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絵本の楽屋   by 夏野いばら

「ねむりひめ」                       フェリクス・ホフマン:絵 せた ていじ:訳 福音館書店

父の哀しみ ー喜びの後先にあるものー

「眠り姫」「いばらひめ」は、誰もが知るハッピーエンドの物語だ。しかし、この「ねむりひめ」を貫いているのは「喜び」ではなく、「父の哀しみ」であるように思う。

原画展*の解説によると、ホフマンはこの絵本を、次女への誕生日プレゼントとして作った。だから、いくつもの頁に、次女が大好きだったという猫とケーキも、たっぷりと描き込まれている。

娘の誕生日に、娘の好きな物語を、絵本にして贈る―。父親として、これ以上の幸せがあるだろうか? だからこそ、その幸せの中で、ホフマンは安心して、物語に哀しみの色を塗りこめることができたのかもしれない。そして、この哀しみの色が、作品を美しく重層的な世界に仕上げている。

なぜか、この悲しげな王の姿を見ると、新約聖書の中で、エルサレムの都を見ながら泣かれたイエスの姿*が思い浮かぶ。

親として、愛するが故の哀しみ、というものがある。子どもの誕生・成長を見る喜びの、その前からあり、その後にも残るもの、とでも言えばいいか。絶対に、子どもには理解されることのない悲しみ。あるいは愛は、必然的に、そういうものを内包するのかもしれない。

「そういうもの」としか言えないのが、もどかしい。が、その手ざわりを確かめたくて、今夜また、この美しい絵本を開いてしまうのだ。

*「こわくて、たのしい スイスの絵本展」 神戸ファッション美術館 2021年

*マタイによる福音書23章37-39節 「エルサレム、エルサレム、預言者たちを殺し、自分に遣わされた人々を石で打ち殺す者よ。めん鳥が雛を羽の下に集めるように、わたしはお前の子らを何度集めようとしたことか。だが、お前たちは応じようとしなかった。見よ、お前たちの家は見捨てられて荒れ果てる。言っておくが、お前たちは”主の名によって来られる方に、祝福があるように”と言うときまで、今から後、けっして私を見ることがない。」

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