アマノシチロー「なるほどさん」雑記帖

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勝田康三対談:ゲスト泊 懋「東映アニメを語る」

2005-10-09 16:00:37 | 人物記

勝田康三「男の見る男の空間」より、ゲスト:泊 懋(とまり つとむ)さん
(現在東映アニメーション株式会社 代表取締役会長)
                    (1994年の対談当時社長)
<「アクション!感動!友情!」アニメを使って熱い想いを描く>

「暴れん坊将軍」は26回でおわる予定が、17年

勝田 泊さんのお名前は懋(つとむ)さんとお読みになるそう
ですね。
泊 ええ、漢学者のはしくれだった祖父がつけてくれたんですよ。
何事も「盛ん」になる、という意味なんですが、出典は孟子なんで
すね。
勝田 その名前の通り極めて盛んな泊さんは現在、彼の東映動画の
アニメーション会社の社長として責任ある立場におられるわけです
が、とりあえずはプロフィール的な側面から、泊さんはどういう経
歴の持ち主なのかから参りますが。
泊 はい、どうぞ。
勝田 誰もがよく知っている長寿番組、テレビ朝日の「特捜最前線」
の生みの親であること、また「暴れん坊将軍」という奇想天外の時
代劇を、確か今は亡きシナリオライター小川英さんとのコンビで誕
生させたりしてますね。だから、泊さんは大プロデューサーである
ということから始めなければ話にならないんです。「暴れん坊将軍」
は将軍が主人公の捕物帳。ああいう大胆不敵な発想はどのようにし
て出て来たんですか?
泊 あれは、局の偉い人から吉宗をやれと云われましてね。丁度、
三木武夫が総理になった頃で「吉宗は三木なんだよ。将軍になりた
くてなったんじゃない、青天の霹靂なんだから、その過程が面白い
からヤレ」という見解でね。最初は大河ドラマ"吉宗一代記"だった
んですよ。民放じゃ大河ドラマは成功したことなかったでしょ。だ
から企画書だけ作って放っておいたんですよ。GO!と云われたら大
変だから。それから数年後歴史に残る「五街道まっしぐら」(笑)
という番組を作っちゃったんですよ。最盛期だった裏番組のドリフ
のターゲットを狙って大失敗。これはもう本道に戻ろう、とロッカ
ーで埃をかぶっていた吉宗を引っ張りだしてきたんですよ。このま
まじゃ当らないから、小川英さんの所へ持っていって一話完結のご
存じ時代劇にしたんです。当時吉宗はご存じではなかったけど、今
や後世に残る最強のご存じものになったと思いますね。
勝田 時代劇というのは変身願望を満足させてくれるものでしょう。
「暴れん坊将軍」や「遠山金四郎」みたいな大胆な変身を考えつく
人は東映にしかいない。最後は"捕物をやってしまう将軍″なんて、
泊さんと小川英さんの絶妙のコンビだから誕生出来た。
泊 そうかもしれません。小川さんはテレビの申し子のような人で
ね、「あ・うん」の呼吸というか、お互い何を望んでいるかがよく
解っていたなぁ。随分仕事をしたけど。僕が動画にかわり、彼はこ
の四月にNHKの平家物語を書き上げて逝ってしまった。いやあ、そ
の小川さんの「暴れん坊将軍」の企画書をもっていったら、当時の
斉藤制作局長が「泊くん、将軍が毎回毎回城を抜け出して、人を斬
っていいのか」と。「いや、吉宗というのは、26年という長期政権
を持続した将軍です。長い治世のなかでたった26夜だけ、外に出て
いったんですよ」なんて云ってね。あの人もシャレッ気のある人だ
から「わかった、わかった、26回だけやったんだな」と云ってくれ
て。あれからもう17年になりますから、七百回も人を斬っちゃっ
た。こんなに続くとは思わなかった。
勝田 あの時の松平健さんは新人ですからね、そこに北島三郎とい
う演歌歌手というよりも、国際的な芸人を連れて来て、大衆にアピ
ールするというのは、やっぱりあなたって、並みのプロデューサー
じゃないと思ってました。

 健気にガマン、そしてアクション!「セーラームーン」は東映そ
のもの

勝田 その泊さんがテレビのドラマ部門からアニメーション会社の
最高責任者になっていくんですね。それまで扱ってきたキャラクタ
ーは「金四郎」にしても「暴れん坊将軍」にしても、スーパーマン
的な存在ですよね。つぎの、アニメーションにしましても、絶大な
る権力を持っている訳ですが、これもまた、キャラクター勝負です
よね。「あれ、困った」という時に、″パーツ"と飛んできたりし
てね。これからのアニメーショシの中で、泊さんがどういうふうな
展開をなさっていかれるのか、やはり奇想天外な「暴れん坊将軍」
を産み出したように、アニメで今までとは違った形の主人公像なん
か、考えておられるんでしょう。
泊 63歳の男がアニメの企画を考えても、気持ちが悪いでしょう。
(笑)この世界には優秀な人がたくさんいますから、現在はそこか
らいかに拾い上げるかということを考えています。ただ、東映には
東映のカラーがありますから。ゴルフでいえばスイングの軌道です
ね。だからここを外さないのが東映の本流の作品だと思いますよ。
時代劇、アクションからヤクザものに至る映画の伝統は、テレビの
時代劇、刑事もの、仮面ライターといったジャンルに脈脈と流れて
いる。勧善懲悪、忍耐、勝利。これが東映作品のスイングの軌道な
んですよ。動画にもこの伝統は生きていますね。色々なタイプの作
品を作るけど、「ドラゴンボール」や「セーラームーン」、この手
の奴は他社の追随を許さないと思いますね。地球を狙う悪の帝国の
女王に美少女戦士たちが次々とやられていく、セーラームーンは必
死に立ち上がって"ムーンパワー"を送る。そのパワーを出すと彼女
は死んでしまうかもしれない、でも仲間を救けるために、自分の命
と引き替えに敵に立ち向かっていくこの自己犠牲。そして最後に五
人が集まって壮烈なアクションで勝つ。まさしく東映の伝統的なお
家芸なんですよ。このセーラームーンの映画で今年の正月はゴジラ
を向うに回して、さすがは健気に戦って、ゴジラがよろけましたか
らね、嬉しかったですね。
勝田 なにか制作の途中で印象に残っていることとかありますか?
色々ありそうですね。
泊 アニメーションのシナリオって、実写のテレビのシナリオとち
ょっと違うのね。今の正月映画の「セーラームーン」の脚本を初め
て読んだときは "ようやくセーラームーンを映画にしたのに、こ
の程度のシナリオだったのか"と思って絶望的な気持ちになりまし
たね。しかも、このシナリオでいかないともう間に合わないんだと
聞いていましたしね。気を取り直して一生懸命いいところを探して
ね、翌日監督に合ったんですよ。びっくりしましたね、監督は29歳
の金髪の青年ですよ。テレビの監督とは大違いですから。「脚本で
はこうなっているけど、こういう画面になります」シナリオと絵コ
ンテが随分違うんですね。中身のことは解らないから、監督の目ば
かりを見ていました。幾原君というんだけど、彼、自信満々で、
「セーラームーン」の強さ、魅力を語っているんですね。そうか、
こいつと心中するんだな、そう思いました。
勝田 アニメーションというのは撮影の仕事もかなり手間暇かかり
ますから、金髪の青年はいいとしましても、第二の金髪の青年を育
てていかないと、先程もおっしゃっていたように、東映の持ってい
るアクションとか忍耐とかが、連綿として繋がっていかないんじゃ
ないですか。
泊 その通りですね。東映動画はなかなかいい会社で、その金髪青
年のような人が、他にも何人かいるんですよ。チャンスを掴めばパ
ーツと脚光をあびそうな演出家、第二の宮崎駿になりそうな男がい
るんです。その人達をどうやって押し出していくか、ですね。でも
それだけではいけませんから、ご指摘のようにね、東映動画の伝統
や技術、文化を伝えていくために東映アニメーションスクールを作
ろうと思っているところです。日本中から本当にアニメの好きな人
達を集めて、育成していきたいと思っています。アニメーターの育
成、演出コース、コンピュータ・グラフィックスの技術者の養成と
いったところが柱になると思います。いま子供の数が減少している
から難しいんじゃないか、という声もありますが、21世紀のマルチ
メディアの時代には、いまより更にアニメの環境は良くなるし、そ
れに対応する人材は足りなくなって来るんですから、心配はないと
思いますね。CG科の準備がなかなか大変でしてね。教科書とか、
カリキュラムとか、講師陣とか、いろいろと手間取っています。C
Gによるアニメーション制作が企業として成り立たないと、私は将
来のアニメ産業は成り立たないと思っています。芸術的というか創
造的なところは人の才能が必要ですが、非創造的な部分はCGで処
理して省力化していかないと駄目ですね。いつ迄も製作費に苦しむ
ことになる。まあ、しかし、この次のセーラームーンSの劇場用映
画は、第二の金髪青年で準備中で、きっとご期待に添えると思いま
すよ。
勝田 「セーラームーンというのはテレビ朝日のテレビ番組から
出てきたもので、それの拡大版というもので劇場に公開されている
わけですよね。たくさんの人に育てられた彼らの可愛いキャラクタ
ーなんですね。

「世界のアニメは東映!」が現実になる日も近い

泊 原作の武内直子さんもセーラームーンのように可愛い人でね
(笑)僕は去年、岡田会長から動画の社長をやれ、といわれた時に、
大海にどんと押し出されたような気がしたんですね。だから社長就
任の<施政方針>を話した時にこんなことを云って社員に約束しま
した。「私が東映連合艦隊の枢要な位置にある"戦略空母動画号″
の艦長である。第一に安全な航海を心掛ける。さまざまな敵に遭遇
するが、これに勝っていこう。いい戦いをしよう」。安全な航海と
いうのはテレビ番組の安定した受注量を獲得することです。そして
戦いは面白作品を作って、いい視聴率をあげて局に貢献することで
すね。そしてそれを映画化して当てることなんです。今年は「セー
ラームーン」、「スラムダンク」、「ドラゴンボール」、「GS美
神」などで、東映邦画系の4プロがアニメになり大いに稼いでいま
す。第二に「動画号のマストには志のある旗を立てよう」と云って、
そこには「メディアはどんなに変わろうと、世界のアニメは東映動
画」と書きました。世界を目指すんですよ。小学生みたいでしょう。
勝田 日本で今の言葉に近い志をもって、進出して行ったのが「手
塚治虫」だったと思うんですよ。手塚プロは鉄腕アトムを先頭に、
世界に繰り出して行きましたでしょう。浦安にディズニーランドが
ありますけれど、ウォルトディズニー社に日本は、破れたとは言い
ませんけれど、やはり「手塚治虫」の目指した世界へ。彼亡きあと
は「泊 懋」ですよ。それぐらいの気持ちでプロデューサーをやっ
て項かないと。
泊 そんなにプレッシャーをかけないで下さいよ。テレビでは日本
の、東映のアニメは地球を駆け巡っているんですが、問題は映画で
すよね。これも夢物語ではないと思うんですね。僕等は戦後、日本
の自動車産業がアメリカに追いつき追い越すなんて、思いもしませ
んでしたね。電気産業でもそうだと思うんですね。何しろアメリカ
の影も形も見えないほど引き離されていたんですから。それに比べ
ればアニメーションは、アメリカの背中は見えているじゃありませ
んか。追い越せないまでも、すぐ後ろにつくぐらいにはいきたいと
思っています。
勝田 そうなるためにも、あの「暴れん坊将軍」のような、何か奇
想天外な発想はないですか?
泊 そうなんです。第三番目の約束が「大泉発進のドラマを創ろう」
なのです。″宮崎駿″ではないけれども、自前の作品を出していき
ませんと、プロダクションとして尊敬されないと思うんですよ。そ
の作品がコケちゃいけませんから、満を持していかなければ。かつ
て「白蛇伝」や「長靴をはいた猫」といった傑作、名作長編アニメ
を製作した東映動画ですから、何とか立ち上げていきたいですね。
自前の長編アニメでアメリカ本土上陸が動画号の目的地です。少し
軍国調(笑)ですが。

 意外なところにアニメのネタあり

勝田 私は去年ヒットしたディズニーの「美女と野獣」見ました。
観客は大人が多くて、あの野獣が出てきてかなり艶めかしいシーン
があったりしました。こういう少年少女向けのものではなくて、大
人の世界に入って行くというようなものはどうでしょう? いや、
たまたまね、さっきお話に出て来た、小川英さんの師匠である「隆
慶一郎」作品が少年ジャンプに登場してます。柴田練三郎賞の「一
夢庵風流記」が「花の慶次」として、更に「影武者徳川家康」など
という歴史もののストーリーが劇画として連載されていますね。い
ずれもこれらはみなウケているという。青年青女たちがワクワクし
ながら読んでいるわけですよ。だからアニメーションも既成で考え
ているものとは全く別な感じではいかがですか?
泊 いや、いいヒントを貰いましたよ。原作を探していく時に、つ
いアニメーションということで、狭い範囲でネタ探しをしているん
ですね。もっと自由に、隆さんの時代小説に注目するような発想が
あっていいですね。「シルバージャンプ」なんていいですよね。
勝田 「盛ん」という意味の名前を持った懋さんは、東映の内務官
僚として社長になったのではなくて、色々な発想をもったプロデュ
ーサーが会社の責任者になったのであり、東映動画はそういう会社
だと思いますよ。そういう意味では泊さんあなたが掲げるZ旗とい
うのは本音であろう思うし、あなたの下にいる若者達はワクワクし
ていると思うんです。だから、その志を実行していかないと。そう
いえば今日、ある若者にあったんですよ。あなたと対談するのだ、
と言ったら、泊さんの柔軟な考え方をよく聞いて欲しい、って言わ
れました。
泊 またまたプレッシャーをかけ通しましたね。(笑)
勝田 ますますご盛んの活躍をお祈りしております。きょうは有り
難うございました。

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