平成19年
10月号
夏寒し蜆汁をたっぷりと
店頭に走り甘藷の紅を積み
夏空の青をつっきるもののなし
青多き水着の縞を洗いけり
冷蔵庫に西瓜が入りて鋭(と)き匂い
青闇を美しきまで稲光
道々を水ふうせんを突きつつ行き
11月号
鎌倉・宝戒寺三句
葉ばかりの萩の青さへ分け入りぬ
あおあおと萩の葉路を攻めて垂る
白萩の奥なる門の半開き
鶴岡八幡平氏池
白蓮のほどけるほどに咲きいたり
小雨降る中の芙蓉を一つ剪る
辻に出て通う秋風身にまとう
梨割って地球に住むもまたよかり
12月号
六本木ヒルズ
壁泉を秋水はてもなく滑る
虚子庵跡
虚子庵へところどころの花芙蓉
秋高し稲村ヶ崎は逆光に
大仏の御身の背より薄紅葉
つやつやと穂芒昼の空に出づ
みずひきも蓼も赤なり野に来れば
貝割菜茹でてみどりのひとにぎり
平成20年
1月号
秋海は青より銀に由比ヶ浜
遠き帆は白き帆沖へと秋の海
東慶寺
竜胆の青咲き残る山の寺
寿福寺
立子の墓菊のいずれもいきいきと
朝日よりははそ黄葉を拾い来し
星生まるときも柿の実熟れつづく
芒野にまなざし遠く佇めり
2月号
朝の日のははそ黄葉を拾い来し
疵なくての寒の椿の小ささよ
炎(ほ)の色と思わすほどに寒椿
長子来て二日の夜の灯を増やす
正月の三日の灯のかく静か
火の力ありてさらりと七草粥
こまやかに青菜匂いて七草粥
3月号
初雪がたいらに積んだうすい影
ストーブのうしろを雪が降っている
水仙の花を浮かせて庭が枯れ
椿落ちて草のみどりにうかぶだけ
梅蕾すこしばかりに風がすぎ
竹やぶの竹の太さに冬がある
寒ン空に破れ芭蕉の鳴りづめに
4月号
ふるさとを呼び起こしつつ街に雪
枯山はわがふところに星とある
春寒の港のすべてすべて白
つばき落ちる音の一会に朝厨
梅蕾白きは空にかがやける
青空の果てしなきこと二月なる
花びらのあい重なりぬ陽のチューリップ
5月
やぶ椿揺るる揺れれば風のさま
荒東風に山の風音のふくらみ来
春一番西日のなかの草や木や
びっしりと菫を植えて風荒らぶ
仰ぎ見て空いっぱいの欅芽木
蕗のとう裏畑いっぱい伸びさかり
てっぺんより辛夷が白くほどけ出す
6月
欅若葉空をうずめて浅みどり
芽木若葉たちまち空の蒼に和す
たんぽぽの閉じし眠りの強固なる
キーを打つその間も蕗の香指にあり
横浜日吉本町
子らあそばす丘の平地の桃さくら
花の塵掃き寄す少女の一心に
多摩川の奥へと桜咲き連らぬ
7月号
明け初めし空の丸さよ柿若葉
都築里山
青嵐の中の色濃き高野槙
境田貝塚跡
森奥のたんぽぽ大方は絮に
小石川植物園三句
やわらかに足裏に踏んで桜蘂
たんぽぽの草の平らに散らばりぬ
銀杏大樹青葉の青という力
8月号
卯の花に月は届かぬ高さまで
梅雨空に星あることを見て眠る
アスパラガス束ね大地の浅みどり
キャベツ剥ぐ水ころことと流しつつ
ゴーギャンの色にマンゴウ真半分
ハルジオン青き花瓶に挿し飾る
若きらと夜を働き汗涼し
9月号
透き通るバケツにあふる朝の百合
紫陽花を剪るに真青き匂いたち
老鶯の一つよく鳴く風みどり
青葉蔭砂場にいろいろ子どもの色
月見草のかるさに浮び梅雨の月
駅の灯も今宵は星を祭る灯に
夕立のあとの急がぬ軒しずく
山際のつゆけき青に花胡瓜
雷鳴の一度っきりの雲白し
黒南風に葉は充実の揺らぎ見す
10月号
夏寒し蜆汁をたっぷりと
店頭に走り甘藷の紅を積み
夏空の青をつっきるもののなし
青多き水着の縞を洗いけり
冷蔵庫に西瓜が入りて鋭(と)き匂い
青闇を美しきまで稲光
道々を水ふうせんを突きつつ行き
11月号
鎌倉・宝戒寺三句
葉ばかりの萩の青さへ分け入りぬ
あおあおと萩の葉路を攻めて垂る
白萩の奥なる門の半開き
鶴岡八幡平氏池
白蓮のほどけるほどに咲きいたり
小雨降る中の芙蓉を一つ剪る
辻に出て通う秋風身にまとう
梨割って地球に住むもまたよかり
12月号
六本木ヒルズ
壁泉を秋水はてもなく滑る
虚子庵跡
虚子庵へところどころの花芙蓉
秋高し稲村ヶ崎は逆光に
大仏の御身の背より薄紅葉
つやつやと穂芒昼の空に出づ
みずひきも蓼も赤なり野に来れば
貝割菜茹でてみどりのひとにぎり
平成20年
1月号
秋海は青より銀に由比ヶ浜
遠き帆は白き帆沖へと秋の海
東慶寺
竜胆の青咲き残る山の寺
寿福寺
立子の墓菊のいずれもいきいきと
朝日よりははそ黄葉を拾い来し
星生まるときも柿の実熟れつづく
芒野にまなざし遠く佇めり
2月号
朝の日のははそ黄葉を拾い来し
疵なくての寒の椿の小ささよ
炎(ほ)の色と思わすほどに寒椿
長子来て二日の夜の灯を増やす
正月の三日の灯のかく静か
火の力ありてさらりと七草粥
こまやかに青菜匂いて七草粥
3月号
初雪がたいらに積んだうすい影
ストーブのうしろを雪が降っている
水仙の花を浮かせて庭が枯れ
椿落ちて草のみどりにうかぶだけ
梅蕾すこしばかりに風がすぎ
竹やぶの竹の太さに冬がある
寒ン空に破れ芭蕉の鳴りづめに
4月号
ふるさとを呼び起こしつつ街に雪
枯山はわがふところに星とある
春寒の港のすべてすべて白
つばき落ちる音の一会に朝厨
梅蕾白きは空にかがやける
青空の果てしなきこと二月なる
花びらのあい重なりぬ陽のチューリップ
5月
やぶ椿揺るる揺れれば風のさま
荒東風に山の風音のふくらみ来
春一番西日のなかの草や木や
びっしりと菫を植えて風荒らぶ
仰ぎ見て空いっぱいの欅芽木
蕗のとう裏畑いっぱい伸びさかり
てっぺんより辛夷が白くほどけ出す
6月
欅若葉空をうずめて浅みどり
芽木若葉たちまち空の蒼に和す
たんぽぽの閉じし眠りの強固なる
キーを打つその間も蕗の香指にあり
横浜日吉本町
子らあそばす丘の平地の桃さくら
花の塵掃き寄す少女の一心に
多摩川の奥へと桜咲き連らぬ
7月号
明け初めし空の丸さよ柿若葉
都築里山
青嵐の中の色濃き高野槙
境田貝塚跡
森奥のたんぽぽ大方は絮に
小石川植物園三句
やわらかに足裏に踏んで桜蘂
たんぽぽの草の平らに散らばりぬ
銀杏大樹青葉の青という力
8月号
卯の花に月は届かぬ高さまで
梅雨空に星あることを見て眠る
アスパラガス束ね大地の浅みどり
キャベツ剥ぐ水ころことと流しつつ
ゴーギャンの色にマンゴウ真半分
ハルジオン青き花瓶に挿し飾る
若きらと夜を働き汗涼し
9月号
透き通るバケツにあふる朝の百合
紫陽花を剪るに真青き匂いたち
老鶯の一つよく鳴く風みどり
青葉蔭砂場にいろいろ子どもの色
月見草のかるさに浮び梅雨の月
駅の灯も今宵は星を祭る灯に
夕立のあとの急がぬ軒しずく
山際のつゆけき青に花胡瓜
雷鳴の一度っきりの雲白し
黒南風に葉は充実の揺らぎ見す