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【鬼畜の美食家】総集編

2021-09-19 20:14:18 | 縄奥小説


【鬼畜の美食家】総集編

 

【一話】

 

 

 

 猛暑日となったこの日、サラリーマン達は肘に背広を抱え黙っていても額から湧き出る汗を時折拭いた。

 そしてOL達もまた、余りの猛暑にストッキングを履いている者も少なく、時折スカートの中に入り込む風に一息ついて信号の変わるのを待った。

 気温35度。 路面温度は50度にも達しようとしている頃、勤め人ではない女達は個々に体温を逃そうと涼しげな風情を見せていた。

 ムッチリした太ももを揺らすミニスカートにショートパンツそしてプルプルと揺れる胸ラインの見えるノースリーブ。

 否応なく男達の視線は軽装な女達に向けられ、女達もまたその視線と太陽の熱さに顔を背けた。

 そんな中、巷の記憶から遠いていた鬼畜の美食家もこの暑さと、蓄えていた肉の減少に耐え忍んでいた。

 事件発生から既に3年を経過しようとしていたこともあって、捜査本部は事実上解散し鬼畜の美食家達のことを口にする者は何処にもいなかった。

 検察は被疑者不詳のまま刑事告発したが、全身に傷を負った女達の心は癒えることはなく、時効成立まで僅か数年というところへ来ていた。

 だが、一度でも獲物(おんな)の肉の味を覚えた鬼畜の美食家達はその時効を待たずに、成熟した獲物(おんな)達を見て、時折喉を鳴らして見入っていた。

 ただ生きた人間(おんな)の肉を切り取って喰うと言う前代未聞の事件は再び繰り返されようとしていたが、一人として死に至らしめることなくその全てが傷害事件であった。

 平成16年12月31日までの傷害事件の時効は7年。 平成17年1月1日からの時効は10年へと法整備されていたこともあったが、鬼畜の美食家達にとってそんなことはどうでも良いことであった。

 現に鬼畜の美食家の一人は、既に獲物(おんな)を遠くから覗き見てはその視線を太もも、尻、胸へと忙しく移動させ、同じくして他の者も同じようなことをしていた。

「血の滴る尻の刺身が食いたい…」
 鬼畜の美食家の一人は心の中でそう思いつつ、コンビに入る獲物(おんな)を見てはニヤニヤし喉をゴクリと鳴らした。

  だが、それはあくまでも妄想であって自分が鬼畜の美食家の一員であることを本人は知るよしもなかった。

  用心深いシェフはディナーを終えると決まって全員を個々に風呂に入れ、そして個々に催眠術をかけていた。

 そして犯人達は自分達が鬼畜の美食家の一員であることは普段は忘れシェフによってコントロールされていた。

 そんな中で再びシェフから鬼畜の美食家達へと、ある手段を用いて集合がかけられた。

 シェフは自らの携帯電話を取り出すと、マイクに向かって事前録音されたバーコードのような周波数音を聞かせた。

 その周波数音を聞かされた鬼畜の美食家達は操られるようにとあるはせ諸へと自らが移動し、そしてその場に到着すると自発的に自らがシェフに呼ばれたことを認識した。

 一方、同じやり方で自分に掛かってきた携帯や卓上電話の耳元に流れる周波数を受け取った獲物(おんな)達は、直ぐに催眠術に陥り、相手先の電話番号をすぐさまその場で消去したものの、相手は常に自分手は無縁の携帯電話を使用していた。

 そしてその頃、自らの仕事の途中でシェフは高層ビルの窓の下に見える街並みの中に、自らが催眠術を掛けて回った5歳~6歳の女の子達のことを想い出していた。

 シェフは密かに将来成熟したであろう美貌を持つ女児を思い浮かべつつ、時間を見つけては個々に催眠術を掛け住所や連絡先などの情報を収集しファイル化して保管していた。

 15年後を20年後を見据えたシェフは、長期的犯行として獲物(おんな)達が女児の頃より既に始まっていた。

 そして獲物(おんな)を食したいと言う異人と接触しつつ、その異人にさえも催眠術を掛け、万一にも美食家(いじん)達に催眠療法が行われれば瞬時にして全ての記憶を奪い去ると言う恐ろしい自爆的催眠術を強いていた。

 こうしてシェフは腕を振るうべく数万人の中から第三の獲物(おんな)狩を始めようとしていたが、世間は勿論のこと警関係者の誰一人として気付くことは無かった、

 そして一度(ひとたび)、シェフが電話を用いて、或いは直接耳元で特殊な周波数を用いれば、途端に被害者となる獲物達は呼び出された場所へ自らが足を運びその餌食となっていった。

 食べてしまいたい程にいい女と言う言葉があるが、現実としてシェフは食べてしまいたい欲求を素直に獲物にその気持ちを向けつつも、同じ想いを抱く美食家達を招集しそして解散を繰り返した。

 そして互いが互いの素性には興味を持たぬよう事前に催眠術を用いて万一に備えてもいた。 そんな中、再び女性が犠牲となった。


「いやあ! 実にいい獲物(おんな)だ… 太ももの色艶、尻の張り具合といい胸も相当な物!」
 赤仮面をつけた人物は目の前の寝台に斜めうつ伏せになっているショートパンツ姿の獲物を見て思わず声を張り上げ弾ませた。

 そして一瞬、青仮面と黄色仮面は赤仮面を睨み付け同時に白仮面のシェフもまた、赤仮面を注意するよう睨み付けた。

「ここでは多言無用に願いたい… 美しい食材に見とれるのは結構だが獲物に礼を忘れてはいけない…」
 赤仮面はその瞬間、立ち上がって周囲に無言のまま頭を下げ再び椅子に座ると顔を俯かせた。

「それから毎度のことで恐縮たが、食材への性行為は一切禁止です。 食材は粗末にせぬよう。 我々の会はキャッチ&リリースがモットーです…」
 白衣を纏った白仮面こと、シェフは寝台の向こう側の椅子に腰掛ける三仮面を見回して声を強めた。

「では今回の獲物を捌くため不要な衣類の剥ぎ取りを行います。 香りを楽しみたい方はメモに一品のみ記入して頂きたい。 尚、重なった場合は抽選とさせて頂きます!」
 シェフは三仮面にペンとメモ用紙を渡すと、三仮面達は夫々に欲しいモノを書き込んだ。

 三仮面達はまるで話し合ったかのように、ブラジャー、パンティー、ニーソックスと用紙に書き込みショフに提出すると、シェフは無言のまま斜めうつ伏せの獲物から衣類を剥ぎ取って次々に手渡した。

「スゥーハアァ~ スゥーハアァ~」
 三仮面達は鼻の穴を大きく広げ、個々に無言で渡されたモノに顔を埋め鼻息を立てた。

 獲物(おんな)は全裸状態のまま再び斜めうつ伏せにされると、シェフ自らがその弾力とスベスベした肌の感触をゴム手袋越しに堪能し時折確かめるように指先でムニュムニュと押し付けた。

「さて、そろそろメニューにはいりますが、もうお決まりでしょうか?」
 再びシェフが人型図の書かれたメモ用紙を配ると、三仮面達は個々に自分の希望する部位と調理法を要望として書き込んだ。

 そして30秒後。

「さてさて弱りましたね… 大陰唇(アワビ)が三人分… 乳房が二つと内モモが両方に尻が二つ… これでは獲物の処置が困難… どなたかA型の肩はおりませんか? 輸血が必要になります」
 シェフの言葉に三仮面達は仮面越しに顔を見合わせ、赤仮面と黄色仮面の二人が手を上げた。

「結構です。 お食事後にお二人に御協力を願います」
 シェフは言葉を穏やかに仮面越しに二人の目を見て頭を軽く下げると、獲物の全裸に印を付け数書類あるメスと鋭利なハサミを必要順に並べた。

「この獲物の乳房… Dカップと少し大きいですからCカップほどにさせて頂きますが御容赦下さい…」
 全裸の獲物を見つめる三仮面達は喉をゴクリと鳴らして大きく頷いた。

「あと、大陰唇(アワビ)は左右二つを切り取ってから三等分しますが刺身は如何ですか? そのままの味を楽しめると存じます。 まあ、煮て良し焼いて良しのアワビですが、幸い汚物(クリーム)も付いてますから…」
 全裸の獲物(おんな)を仰向けにし両膝立てて広げたシェフは、大陰唇を左右に開いて中に見える白い摩り下ろしたような山芋風の汚れを三仮面に見せた。

 三仮面達は両手を机に付いて喉をゴクリと鳴らし前屈みに覗き込むと、三人同時に大きく頷いて口元に笑みを浮かべた。

 シェフは獲物の大陰唇を閉じたり開いたり「ニッチャニッチャ!」と、音を三仮面達に聞かせると、赤仮面は一瞬拍手をしそうになり気まずそうにその手を引っ込めた。

 そして数分後、シェフはスプーンで汚れを擦り取ると器に移し替え手に持ったメスが獲物の大陰唇を左側からゆっくりと切り取った。 そして空かさず右側の大陰唇を切り取ると、溢れてきた血液を止めるべく止血剤を用いた。

 獲物は自分の身に起きている事実を知ることなく声一つ立てずに眠っていて、続けざまに切り取られた両足の内モモと両方の尻肉にさえ痛みを感じていなかった。

 シェフは直ぐに止血の処置をしつつ、獲物の肉を三仮面達の見ている前で調理しながら獲物の脈を診て腕時計に視線を向けた。

 そして三仮面達は目の前の白い皿に置かれた三等分された大陰唇(アワビ)と、その上から掛けられた白い汚物にナイフとフォークを握り締めた。

 シェフは密室に響く「クチャクチャ!」と、言う耳障りな音を聞きながら、下半身の手当てをして獲物から白くてプリプリした乳房を二つ切り落とし手当てを施した。

 その手さばきたるや三仮面達は大陰唇(アワビ)の刺身を飲み込みつつ、ただただ唖然と見詰めていた。

 そして獲物の身体は見る見る間に全身を白い包帯で包まれつつも、同時にまな板の上でスライスされる乳房に更に三仮面達は目を見張り、炭火の上に置かれた渡し網の上で焼かれる二つの内モモの手さばきに固まった。

「私のことは着にせずに召し上がってください」
 シェフは網焼きされた二つの内モモを三等分すると、白い別の皿にパセリと一緒に盛り合わせた。

「いや、いつもながら見事な手さばきに… あ、いや、これは失礼!」
 つい言葉に出した青仮面は身を後ろに引いて頭を軽く下げつつ、スライスされた乳房の肉を氷水に浸したシェフの手さばきに視線を移した。

 そんな中で、シェフは淡々と仕事をこなし氷水に浸し血抜きをした乳房のスライスをフライパンの上で蒸し焼きにし始めた。

 ふたをしたフライパンの中から「ジュゥージュゥー」と、肉の脂の水の跳ねる音が密室に響いていた。

「申し訳ありませんがさきほどお願いしていた献血ですが、これからお願いします…」
 シェフの言葉に席を離れた二人は、まるで病院での採決のように血液を専用容器に必要最低限度摂取された。

「これだけあれば獲物の命に別状はないでしょう… 感謝します」
 シェフは寝台に仰向けの獲物(おんな)をそのまま手で押して隣室へと運ぶと、輸血を始め血圧と脈拍の測定に入った。

 そして数分後「そろそろいい頃合だ」と、独り言をいいつつフライパンのふたをあけると火を止め、別の白い更にスライスされ焼けた乳房の肉を配置し、最後に煮汁を上から回すようにかけた。

「今夜の料理はこれまでです。 残り時間三十分、ごゆっくり御堪能下さい」
 シェフは冷えたワインを三仮面に注いで回ると、最後に自らも寝台のあった壁際の椅子に座り足組してワインを口中に転がした。

 この夜の晩餐会は三十分後に終わりを迎えたが、食材となった獲物(おんな)は輸血の他に数種類の点滴を受け続け、その最中に一切の証拠を全員で消し去り同時に一人ずつシャワーで全身を洗った。

 そして最後の最後。 三仮面達は一人ずつ今夜のことを忘れるべくシェフの手によって催眠術をかけられ、万一にも情報が別の催眠術によって解き明かされそうになった場合の起爆剤を催眠術の中に仕掛けた。

 万一、別の催眠術によって解明されそうになった場合、三仮面達は自らの全ての記憶を失う結果だったが、シェフ意外にその真実を知る者は居なかった。

 

 


【二話】

 

 

 世間は再びやってきた恐怖に恐れおののき新聞各社はこぞって「鬼畜の美食家」到来を、社会面トップで取り上げテレビを含むマスコミは勿論のこと司法を含む政界にまでその恐怖は及んだ。

 そして次々に起こる難事件に再び捜査本部が設置され科捜研、法医学も新メンバーを迎えつつ捜査協力に激闘を開始した。

 一人、また一人と被害者が続出し、多いときは複数の女性達が身体の数箇所を奪われていったが、事件現場には被害者以外の遺留品は髪の毛一本残さない巧妙な手口は過去の事件と一致していた。

 だが、そんな中で再び行われた被害者の内の一人の女性が催眠療法に基づく被験者として奇妙なことを話した。


「私が全身麻酔で動けず話すことも出来なかった時、誰かが私の顔を覗き込んだ瞬間、微かに香水か化粧を感じたんです… 覗きこんだ人なのか或いは何処からか漂ったのか解かりませんが、確かにその場に女性が居たような……」

 被験者は声を細め震えさせるとそのまま再び眠りに入った。

 催眠療法実施の医師は直ぐにそのことをガラス窓の向こう側にいる警察関係者に話した。

 警察、科捜研、法医学者たちは唖然とした。

 女性の身体から肉を取りそれを喰らう輩の中に女性らしき人物が居たと言う証言に夫々に耳を疑った。

 すると突然、一人の刑事が大笑いした。

「あっははははは♪ そんな馬鹿な♪ 最近じゃ男でも香水をつけてるヤツも多い♪ 女とは限らんでしょう♪」
 刑事は左手を壁に寄りかかって唖然とする周囲の顔を見回した。

「そ! そうですよ♪ 被害者の傍に同性が… あ、いや! 女装マニアかオカマかも知れないし、それに香水の類なんて誰でも…」
 別の刑事が壁際の刑事に話しを合わせた途端、周囲が賛同しないことに黙りこんだ。

「考えられないことではないわね… 彼女の肉を調理したか或いは食べた側かはわからないけど…」
 科捜研の女性担当者は法医学者の女性医師に視線をゆっくりと移動させた。

「香水か… 化粧か~……」
 法医学の女性医師は両腕を組んで直ぐに右手をアゴに腕杖をついて歩き回った。

「もしも犯人の中に女性がいるとしたら… 被害者に容易に接近出来るかも知れないわ……」
 科捜研の女性は歩き回る法医学の女性医師に声を向けた。

「せめてそれが香水か化粧かが特定できれば…… 一歩前進かぁ……」
 立ち止まって科捜研の女性に身体を向ける法医学の女性医師。

「ですが、今時は男だか女だか訳の解からん中性ってもいるし、それこそ性転換者とかゲイかも知れない。 無意味ですよその情報は…」
 窓ガラスに背中をもたれさせた刑事は会話の全てを否定した。

「そうですよ。 女が女の肉を喰うとか調理するなんて考えたくないっす!」
 若手の刑事。

「被験者(かのじょ)が目を覚ましたらもう少し聞いてみる必要があるわ!」
 法医学者の女性医師は窓ガラスの向こうのベッドに居る被験者を見つめた。

 数日後、警察関係者が再び病院を訪れたものの、被害者は自分に起こった不幸を知り話しを聞ける状態ではなかった。

 両乳房と両尻、そして両側の内モモと性器を失った被害者の泣き叫ぶ声をドア越しに刑事達は無言で立ち去るしかなかった。

 そしてそうしている間に再び被害者が病院へ運び込まれた。

「既に600人!! 過去を含めると600人の被害者が出ていると言うのに何をしとるんだ貴様らは!!」
 警察庁幹部は怒鳴り散らす長官を前に一言の言葉もなくただ黙って俯いていた。

「何が何でも犯人を捕まえろ!!」
 警察庁長官は頭から湯気を立ち上らせ机に拳を叩きつけてその場を立ち去った。

 鬼畜の美食家達の犯行は淡々と行われる一方、警察は総力をあげて捜査に当たったが手掛かりは香水か化粧臭だけと言うだけだった。

 そして再び発生した事件の被害者がこう証言した。

 「私は全裸で男達に全身を隅々まで嫌らしい手で触られた… ゴツゴツした手で身動きの出来ない私はその手に肌を犯され仰向けに、うつ伏せに、そして斜めうつ伏せにされた…」
 麻酔の効きにくい体質だった女性は肉を切り取られる瞬間、その痛みに泣き叫んだと言い、直ぐにその部分に注射をされ気を失ったと言う。

 被害者は両乳房と両側の裏モモを切り取られていた。

「やはり犯人は男と言うことか…」
 刑事達は警察署の中の喫煙コーナーで見えない犯人像を追いそして乳房を切り落とされる被害者の想像から感を反らした。

 だが、科捜研と法医学者は香水のような匂いと言う方向から離れずに居た。

「仮に立場はどうであれその場に女が居たとしたら、その女の役割は何?」
 二人は携帯電話で無言の数分を経て通話を切ると、あらゆる可能性を互いに想像しメモに書き留めては消した。

「絶対に何か共通点があるはず… 催眠療法でもわからない共通点が……」
 居場所を別々に二人は机を前に一点を見つめた瞬間、警察から一報が二人に入った。


「直ぐ現場へ来て下さい!!」


 二人は突然の電話に顔色を変え迎えに来た刑事達の車に飛び乗り再び起きた悪夢へと向かった。

「なにこれえぇー!」
 それぞれに刑事達と現場へ向かった二人が見たモノは、現場の床一面に散乱した女物と思われる髪の毛だった。

 その量たるや見た者を圧倒させるほどであって、鑑識も何処から手を着けていいか解からぬほどだった。

「もしかしたらこの中に鬼畜の美食家(はんにん)達の遺留物が……」
 何万、何十万本もあろうかと言う女物の髪の毛と、その意図が解からぬまま遺留物である髪の毛の全てが警察に押収され科捜研に持ち込まれた。

 そしてその頃、スクープとばかりに大声を発するリポーターをテレビの中に見ていた人物が口元に笑みを浮かべて居た。

 何故、遺留品を全く残さなかった鬼畜の美食家(はんにん)達が、突然大量の慰留品を残したのか、マスコミは一斉にその謎に有識者と名乗るコメンテーターを相手につまらない雑談を始めていた。

 変質者なのか、はたまた人食い人種なのかと、自称、有識者達は勝手な推論を展開しそれを煽るように無知なタレント達が突っ込みを入れていれ、司会者もまた画面一杯に顔をアップさせた。

 そして同時に何万、何十万本もあろうかと言う髪の毛を一本、また一本と電子顕微鏡で覗く科捜研のスタッフたちに混じり法医学者達も複数居た。

 果たして鬼畜の美食家(はんにん)達の残した遺留品の中に犯人の手掛かりはあるのだろうか。

 

 

【三話】

 

 

 
 薄汚れた何処かの地下室。 裸電球の下にある寝台に乗っている化粧の濃い茶髪熟した獲物(おんな)が一人横たわっていた。

 身体のラインが出る真っ赤なミニワンピースから突き出した脚を黒い網タイツが包み、寝台を軽く動かしただけで全身がプルプルとプリンのように揺れた。

 そんな獲物(おんな)を前に、白衣に身を包んだシェフがポツリと呟いた。

「こんな娘になっていたとはなぁ… 純真無垢で天使のようだったのに……」
 シェフは獲物の幼稚園時代を思い出し薄汚れた壁に遠くを見つめた。

 そして無言のまま獲物の上半身を脱がせブラジャーを外すと、再び「豊胸か…」と、寂しそうに乳房を鷲掴みし獲物の下半身を覆う網タイツをビリビリと破り捨て赤いティーバックを剥ぎ取った。

「くそ! こんなアバズレになってたとは……」
 大きく開いた両足の真ん中、大陰唇を左右に開いたシェフはその小陰唇の黒ずんだ肉の色に拳を握り絞めた。

「今夜のディナーは中止だな… こんな獲物(おんな)じゃ客に申し訳ない」
 シェフは獲物の両手を頭の上でベッドに縄で縛りつけると、準備していたモノを全て片付けてから証拠を隠滅しそのまま119番に連絡を入れ立ち去った。

 シェフからの電話に駆けつけた救急隊員と警察関係者は、全く無傷の被害者に毛布を掛けるとそのまま救急車で搬送した。

「まぁ、こんなこともあるさ!」
 シェフは投げやり的に言葉を吐き捨てると、電車を降りて駅から立ち去った。

 その頃、警察では初めて無傷で帰された被害者が入院している部屋の前で、医師が部屋から出て来るのをジリジリとまっていた。

 何故に無傷なのか、他の被害者と何がどう違うのか刑事達は解からぬまま時間が経過するのを待ち、そして出て来た医師に詰め寄った。 


「特別、変わったことはありませんね。 ハッキリ言って不謹慎かも知れませんが、美形そのもので不思議としか言いようがありません…」
 その場を立ち去った医師の後ろ姿を見つめた刑事達は唖然として見送った。

 そして出て来た看護師たちから時間制限を受け入室を許可された刑事達は、一斉に部屋の中へと足を踏み入れた。

 だが質疑応答の中で犯人に繋がる物証も証言も聞きだせぬまま時間が経過した。 そして彼女自身、何故自分だけが無傷だったのかその理由に苦慮していた。

 人工的に乳房を豊胸しそして擦れ過ぎて黒ずんだ小陰唇の所為だなどとは誰も気付くはずはなかった。

 だが客を待たせていたシェフは次こそはと密かにファイルから獲物を探し始めていたが、途方も無い髪の毛の検査に時間だけを浪費する科捜研と法医学者達だけは目の下に隈を作って作業に追われていた。

 そしてその間、警察は今回の被害者が何故に無傷で帰されたのかから、糸口を見出そうと見当違いの捜査に着手していたものの、シェフは「大量の髪の毛の謎」と、題されたテレビの映像を横目に鼻で笑っていた。

 警察は過去に何一つとして残さなかった鬼畜の美食家達の唯一の遺留品と、無傷で生還した被害者の辺りを懸命に捜査していたが、一向にはかどらない髪の毛の存在に苛立ちをも覚えていた。

 単に警察をからかっただけのシェフは「次は何を残してやろうか」と、ジョーク交じりに知恵を絞りつつ獲物ファイルを見つめていた。

 そして獲物を決めたシェフは「ニヤリ♪」と、大きく笑むと街中の公衆電話から獲物の携帯に電話し、なにやら呪文のような言葉を獲物に聞かせ電話を切った。

 
 数日後。


「待っていたよ… さぁ、楽しい遊びをしようね♪」
 草木に覆われた古民家へ、夢遊病者のように空ろな目をしたOL風の美形女性が入ってくると、閉じた玄関の中でシェフは彼女の耳元で囁いた。

 女性は無言でゆっくりと俯くと白衣を纏ったシェフの後をゆっくりと付いて行き、奥の部屋の寝台に自ら横に天井に顔を向けた。

「さあ、一緒にお医者さんごっこをしよね…」
 女性は無言のまま瞼を閉じると全身の力を抜いて、シェフに身を任せた。

 シェフは彼女の持っていたスーツをハンガーに掛けるとそれを壁際に、白いブラウスのボタンを一つ、また一つ外し白いスリップとブラジャーの肩紐をゆっくりと外した。

 乳房はプルルン~と、揺れシェフの目を楽しませつつも、シェフは持っていたハサミで彼女下半身からスカートを切り裂いて取り除いた。

 白いスリップを捲くり上げ、黒いパンティーストッキングに包まれた見事なプロポーションにシェフは黙って数分間見入ると、それを「スルスルッ」と、脱がして寝台に置くとそのまま白いパンティーを剥ぎ取った。

 更にハサミを使ってスリップを真っ二つに下側から切り裂くと同時にブラジャーをも切断し、彼女を全裸にさせ再び仰向けし甘酸っぱい彼女の体臭を鼻で大きく吸い込んだ。

「あんなに小さかったのに…」
 シェフは遠い過去を振り返りつつ無言で全裸の彼女の陰毛に鼻を密着させ再び鼻で大きく匂いを吸い込んだ。

「なんていい匂いなんだ…」
 無言で数回匂いを嗅ぎ取ったシェフは彼女の両足を大きく開かせて立ち膝させると、縦に割れた陰部の匂いを楽しみつつ、両手の親指で左右に開いた。

「なんて綺麗なんだ…」
 シェフはそのピンク色した肉に目を奪われ時折、刺激臭に咽ながら大陰唇と小陰唇の間をスプーンでなぞり女の汚れを取ると白い大皿にそのスプーンをおいた。

 そして今度は「さあ、お注射をするけどチョットチクッとするからね♪」と、彼女の耳元に囁くと、女性は小さく頷き、シェフは時計を見つつ彼女の腕に針を刺した。

「痛いかい…」
 耳元で囁くシェフに彼女は首を左右にゆっくりと振ると、シェフは「ニヤリ」と、笑みして神業的に慣れた手つきで局部麻酔して彼女の身体から右乳房を根元から切り取って素早く止血して手当てを終えた。

 それから三十分後、寝台の前に置かれた白いテーブルクロスの上、テーブルの大皿にはスライスされた乳房のソテーが斜めに盛られ、レモンが添えられていた。

 そして切り取られた二つの大陰唇(あわび)は、斜め切りされ一口大の刺身に盛り付けられ、スプーンに入っていた女の汚れとも言うべきシロップをトロリと流し垂らしパセリが添えられ皿の上には未使用の割り箸が置かれた。

 更に左足の内モモから100グラムほどの肉をメスで切り取り、それを串焼きに皿の横にレモンが添えられた。 笑みのは痛がる様子も見せないままに今度は同じ左の尻肉を200グラムほど切り取られ、血抜きをされた後、コンソメスープの具材として鍋に放り込まれた。

 シェフは短時間に手馴れた手つきで肉の切り取りと調理そして応急手当を完璧にこなし、白いテーブルクロスの上には気品さえうかがえる料理が並んだ。

 ただ、いつもと違っていた今回は一人の客も居ないことだった。

 シェフは手厚い看護を獲物にしつつ、ワインとグラスと料理の置かれたテーブルを見て「ニッコリ」と、微笑みを浮かべると再び獲物の脈をとってその場を離れ、街の公衆電話から119番に通報して立ち去った。

 そして駆けつけた消防隊員と警察関係者は驚愕の状態に身を凍らせ瞬きを忘れた。

 応急手当を完璧にされた美形被害者とその前側のテーブルに置かれた料理とワインを見た捜査関係者は嘔吐を催しその場を立ち去る者や、固まったまま動けぬ者とに別れたが消防隊員たちはその光景から敢えて目を反らし被害者を運び出した。

 シェフは何処の誰なのかそして一体何者なのか、更に男なのか女なのか何も解からないまま今回は遺留品は一つも検出されなかった。

 

 
 
【四話】
 

 


 鬼畜の美食家はあたかも捜査員たちに料理を振舞うかのようにしたまま行方を晦ませ、そのまま数ヶ月が経過した。

 捜査は一向に進展せぬまま、科捜研にある捨てられていた大量の髪の毛もまた、捜査上は無関係の物と判明した。

 まるで何処かの床屋の床から拾い集めてきたかのような大量の髪の毛は、単なる鬼畜の美食家の悪戯だったのだろうか。

 そして更に何事もないまま数週間が経過した頃、捜査本部に三人の男達が自首し「自分達が鬼畜の美食家(はんにん)である」と、言葉を揃え世間を大騒ぎさせた。

 各種のメディアは「スクープ」と、ばかりに書きたて、テレビでは連日のように鬼畜の美食家逮捕に沸き関係者は踊った。

 ただ、不思議なことに鬼畜の美食家として自首してきた三人の男達には何一つとして共通点も接点もなく、三人は別々の取調室でありながら全く同一の自供しかせず、捜査員達を混乱させた。

 ただ、一つ共通点があるとすれば三人の犯人達は全員が空ろな目をしていたことと、捜査員達の質問にも淡々と答え個別の取り調べでありながらも肝心なところへ来ると黙秘を貫いた。

 そして捜査員達の半数以上が自首自体を鬼畜の美食家の作為と捉え、捜査をなんらかの理由でかく乱していると判断していたが、自分達が鬼畜の美食家(はんにん)であると口を揃える男達を釈放するわけにも行かず警察は困惑した。

 誰が首謀者で誰が調理したのかと言う捜査の要になると三人の男達は黙秘し貝のように口を閉じたと言うより、知らない様子だったと言った方が正しかった。

 だが捜査員達から見れば「そんなはずはない!」と、言う意見が大勢を占め、何とか口を割らせようとしたものの、犯人達は追い詰めれば追い詰めるほどに自らの記憶を失って行った。

 これは催眠術によるモノだという法医学者の意見に従い捜査員達は、本人達の同意無く催眠療法に踏み切った。

 だが、催眠療法をした直後、犯人達は我に返ったように自らの無実を訴え始めた。

 彼らは自分達が何故、警察(ここ)に居るのかさえ解からないと言う態度と言動で捜査員に迫り捜査員達もまた困惑の色を隠せなかった。

 彼らに掛かっていた時限爆弾は、警察が催眠療法を用いることを事前に察知した真犯人のジョークだったことに落胆した。

 そして犯人の誰なのか解からぬまま数ヶ月が経過しその途中において、自首した三人は証拠不十分で釈放を余儀なくされた。

 一度は犯人逮捕の報道に涙を流して喜んだ被害者は既に1000人を越えていたが、嫌疑不十分で釈放されたことを聞いた被害者達は怒りを露に警察に雪崩こんだ。
 
 そしてあれから20年を経過し既に時効は成立していたが、真犯人は名乗り出ることなくそのままになっていて警察は一つとして手掛かりを得ることが出来ぬまま再び事件は御蔵入りした。

 延べ20万人を動因した警察の完全なる敗北で幕を閉じた鬼畜の美食家事件は科学そして医学を持ってしても太刀打ちできるものではなかった。

 だが、その事件を知る全国民の中、或いは世界中の何処かに真実を知る犯人が必ず存在することだけは警察も確信しているところであった。

 そして1000人を越える被害者達は自らの身体を復元できぬまま地獄のような生活を強いられ、中には数人が人生を悲観し自らの命を絶った。

 人間が人間の肉を貪り喰うと言う恐ろしい事件はその後も一切起こっていない。

 ただ、街外れの小さな診療所では今日も病気で訪れた女児達の耳元で何か呪文のような言葉を囁いている一人の医師がいたことを誰も知ることはなかった。

 果たしてその医師は男なのか女なのかは診察に行った者しか知る由はなかった。

 

【完結】

 


 
 


 

 


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