ここは透明な心の塊
前に進もうとすると塊が邪魔をして進めない
前に進むためにはこの塊を溶かすしかない
柔らかく封じ込められたこの感触は悪くはないのだけれど
前に進まないと息ができない
ゆっくりと見えないスピードで柔らかい心を溶かしてゆく
腕を伸ばそうとすればするほどまとわりつく
振りほどこうとすればするほど絡みつく
甘いゼリーの奥に沈み込んでいく自分の体
本当はいつだって逃げ出すことができる
ここにいるのは自分の意思
シャーレの外から声がする
早く出て来いと遠くの山の向こうから声がする
閉じ込められた狭い空間を真っ白に染め上げたら
きっと、いつか、もう一度ミクロな生き物に生まれ変わって
空を飛んでいくんだ、きっと
(Zygomycota)