより
新米を詰めし袋の張りと艶
 まさえさんより
山国の蕪菜きしきし洗うなり
秋風に竹幹白く粉を吹けり
立冬の星は星座をこぼれ落つ
熟れゆきて朽ちてみどりのラ・フランス

H18年12月号
秋晴れのあまりに遠き空の青
午前七時秋の朝日に音もなし
秋七草深く包んで売られけり
洗われて灯にきらきらと貝割菜
コスモスに空あり花に向きのあり
 松江の和代さんより
しば栗を食ぶと身内を風が吹く
祭過ぎ玻璃戸一面露を帯ぶ

11月号
八月二十四日
秋蝉となりしを聞きて引越しす
深川に芭蕉青葉のすくとあり
佇みて秋の隅田の水青き
丘を越え秋の夜に住む人家あり
鉦叩いつも奥から遅れつつ
もろこしのつめたさつまり露の冷え
あふれたる林檎まぶしみつつ選りぬ

10月号
パイナップル夜の団欒を芳しく
桶水に水密桃の浮きやすし
夏暁の濃く淹れ香るミルクティー
 横浜港
雲の峰高きは高きかがやきに
八月の朝のオレンジ香りたつ
しらしらと朝に残れる盆の月
汽車過ぐる音が電話に夜の秋

※2008年角川俳句年鑑に出稿するために整理。

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岩本康子さんより鑑賞をいただきました。

正子先生

まだまだこちらは厳しい暑さが続いていますが、横浜は如何ですか? 先日のお約束、遅くなってしまい申し訳ありません。今日、少し時間ができましたので、ここに正子先生が、8月18日のブログにまとめられたお句の中から、僭越ですが好きな句を挙げさせていただきたいと思います。(平成18年10月号より19年9月号まで)

(横浜港)
☆雲の峰高きは高きかがやきに
☆汽車過ぐる音が電話に夜の秋
☆秋蝉となりしを聞きて引越しす

☆鉦叩いつもの奥から遅れつつ 
 新しい土地での生活の新鮮な喜び、驚きが感じられ ます。

☆深川に芭蕉青葉のすくとあり
 芭蕉記念館の看板の後にある青々とした芭蕉を思い出します。

☆秋晴れのあまりに遠き空の青
☆立冬の星は星座をこぼれ落つ

☆追いかけて来ては彼方へ都鳥
 横浜の山下公園、あるいは隅田川あたりでのご経験
 でしようか。人に寄って来てはすっと飛んでいく鴎の飛翔がよく表わされてい  ると思います。

☆辛夷の芽銀をひそけく丘の上
 「銀をひそけく」が好きな表現です。

☆一葉に近く来て住み一葉忌
 樋口一葉がお好きな正子先生らしいお句だと思います。

☆蝋梅の灯ともしころの店にあり
 蝋梅のあの穏やかな色と灯がよく合っていると思います。

☆寒星に真夜より風の乾ききる
 関東の冬の風はやはり冷たく乾いたものなのでしょ うと想像します。

☆梅林の影あわあわと草にあり

☆冬海より伸びし鉄鎖の船つなぐ
 氷川丸の姿を目にしましたので、懐かしく思い出します。

☆港湾の動きに満ちて春浅し
☆雛菓子の届きてからのうららかさ

☆風のまま落花のままの中に佇ち
 作者はどんな思いで佇んでいられるのでしょうか。 きっと花の精にでもなった 気分で夢幻の世界にいら れると思います。とても好きな句です。

☆山畑の蝶はひとりとなるべくに
 広い山畑に一匹の蝶がひらひらと。それを見ている私もひとり...といった感じ が好きです。

☆遅れゆくわれに芽吹きのさまざまに
 グループから少し遅れてゆっくり、じっくり早春の野歩きを楽しんでいられる作 者の姿が浮かびます。

☆菖蒲湯のあおあおとして沸きてあり
 季節感溢れる健康な句だと思います。

☆緑蔭のはやも生まれて喫茶せり
 初夏の気持ちいいカフェテラスの感じがよく出ていると思います。「はやも生ま れて」が好きな表現です。

☆カーネーションの鉢洩る水も朝日受く
 気持ちのいい晴れた春の朝が日常の何気ない行いからくる発見に詠まれていると 思います。

☆いたどりのラバに花散り身のほてり
 富士登山の苦労が懐かしく思い出されます。

 以上です。勝手な読み方をしているところも多々あるかと思いますが、お許し下さい。特に一番好きな句を挙げさせていただくとすれば、
「風のまま落花のままの中に佇ち」
です。
大変勉強をさせていただきました。有難うございました。
2007年8月26日(日曜日)夕方 岩本康子拝


       **************************

再び
正子先生
一昨日は、皆既月食チャット句会を有難うございました。なかなか苦労した月食観察でしたが、あとの満月を今までになく熱心に眺めました。何かいつもとは違う満月に見えました。双眼鏡でも観ました。

さて、新たに書き込まれた先生のお句へのコメントを加えさせていただきたいと思います。 また、前の句の中かからも1.2加えさせていただきたいと思います。

 (2003年)
☆らんまんの一花こぼさぬ花強し
  「一花こぼさぬ」で見事な桜の樹の満開の一瞬を
  捉えられていると思います。 桜という不思議な  花の静かで力強い生命を感じます。

 (2004年)
☆どんぐりに我が家のどれかの灯が映る
  家の外のどんぐりの木に夜の灯が映っている。そ  れだけのことですが、「我が家のどれかの灯」と  いうところに、ほのぼのとした家庭生活の温もり  のようなものが感じられる句だと思います。

  (2005年)
☆ 葉桜のみどりに沁みて墨堤を
   隅田川沿いの濃い緑の葉桜の下、「みどりに沁
   みて」生命を貰いながら歩かれている作者の姿   が浮かびます。

  (2006年)
☆ 春灯に本の斜めも直立も
  何気ない部屋の風景ですが、「春灯に」照らされ
  本棚はなぜかゆったりとした感じを与えてくれま
  す。 だんだん長くなってくる夜にどの本を読も
  うかなと思って眺めている作者の姿も浮かびま   す。

☆島を縫い冬灯台の灯と会いぬ
 冬の夜の瀬戸内海を船で渡られた時の句でしょう
 か。 島を縫うように進む船から冬灯台の灯を何か 人懐かしい気持ちで眺められている作者の心が「灯 と会いぬ」という言葉に表わされていると思いま  す。

☆わが白息秘仏の玻璃を曇らせる
 ガラスの向こうに鎮座する秘仏を一心に見よう
 とされている作者の姿が大変よく伝わってきます。

 

(平成19年4月号)
☆梅林の影あわあわと草にあり
 早春の梅林の日影を「あわあわと柔らかい緑の草の
 上に」と美しく詠まれた句だと思います。

(19年3月号)
☆降り初めし雪のしじまを仰ぐなり
 雪が降り始めた時の静けさとともに、降る前の冷
 たい静けさも感じられる句だと思います。


以上、拙い鑑賞をご容赦下さい。
8月30日 午前 5時50分