「幼いあなた」が隠れてる
本来、良い絵本には「子ども向き」とか、「おとな向き」とか、
レッテルは必要ないのだと思う。
本当に良い絵本には、幅広い年代に語りかける力があるから。
ただし、ガブリエル・バンサンの絵本は、私の中では例外。
本当に良い絵本だけれど、「おとな向き」だと思う。
或る程度の人生経験を重ねた人にこそ、訴える絵本だと思う。
白黒デッサンだけで、これだけの表現力。
どの頁も、完成した一枚の絵。完璧だ。
余白が大きく、極端に描写が制限されているから、初見ではよくわからないことも多い。
読者は時に、何度も、頁を行ったり来たりさせられることになる。
ちょうど、アルバムをめくる時のように。
そこで、もはや幼くはない読者は、かつての「幼い私」や、「幼い友」、
時には「今は亡き、大切な人」の姿を見つけ出す。
その驚きはまるで、知らぬ間に誰かが撮っていてくれた写真を、不意に見せられたかのよう。懐かしい喜びだ。
「アンジュール」や「くまのアーネストおじさん」シリーズ他、数々の秀作の中から、とりあえずこの一作を選んだのは、これが作者最晩年の作品だからにすぎません。
どうぞ、どれからでも、どこからでも、ページを開いてみてください。
どこかに「幼いあなた」の姿が、隠れているはずですから。