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鬼畜の美食家 中

2021-09-19 20:10:48 | 縄奥小説

 

【鬼畜の美食家・中巻】

 

 


【一話】

 

 


 そこには三人のタキシードを着た白、赤、青と色違いの口元の開いた仮面をつけた何者かがテーブルを前に並んでいた。

 そしてテーブルの向こう側には白衣を身に纏った一見、医師ともコックとも思える仮面の人物が居て、手術道具を左右にその真正面に仕事帰りを思わせるスーツ姿の女性が気絶していた。

 タキシード姿の人物達の前には食器と調味料そしてワインとグラスが置かれ三人は微動だにせずジッとしていて、そこへ白衣の人物が何やら白いメモとサインペンを持ち運んでテーブルに置いた。

 するとタキシード姿の三人は白いメモ紙に書かれた人型の裏表に印をつけ始め同時に、女性の衣服の部位を書き記した。

 ブラジャー、パンティー、パンティーストッキングと個々のメモに記された用紙は白衣の人物に個々に手渡されその動きに何本も立てられた蝋燭の炎がユラリと揺れた。

 そして三人の見ている前で次々に衣服を剥ぎ取られた女性のパーツは順次、三人の人物達り前に静かに置かれた。

 それはまるでディナーの前の香りのプレゼントのようであった。

 三人は仮面下の口元に笑みを浮かべてニヤニヤしつつ両手に持った衣類の匂いを嗅ぎ始め徐々に顔を埋めて鼻で深呼吸していった。

 その間、白衣に身を包んだ人物は無言で気絶している全裸の女性の両手を頭の上で縛りベッドに固定すると、今度は右足のみをベットに固定して縛った。

 三人の仮面人物達は目の前の女性から剥ぎ取った衣類を思い思いに楽しみつつ、三人の要望に従って削ぎ取る肉の部位に印をして全身麻酔をされ気絶している女性の生肉にメスを入れた。

 メスが入るとその部分から血液が溢れだし白い肌を伝ってベッドシーツを赤に染めたが、女性の衣類にウットリしている三人の眼中には入ることはなかった。

 蝋燭を灯りに使っている部屋の中は三人の荒い吐息だけが漂っていて、肉を削ぎ取られる女性はその痛みすら感じず目を瞑ったまま動くことはなかった。

 女性は全身を真横にされると左尻の肉を幅3センチ、長さ10センチ程に切り取られ即座にそり部位を治療され、今度はその左足の内モモの肉を同じだけメスで切り取られた。

 オビタダシイ量の出血を伴いつつもも直ぐ傍の血圧計のモニターには乱れはなくこれをも即座に治療し終えた。

 白衣の人物は女性を仰向けにし左乳房を乳首ごと直径8センチほど切り取ると見事に手際よく止血し処置を施した。

 そして仰向けの女性の両足を大きく広げると、軽く火を通しただけの肉に大陰唇と小陰唇の間にベッタリと張り付いた女の白い汚物をスプーンですくい取ると、白い更に盛り付けた女の肉に万遍なく塗りつけ三人の人物の真横から料理を出した。

 三人の人物達はフォークとナイフを巧みに遣い出された料理(にく)を口に「クチャクチャ」と、生きの良い肉に舌鼓を打った。

「ご注文は谷はありませんか?」
 白衣に身を包んだ人物が声を窄めると真ん中の赤い仮面の人物が女性の大陰唇をメモに記して渡し、白い仮面の人物はクリトリスを、青い仮面の人物も大陰唇をメモにして手渡した。

 そして焼き具合を口にした白衣の人物に対してレア、ミダアム、ウエルダムの順に三人の人物は言葉を使わずにメモを見せた。

 気絶したまま微動だにしない女性の身体から大陰唇がメスで切り離されている間、三人はニヤニヤしつつワインで口中をスッキリさせた。

 白衣の人物は女性から切り取った大陰唇に三本の鉄串を刺して両手で手馴れた手つきで炭火の熱を通し室内には肉の焼ける匂いが充満した。

 そして三人目のクリトリスは一センチほど深く抉り取って止血をすると、一本の串に縦に突き刺して炭火でコショウを振ってあぶり焼きした。

 美食家達は思い思いの味と香りに個々に唸り声を上げサラリとワインを理度に滑らせた。

 
 こうして半年以上も動きを止めていた鬼畜の美食家達は再び一人の美女の肉を腹に収めたが、模擬犯と思われる変質者が半年間に述べ数十人が警察に逮捕されていた。

 鬼畜の美食家達は警察に動きを察知つせずそして一つとして手掛かりを残さぬまま、自ら救急車へ通報しその場を立ち去っていた。

 だが、鬼畜の美食家達に狙われ身体の肉を喰われた女達は個々の不幸に耐え切れずに苦しみ続けていたが、世間では鬼畜の美食家に狙われることこそ美女の証と言う風評も出回っていた。

 鬼畜の美食家達は美女しか狙わない。 そして一度でも狙われたら決して逃れることは出来ない、女性にとって恐怖の存在であった。

 世間からは警察は何をしていると言う声が毎日のように繰り返され、操を守ろうと女達は必死で男装して自宅と会社、或いは学校を往復した。

 そんな中、肉を削ぎ取られた女達は個々にその苦しみに耐え医師又は看護師に涙ながらに心境を語った。

 鋭利なアイスデンジャーで尻肉を丸く削ぎ取られた女は治療の過程においてポッカリと空洞のごとく開いた尻の穴を指でなぞり、医師の助言を思い出しつつ止まることのない涙で枕を濡らした。

 そして同じく乳首ごと乳房を片方なくした女は気が触れたように自身を忘れ、内モモの肉を削ぎ取られた女や大陰唇、小陰唇そしてクリトリスを無くした女もまた同様であった。

 警察は本星である鬼畜の美食家を追う一方で多発する模擬犯に苦慮していた。 人間が人間の肉を喰うと言う前代未問の事件はその数を増す一方で社会をあらぬ方向へと導いてもいた。

 鬼畜の美食家に食べられてみたいと言う女も少なくない一方で、鬼畜の美食家に拉致されれば性器を取って貰えると言う性転換願望者もまた数を増やしていった。

 そしてそんな社会事情を知ってか知らずか、鬼畜の美食家もまた、一度捕らえた獲物(おんな)の顔から化粧を完全に落とし、その素顔の美しき者のみを食すと言う動きを見せた。

 中には一旦拉致監禁されたものの、化粧を落とされ何もされずに路上に放置された女や、腹いせとでも言うべきかブタのように鼻を上に向けられる整形を施された化粧美人も多数存在した。

 鬼畜の美食家は最早、神業的な力量で警察の捜査を振り切りゴットハンドとでも言うべきかその手術力に全国の医師たちを震撼させた。

 

 

 


【二話】

 

 


 薄暗い十畳ほどの洋間の真ん中、一人の女が意識を失って寝台の上にグッタリしている。

 それをニヤニヤして眺めるタキシードの白仮面の人物は寝台の手前から同じく黒仮面を付けた白衣の人物の方をチラリと見て直ぐに視線を女の方へ戻した。

 寝台の手前には仮面をつけた二人の人物が立って居て、寝台の向こう側には医療器材と電子機器が設置されていたが、それはいつもの光景だった。

 白衣を着た人物は頭にコック帽をかぶりその素顔もまた他の者たちと同様に見ることは出来なかったが、白衣の人物は小声で三人の人物達に囁いた。

「今夜は各自このスプーンを使って思い思いの部位を御賞味頂けます。 但しここにある部位は命の危険があるため御容赦頂きます。 尚、股間関係は私が執刀致します」
 白衣の人物は男とも女とも付かない機械を使った声で自らの後ろに張られた人型の書かれた大きな張り紙を参加者達に指差して見せた。

 参加者達は一様に大きく頷いて白衣の人物に視線を一致させつつ、白衣の人物の指示で女から衣類を剥ぎ取っては口から漏れそうになる歓喜を堪えた。

 女は三人の参加者達に見る見る間にその素肌を明るみに照らし艶々した色白の揺れる肌を晒し仰向けにされた。

「では、この図を見ながらお手持ちのスプーンでこの素晴らしい女体を御賞味下さいませ…」
 参加者達は白衣の人物の後ろに張られた絵図を見つつ、スプーンの角度や深さを頭に入れ震える手を深呼吸して落ち着かせた。

 女の甘酸っぱい香りが部屋中に充満していたが、参加者達はプリンのように揺れる尻、そして尻を支える裏モモに異様に執着してかその柔らかさをスプーンに感じつつ、掬い取った血の滴る肉を目に香りをそして白さを楽しんだ。

「調味料を必要な方は小皿に肉を移してお使い下さい…」
 白衣の人物は一歩後退して、身体から肉を掬い取られる女体に満足をうかがわせ微笑を見せた。

 女は時折全身をヒクヒクさせたが気付く様子はなかったが、参加者から大陰唇を食したいと言う申し出や、乳房をとの要望が続けざまに出された。

 参加者達は個々の席に移ると、目の前の白い小皿に血の滲む白い肉に個々に置き調味料を手にとって笑みしていた。

 白衣の人物は参加者達の食事中、慣れた手つきで肉を削がれた部分を止血し同時に治療しはじめた。

 尻、そして裏モモを包帯で覆った女は仰向けにされ、両足を大きく広げさせられると、参加者達の視線は女の恥ずかしい部分に注がれ、そして白衣の人物が両手の指で割れ目を開くと静まり返った部屋に「ニチャッ」と、恥ずかしい音を響かせた。

 女の恥ずかしい部分の中はピンク色の内肉にベッタリとその汚れが張り付き、所々に黄色がかった白色の汚れが付着していた。

 参加者達はそれを見ると一斉に喉をゴクリと鳴らして見入り、白衣の人物は早速、二つの大陰唇と二つの小陰唇そしてクリトリスに手早くメスを入れ大皿に盛り付けると、内肉に張り付いた汚れをスプーンで手早く採取しソースとして肉の周りを飾った。

 そしてテーブルの略、中央に置かれた大皿を取り囲むように三人の人物達は注文どおりの肉にソースを塗りつけ生のまま口に放りこんだ。

 耳障りなクチャクチャと言う異様な音が静まり返った部屋に響く中、白衣の人物は再び慣れた手つきで事後処理に追われた。

 そしていつものように証拠隠滅を入念に果たした鬼畜の美食家達は救急車を要請しその場を離れたが、数日後メディアは一斉にこの件を大きく取り上げ警察に一掃の圧力を加えた。

 警察は一旦収まった犯行が繰り返されたことに苛立ちを隠せず遂に異例の「緊急事態宣言」を、発表したがそれはそれで再びメディアを刺激し世の中は蜂の巣を突いたように大きく揺れた。

 そしてその間も模擬犯と思われる自称、鬼畜の美食家達が次々に証拠を残し捜査をかく乱していった。

 

 

【三話】

 

 


 日本各地で頻繁に発生する模擬犯の変質者の犯行に警察はその対処に憤りを隠せず、メディアもまた今度こそは本物かと全国を飛び回り振り回された。

 そんな中で本物である鬼畜の美食家達には一向に捜査の手は伸びることは無く被害者からの事情聴取からも手掛かり一つ見出すことは出来なかった。

 変質者なのか或いは人食い人種なのか警察はお手上げ状態で、メディアはあること無い事を書きたて世間を鬼畜の美食家(はんにんたち)よりも騒がしても居た。

 警察は余りのメディアの大騒ぎに釘を刺すかのようにメディア規制を強制的にかけ、一部のメディアは反論するかのようにその事実を書きたてた。

 そしてそんな中、幾度と無く繰り返される鬼畜の美食家達の食事(はんこう)は止むはなかった。 その一方で模擬犯は徐々に減少して行った。

「事件のことは知っていました… でも残業で終電にも間に合わず徒歩で帰宅しようと…」
 被害女性の一人は、人気の無い街中の歩道を歩いていて気付いた時は病院の中だったと話す一方で、首の後ろに突然チクリと何かが刺さったと証言した。

 それを切っ掛けに警察は全ての被害者から聞き取り調査を実施し、その殆どが首の後ろであったり横であったの半袖から突き出た腕だったりしたことを明かした。

 だが、既に被害者の身体からはその痕跡は消え、警察は新たな被害者達から早急に聞き取りを実施した。

「鬼畜の美食家(ヤツラ)は何らかの方法で被害者の身体に薬物を撃ちつけた可能性が強いな…」
 刑事一課、強行班の係長である警部補はそう、課長である警部に言葉を絞った。

 鬼畜の美食家(はんにん)達は遠くから被害者に気付かれぬよう何かを撃ち付け、倒れたところを拉致したと警察は断定したが、何れも最近の被害者でさえもその痕跡は残ってはいなかった。

 果たして警察の断定した通りだったのだろうか。

 この件に科捜研は被害者の全身に一つとして痕跡が見当たらないと真っ向からそれを否定して見せた。

 同じ事件を追う警察と科捜研の対立は複雑化していった。

 では、一体被害者達が口を揃える何かがチクリと刺さったと言う証言はどうなるのか、捜査は再び暗礁に乗り上げた。

 生まれ故郷、在住地域、年齢や学歴など一切の共通点のない被害者達は一体、どんな手法で拉致監禁されたのか誰一人として気付くことは無かった。

 そして今夜もまた、誰も解からぬまま美しい女性が拉致監禁気絶させら、その美しい尻肉の片方を失った。

 獣と化した鬼畜の美食家達は女から切り取った美しい尻肉を三人で分け、白衣の人物の手によって血抜きをした後、レア・ミディアムで静かな部屋の中に耳障りな歯音を立てた。

 左尻の殆どを失った女は何も解からぬまま応急治療を施され、然る後、119番通報によって一命を取り止めたものの事実を知った女は泣き叫び狂乱のごとに頬を涙で塗らした。

 そして落ち着いた頃、尋ねてきた刑事に「右腕に何かチクリと触った」と、鮮明な記憶を話したが法医学者が数時間かけて検査したが虫刺れ一つとしてその痕跡はなかった。

 被害女性の記憶はそのチクリから全てを失い気が付いたのは救急車で運ばれた病院だったと言い、謎は深まるばかりだった。

 そんな中、報道規制を強いられていたメディアの一つはスクープ欲しさに女性社員を囮として街に数名放ったが、鬼畜の美食家達の手に掛かることなく終わった。

 そして警察もそんなメディアの動きを知りつつも口を閉ざしていたが、一人の刑事が独り言のように署内で放った。

「共通点は痕跡の無いチクリとした痛みか…」
 捜査に疲れきった表情をする数人の刑事の一人が放った言葉を法医学者、そして科捜研の二人が聞いていた。

「もしかしたら…」
 法医学者と科捜研の二人がガックリと肩を落とす刑事達を前にして放った言葉に、刑事達は一斉に困惑した顔を上げた。

 そして遂にその謎に迫れるかも知れないと法医学者、そして科捜研の二人は慌ててその場を離れた。

 

 

【四話】

 

 

 うっそうとした森の中にある使われていない別荘の一室、口元以外を仮面で覆い隠した三人の人物の前、同じく仮面をつけた板前風のいでたちをした人物が小声を放った。

「今夜はあぶりネタで握りずしを握りましょう… お好みの部位を注文下さい。 尚、あわびは二つしかありませんので…」
 板前風のいでたちをした人物の声に三人の同席者は笑みを浮かべ首を大きく頷いた。

「尻肉を…」
 一人が小声を発するとと、腰、裏モモと続けざまに声が密室に響き、板前風の人物は慣れた手つきでメスを女の身体に入れた。

 気を失っている女の身体から次々に肉(ネタ)が切り取られ酢飯で握られるとそのまま客達の前に出された。

「こっちにはアワビを貰おうか…」
 女は仰向けに大またを客達の前に晒すと、メスで右側の大陰唇をスッと切り落とされ直ぐにガスバーナーでチリチリとアワビを焼かれた。

 女の股間からオビタダシイ量の出血があったが、板前風の人物は即座に止血し冷酷無慈悲に左の大陰唇をも切り取った。

「こっちには内モモの刺身を頼む…」
 伸ばされた左足の内モモ部分を縦十センチ、横二十センチ厚さ一センチの大きさに捌かれた内モモのプルプルした肉は斜め切りされると横長の皿に盛り付けられ、客の前に出されると板前風の人物は速攻で女の足を止血し包帯で処置した。

「悪いがもう一貫、こっちにも尻を頼む…」
 板前に扮した人物は巨大なまな板の上の女の身体を真横にすると、再び客が指差した部位の肉を切り取って握った酢飯の上にネタを乗せバーナーでチリチリッと炙り焼きして出した。

「これは美味い!」
 プリンプリンと揺れる炙り焼きされた鮮度抜群の尻肉を頬張った客は、唸るように板前風の人物のほうに視線を向けた。

「こっちには乳首の串焼きを頼む」
 板前風の人物は首を大きく振ると、サッと包帯だらけの女の身体を仰向けにし見事なメス捌きで乳首を二つ切り取って串に刺すと、小さな七輪の上で両手を使って回し炙りして客に出した。

 巨大なまな板の上に乗せられた女の身体は見る見る間に血の滲んだ白い包帯だらけになり、首下だけで数十箇所を数えた。

 三人の客達はビールと日本酒に酔い痴れ、包帯だらけになった女を目の前にニヤニヤと笑みを浮かべ一人の客が声を発した。

「今日の趣向は中々のモノ… 上出来だ。 上がりに包み蒸しを頼む」
 板前風の人物は笑みを浮かべると無言で頷いて、女が一日中着けていたパンティーの当て布部分に小さな握り飯を乗せると、丁寧にパンティーで包んで電子レンジで加熱し皿ごと客に出した。

 ホクホクと蒸気が立ち上がるパンティーを開くと、女の汚れが染みこんだ飯の匂いを嗅いだ客はニンマリと笑みして箸で摘んだ飯をそのまま口に運んだ。

「こりやぁ美味だ! 美味い!」
 客はご機嫌とばかりに静まり返った部屋に歓喜な声を発した。


 その頃、法医学者と科捜研の担当者は類似したことを考えていた。

「もし針に刺された痛みのようなモノが本人による錯覚だとしたら…」
 被害者達が言う部位を必要以上に調査した二人は、何故被害者たちに共通して起きているのかその理由を考えていた。

 だが、依然としてその謎が解けないまま時間だけが経過して行った。

 そしてそんな中、再び別々の場所に居た二人に警察から連絡が入った。

 数時間後。

「酷いもんだ… 全身の至る箇所に肉を切り取られた痕跡が… 状況から言って寿司ネタにされたようだ! 無残なもんだよ被害者は! 恐らく喰ったヤツは三人と調理したのは一人… 喰い残した炙り焼きした串焼きの肉片が皿に残されていたよ!」
 一人の刑事が現場を見たまま法医学者と科捜研の二人の女性に事実を伝えた。

「オマケに御丁寧にいつものごとく証拠、手掛かりは一切無し。 目撃者もいず、被害者は今、口の聞ける状態じゃあない! 応急処置されて巨大なまな板の上で発見されたが、削ぎ取られたり切り取られたりで医者も目を反らしたほどだ!」
 真っ青に顔色を変えた刑事は壁を手のひらで叩くと怒りを堪え法医学者と科捜研の二人の女性を強張らせた。

「だが今回も同じで神業的な応急処置が施されていたらしい…」
 刑事の話しを聞き入る二人の女性は息を飲んで壁に背中をまたれさせた。

 法医学者と科捜研の二人の女性は医師の下を尋ね、紙に書いた人型の絵に傷の箇所を記させると瞬きを忘れた。

「恐らく好き勝手に肉を切り取って食したと思われます…」
 処置した医師は強張る表情を抑えつつ声を絞った。

 そして被害者と話せるか聞いた科捜研の女性に、首を横に振って傷の手当とカウンセリングが先だと念を押した。

「今回もレイプ… 性的暴行は無いのですか?」
 法医学者の女性が医師の目を見ると、医師は黙って小さく相槌を打った。

 そして待合室の刑事達。

「女が肉を削がれて苦しむ姿を見る訳でもなく、レイプする訳でもない… 全身麻酔をかけ被害者を眠らせて肉だけ取って喰う… そして自ら119番とは… 一体、何者なんだ! くそ!!」
 待合室で大気する刑事達は握った拳を開こうとはしなかった。

「ヤツラにとって女は性的な興奮を覚える生き物じゃなく食材なんだ! だから変質者の類とは訳が違う! 今まで被害にあった女性(ひと)達の心も身体の傷も一生消えることはねえ!!」
 一人の刑事は握った拳をそのまま振り下ろした。

「俺が話を聞きに行ってきた女性(ひと)はケツが! ケツが二つともねえんだぞ!! オマケに乳首も!! 何が鬼畜の美食家だああ!!」
 別の刑事は椅子にドスンと座ると両手で頭を抱えて叫んだ。

 数日後。

「やはりそうですか… チクリと何かが首に…」
 法医学者と科捜研の二人の女性は刑事達から被害者からの聞き取りに耳を傾けた。

 警察の会議室。

「刺されてもいないのに痛みだけがあって、実際にはソコには何もない…」
 科捜研の女はテーブルを前に左手で頬杖付いた。

「待てよぉ~ 確か以前、大学の実技で… 催眠術を実施した時… 掛けられた学生が片足が鉄のように重くなったって… 催眠術かぁ~ 有り得なくはないけど…」
 法医学者は目を閉じて当時の記憶を辿るように天井を向いた。

「催眠術!?」
 科捜研の女が法医学者に鋭い視線を向けた。

「痛みがあって気を失ったとみせるための偽装工作…? でもどうやって…?」
 両腕で頬杖を付いた法医学者の女は科捜研の女に視線を重ねた。

「………」
 互いの目を見詰め合う二人の女達。

「もし偽装工作なら被害者達の言っていることの裏づけが取れるけど… そんな簡単に掛けられるモノではないはずだし、犯人達が犯行前に被害者達に掛けて… でも失敗したら? 元も子もない… 被害に遭った時は既に被害者達の意識は無い訳だから、掛けるとしたら犯行前か…」
 両腕を組む科捜研の女。

「でも、そんなに素早く掛けられるモノかしら… だって実際には掛からない人も半分くらいはいるはず… もし掛からなかったらその場で被害者達は抵抗するか逃げ出すかするはずわ!」
 両腕で頬杖付く法医学者の女。

「確かに… 私だってもし突然の催眠術に掛からなかったら悲鳴をあげて逃げ出すわ。 第一、掛からなかった人が一人くらい居てもいいはずなのに、一人も該当者が居ないってのは変だわ…」
 タバコに火を点ける科捜研の女。

「やっぱり催眠術ってのは無理があるか…」
 同じくタバコに火を点ける法医学者の女。

「だよね…」
 煙を吸い込んで吐く科捜研の女。

「でも… もし、もしも、数日前とか数ヶ月前から… ああ、でもそれだったら変質者だってことで警察に報告があがるはずだわ!」
 同じく煙を吐き出す法医学者の女。

「取敢えず警察にはそれらしい報告がなかったか問い合わせて見てもいいわね…」
 タバコの火を消す科捜研の女。

 二人は気乗りしない表情のまま会議室を立ち去ったが、その翌日、二人の下へ警察から過去1年間に遡って調べたがそんな報告は何処にも無かったと伝えられた。

 

 

 

【五話】
 
 

 

 
 鬼畜の美食家達の餌食にされた被害者は既に数百人を越え警察は一刻の猶予も許されない状況下だった。

 しかしながら目撃者も物証も何も無い中で捜査は難航を極めメディアから警察は無能呼ばわりされていた。

 そして被害者もまた同じ証言を繰り返した。

 チクリと何かが刺さった瞬間、気絶したと言う被害者の証言は法医学者と科捜研の二人の女性の提言である偽装工作ではないかと言う仮設が警察内部に浸透し始めたが、推論にしか過ぎないと言う警察幹部達の前に消滅しかけていた。

 そして極秘扱いされていたはずの仮説が何故かメディアに漏れ、メディアは一斉に鬼畜の美食家達の偽装工作だと報じ、仮説にしか過ぎない催眠術の件をも報じられた。

 メディアは一斉に法医学者のいる大学、そして科捜研にオビタダシイ数のメディア関係者が張り付き二人の女性は身動きを封じられた。

 大学そして科捜研の前では連日のようにテレビ局のマイクを持ったリポーターが張り付いて緊張の度を増した。

 だがその様子を静観視する数人の人物達もテレビを前で黙していた。

 フランス料理、中華、焼肉に寿司、刺身と言った日本食に女性の身体の肉を利用する鬼畜の美食家達を、メディア達は既に賛美することなく有りのままを伝えた。

 顔を隠した被害女性達の絶望の泣き叫びをひたすら流すテレビ局に、鬼、悪魔と言った物言いのトークショーに至るまで鬼畜の美食家達はメディアによる集中攻撃を受けていた。

 ただ、そんな中で何処から漏れたのか解からない法医学と科捜研の推理を、鬼畜の美食家達は黙して何処かで見ていた。

 そして素性の解からない鬼畜の美食家達はその報道の内容に個々に笑みを浮かべていた。

 果たして法医学と科捜研の推理は的を得ているのか、或いは的外れなのかは鬼畜の美食家達のみが知る真実であろうか。

 そしてインターネットのウーチューブには当事者と思われる被害女性が顔にモザイクを掛け切り取られた片方だけの乳房を生々しく映像として放映し、別のニクニク動では尻の片方だけが切り取られた映像が流され、世界中のユーザーにその凄まじさが連日伝えられた。

 だがそんな中において鬼畜の美食家達は、まるであざ笑うかののように次々に女性を、まさしく「食い物」に、して行った。

 年齢もバラバラ、身長や体重、その他の一切に共通点の無い女性達は夜だけにとどまらず昼日中でさえ被害を受けるに至って行ったが警察は何も出来なかったが、唯一の共通点は美形であると言うこと。

 そして警察では。

「真昼間なんだぞ!! 真昼間でどうやって拉致してるんだ!!」
 幾度も開かれる捜査会議の席上、アチコチから飛ぶ怒声は既に限界を超えていた。

 そしてそこへ。

「催眠術です! それしか考えられません!! 犯人達は何処かで事前に何らかの方法で被害者達に催眠術をかけて、偽装工作をして拉致してるんです! それしか考えられません!!」
 法医学と科捜研の二人の女性は無断でドアを開いて中に入って周囲の刑事達を見回した。

 すると本部長は。

「だったら!! 物的証拠なり科学的でも医学的でもいいから立証してもらいたい!! このままではそんな推論に捜査の手を向ける訳にはいかん!!」
 捜査本部の席上、普段は温厚な本部長が机を叩いて立ち上がった。

 法医学と科捜研の二人の女性は、口調を合わせるように本部長に催眠療法の実験をさせて欲しいと視線を向けた。

 本部長は上級庁と話して来ると言って会議を終わらせ会議室をそのまま出て行った。

 果たして法医学と科捜研の二人の推論は立証されるのか、そして犯人逮捕に繋がるのか、それは未だ計り知れない新たな挑戦であった。

 

【中巻・完結】


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