《夢いずる海から、夢架ける海へ。》
12月6日水曜日、朝4時に家を出た。
日の出まで、まだ2時間もあるのに、国道は多くの大型トラックが目立っていた。それはまるで弱者の地に降る巨大なミサイルのように思われた。此処は俺のモノだとでも言うようにトラックは突っ走っていた。12月と云うだけで、いったい世の中はどれだけ忙しいのだろう。
何かに向けて、必死に突き進む人たちの中を、世界の営みを、死にもの狂いで支えている人たちの中を、僕もまた必死になって釣りへ行こうと、まだ明けない冬の夜の中を、海へ向けて突き進んでいるのだ。
今日も「角」に入りたいと云う思いが、アクセルを踏み込ませていた。
あっと云う間に口野に出た。海辺沿いにある釣具屋の電気もまだ付いていなかった。車は快調に水戸のトンネルを抜け、速やかに海岸線の急カーブを切って進む。対向車もない17号線をアップライトがくっきりと闇を映し出す。
息も付かぬ間に、ホームグラウンドに到着した。さてー。
堤防は夜の暗闇に溶けて、何も見えない。人がいるのかどうか、見えない。
駐車区内に入ると堤防の内側に灯りが見えた。僕は急いで車を停めると、竿ケースとバッカンを持って一目散に堤防の角へ向った。近付くにつれ目が慣れてきて、2つの人影が堤防の角の上に現れた。あーーー。
どうやらルアーを投げているようだった。彼らの荷物はとても少なかった。ひょっとしたら、明け方までの釣りかも知れないと思った。隣が空いているので、迷わず隣に入った。
まず、釣座の位置に折りたたみ椅子を拡げた。2人の釣人の邪魔にならないように、釣竿の長さを考えて少しずらした。それから手の届く範囲にクーラー、コマシバッカン、血抜きバッカン、竿ケース、釣具バッカンを配置する。いつものパターンだ。
椅子に座って、カマス用のルアータックルの仕度に取り掛かった。ふと隣りのルアー師たちを見ると、竿先に餌木が下っていた。アオリイカ狙いだ。多分、日が昇れば角に入れそうだと思った。
遠投竿を改造したルアー竿にリールを装着して、PEラインを通して蓄光テープを貼った小型のジグを付けた。
指先の蓄光テープの黄緑のボアっとした灯りが、波音に揺れる海のホタルのように見えた。ふと顔を上げると、暗い海の遠くの方から、忍び寄る光が抜けるように、闇の中に滲んで来ていた。僕は蓄光テープのルアーを投げた。今のカマス釣りは、明け方のほんの一時に食ってくる。30分くらいの間しかない。その時を逃すと釣れない。4投ほどしたが当たらない。直ぐにブレード付のジグに換えて、1投目に食ってきた。1尾バラして4尾追加した頃、カマスの当たりは無くなってしまった。やはりカマスはブレードがお好きなようだ。
夜明けが来て、2人のルアー師たちが帰る仕度をしていた。
僕は彼らに声を掛けてから、角に移動した。
やはり角に入ると、気持ちが昂ぶって来るのが自分でも分かった。多分、このホームグラウンドのこの場所が、自分の場所なのだろう。この今を、精一杯楽しもう。やれるだけの事をしよう。明日はどうなるのか、誰にも判らないのだから。
それから、ルアー師たちと、カマスについて少し話をした。これからカマスは本番を向かえるのだ。僕はなんの気なしにジグをミノーに替えて、ルアー竿を横に置き、メジナの仕度に取り掛かった。堤防のメジナは朝一には来ない。小メジナは別です。ゆっくりと玉網から仕度を始める。コマシ、リールセット、仕掛け作り、浮きを選び、ハリスを選び、針を選んだ。竿受けに置き、コマシを巻き始めた。
30分くらい経ったころか、小メジナが寄ってくる。
ボラの子の大群が、時々目の前の海を覆い尽くす。目をこらして見ると本当に凄い数だ。やがて、二ヒロ位下に足の裏サイズのメジナの姿が見えだした。ヒラをうちながら餌を拾っている。僕は棚を3ヒロに合わせて、餌を付け第一投目を投げた。見えているメジナのその下1ヒロ辺りから探ってみる。追いコマセを入れる。
何投目かに浮きが引き込まれていき、上がってきたのは30は無いメジナ。
足を合わせると略同じくらいだった。
これは放流。更に何投目に同じくらいのメジナがきた。先程のと同サイズだったけれど、まん丸に張っていたのでこれは直ぐ血抜きをして、クーラーへ。
日が昇ってからは陽射しが強くてとても12月とは思えない暑さで、僕は上に着ていた防寒着を脱いだ。体がジワーっと汗ばんでいた。クーラーから炭酸水を出して飲んでいると、何やら海面が騒がしい。処何処で何かがベイトを狙って跳ねている。バシャバシャっと海面が盛り上がっては波紋が広がる。僕はミノープラグを付けたままのルアー竿を持って、思いっ切り投げた。
4投目に竿が引ったくられる当たりが来て、リールからラインが出ていった。フロントドラグの事など頭になかったが、締め忘れていたのだ。僕はふだんからドラグは使わない。いつもリールをフリーにしてやり取りしてきた。
リールが逆回転してスプールからラインが出ていくのを見たことがなかったので、つい見入っていた。話には聞いていたし、テレビの釣り
番組などでそう云うシーンは見ていた。思わぬところで実視することになったのだ。ジーっと云う音と共にラインが出てゆく。なかなか止まらない。フロントドラグを締めて、フリーにしてやり取りしようかと迷ったが、このままドラグを使ってみることにした。
フロントドラグは初めての体験である。ハンドルをまわしても、ラインが出てゆく。ちょっと不思議な感じがした。だがいつまでもこのままでは周りに迷惑がかかるので、スプールに指を掛けて回転を止め、竿でためてみた。それを何度か繰り返すと魚の走りが止まった。フロントドラグを少し締めてリールを巻く。また竿でためてリールを巻く。一旦魚の引きが弱まってからはこちらのペースでタモ入れまでスムーズに終わる事ができた。
60㌢のメジだった。直ぐ血抜き、神経締めしてクーラーへ。竿は3号の遠投竿をルアー用に改造したものだったし、仕掛けはシッカリしていたので、気も使わず楽に取り込めた。釣った感が余り無かったけれど、まるまると太ったメジだった。いつも魚を締める事が先にたち、つい写真を撮るのを忘れがちなのだけれど、今回はしっかりと撮った。
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