能勢謙三の鹿児島まち案内日記

案内日記こぼれ話2

 まち案内は、基本的に夜はしないことにしています。夜は天文館や名山堀で好きな酒を飲みたいし、酔って案内するのは失礼だと考えるからです。
 ただ、時々案内したこともあります。それも、明らかにどこかを探して困っておられると感じた場合に限られます。
 9月15日のことでした。名山堀の居酒屋「のり子」でダレヤメをして天文館の店へ移動しようとしていた午後8時40分ごろ、名山町の電車通りから県産業会館へつながる路地に入っていく男女を見かけました。背の高い西洋人です。キャリーバッグを引いています。すると、2人は「味の八坂」前で立ち止まりました。目的の店と思ったのでしょうか。
 私が直感したのは、2人が探しているのは易居町の「中薗旅館」ではないか、ということでした。この旅館は、安価で日本旅館を楽しもうという外国人がよく泊まる宿。時間も時間です、きっとそうだろうと思い、私は2人に声をかけました。「ナカゾノリョカン?」。2人は一瞬びっくりしたような顔をして、すぐ「そうそう」というようにうなずきました。やっぱりでした。味の八坂が何だか旅館のような店構えをしているので、入ろうとしていたのでしょう。
 英語でなんと言ったのか、よく覚えていません。とにかく案内しましょう、と伝えました。40歳前後の2人はキャリーバッグをゴロゴロ響かせながら私について来ました。聞くとオランダ人とのこと。自分もですが、英語はあまり達者でないようでした。
 サービス精神がもたげた私は、鹿児島市でも貴重な名山堀のレトロな路地と飲み屋街を見てもらおうと、わざと狭い路地を縫って旅館の方へ向かいました。小さな居酒屋が肩を並べる飲み屋街では「これが日本のバーです」と説明もしました。
 ところが、飲み屋街を抜け、みなと大通りを渡ったあたりで2人は急に足を止め、持っていたガイドブックを再び開き始めるではありませんか。おそらく私を疑い始めたのでしょう。わけのわからない日本人にだまされようとしていると思ったのでしょう。
 中薗旅館の主人はたまたま知人でしたので、「ミスターナカゾノ・イズ・マイフレンド」などと説明。何とか説得して、どうにか旅館までたどり着きました。玄関の引き戸をガラガラと開け、私はすがるような思いで「中薗さーん」と大きく声をかけました。「はーい」と低い声を上げて中薗さんが中から現れてホッ。オランダの2人もホッとした様子で、やっと「サンキュー」と言い、笑顔を見せてくれました。
 天文館で飲み直したのは言うまでもありません。

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