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絵本の楽屋   by 夏野いばら

「彼の手は語りつぐ」  パトリシア・ポラッコ:作  千葉茂樹:訳                       あすなろ書房

「その人」が見えてくる

ジョージ・フロイト。
白人警官に喉元を踏みつけられて路上で死んでいくその人の姿を、
世界中の人々が見た。2020年5月のことだ。
あの映像がなければ、コロナ・パンデミックのさなかに
BLM運動がうねりを上げることはなかっただろう。
彼の名が歴史に刻み込まれ、語り継がれることもなかったはずだ。
映像の力はすごい。

そして、絵本の力だって、すごい。
南北戦争時代に生きたピンクス・エイリーという人の姿が、くっきりと立ち上がって来る。映像のジョージ・フロイトよりももっと立体的に、繊細で複雑な、ピンクその人が見えてくる。これは優れたドキュメントである。

ー奴隷に生まれるとはどういうことか。
ーなぜ、字が読めるのか。
ーなぜ、戦争に行ったのか。
読み終えて、「私は、何も知らなかった」と思い知らされる。

失礼を百も承知で言わせて頂きますと…この絵本。
タイトルと表紙で、ずいぶん損しちゃってる、と思います。

しかし、中をめくれば、一頁目で、脱帽。
「語り伝えられてきた全てを、語り伝えたい」という作者の強い思いと、
十分な表現力で、ぐいぐい引っ張られます。

いろんな場面で「え?なぜ?どういうこと…?」と、頭の中に疑問符が浮かんできます。
読後は、感動の余韻の中、その答えを求めて、また物語の中に立ち帰っていくことになります。これはドキュメンタリーでありながら「繰り返し読み」に耐える優れた物語です。

私はアメリカ史に詳しくないので、奥付きの「訳者あとがき」を先に読んでおけばよかった。(でも、その左頁にある物語の結末は、先に読んではダメですよ。気ぃつけなされ~)

そうなんです…
構成でも、損しちゃってるところがあるのですが…
逆にすごい!絵本です。


























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