きょうされん常任理事会
障害者総合支援法(以下、総合支援法)の施行に伴って、2014年4月から障害程度区分認定調査(以下、障害程度区分)が、障害支援区分認定調査案(以下、障害支援区分案)に変更される。その厚労省案が7月1日に発表された。
公表された障害支援区分案の内容だけでは、障害程度区分で生じた多くの問題・欠陥が解決されるのかは不明である。むしろ、わたしたち「きょうされん」は、介護保険制度の要介護認定を原型とした障害程度区分の導入そのものに異議を唱えてきた。しかも、自立支援法違憲訴訟で国が交わした「基本合意文書」を遵守し、障害者制度改革推進会議・総合福祉部会の「骨格提言」を実現する立場に立つならば、障害程度区分の障害支援区分への制度変更は受け入れられる政策選択とはいえない。
こうした前提のうえで、きょうされんとしての見解を表明する。
1.基本的な立場と見解
自立支援法違憲訴訟団と国(厚生労働省)は、2010年1月7日に、「速やかに応益負担(定率負担)制度を廃止し、遅くとも平成25年(2013年)8月までに、障害者自立支援法を廃止し新たな総合的な福祉法制を実施」することと、「新たな福祉制度の構築に当たっては、現行の介護保険制度との統合を前提とはせず」に、検討・対応することを明記した「基本合意文書」を交わした。また、この「基本合意文書」にもとづいて全国14の地方裁判所で争われていた自立支援法訴訟は和解した。
さらに「基本合意文書」を出発点に、国連・障害者権利条約の批准を目標とした障害者制度改革推進会議・総合福祉部会は、2011年8月に、自立支援法廃止後の新法案策定のための「骨格提言」を発表し、障害程度区分の廃止とともに、「協議・調整モデル」を提案した。
しかし政府は、自立支援法を廃止せずに、名称変更と部分的な修正によって総合支援法を制定した。障害支援区分への変更も、その枠組みで行なわれたものである。
「きょうされん」は、「基本合意文書」の遵守と、「骨格提言」の「協議・調整モデル」の実現を方針としているため、障害支援区分への変更は、「基本合意文書」とそれにもとづく訴訟和解から乖離する制度改変であるという批判的立場を表明せざるを得ない。
2.障害支援区分案にみる問題点
前述した「きょうされん」の基本方針と批判的立場を前提としつつ、提案されている障害支援区分案について、現段階で把握できる問題点を指摘する。
(1)2009年版要介護認定に接近した障害支援区分案
障害支援区分案の調査項目は、106項目の障害程度区分から、新たな項目の追加とともに統合・削除を経て80項目にされた。これだけをみると、調査項目が大きく変更されたようにみえるが、 むしろ2009年版の要介護認定74項目に類似した傾向を帯びたといえる。
たとえば2009年版要介護認定の「身体機能と起居動作」の項目群には、20の調査項目がある。それに対して障害支援区分では、「麻痺と拘縮」は医師の意見書から反映させることになったが調査項目は同様のままとすると、それに「起居動作」と「視聴覚」の調査項目群を含めると20項目となる。また要介護認定の「生活機能」の12項目に対して、障害支援区分の「生活機能Ⅰ、Ⅱ」は計11項目である。要介護認定の「精神・行動障害」の15項目と、障害支援区分の「行動上の障害(A群)」は、一部異なるが8割同一項目である。
要介護認定は、2000年の介護保険制度創設時に85項目だったものが、2003年に79項目、2006年に82項目、2009年に74項目に変更されてきた。自立支援法の障害程度区分は2003年版の要介護認定の79項目をもとに策定された。
つまり、障害支援区分の調査項目は、2003年版の要介護認定79項目をもとにした106項目の障害程度区分を見直したというよりも、2009年版の要介護認定の74項目をもとに策定されたと推測される。
(2)判定・審査のプロセスへの危惧
障害支援区分は、「心身の状態を総合的に示す」と定めた障害程度区分から、「障害の多様な特性その他心身の状態に応じて必要とされる標準的な支援の度合を総合的に示す」ことを定義づけたことに、変更の特徴点があるといわれている。しかし、コンピュータ判定によって、障害に伴う日常・社会生活の困難への支援の必要度を判定することができるのだろうか。
障害程度区分は、もっぱら身体と認知機能の低下度を測定する79項目の要介護認定をもとに策定し、要介護認定判定式のコンピュータソフトだったため、106項目のすべてをコンピュータ判定できなかった。
これまでは要介護認定79項目をコンピュータで判定し、その結果にIADLの7項目を反映させ、第一次の程度区分を判定した(障害程度区分1以上の場合)。それを認定審査会にかけ、行動障害9項目、その他のC項目群11項目を反映させ、医師の意見書や特記事項を反映させた。つまり、障害に伴う生活・活動の困難さをできるだけ反映させるための制度運用上の保障を確保してきた。
ところが障害支援区分案は、80項目すべてがコンピュータ判定に委ねられる。認定審査会に医師の意見書や特記事項を反映させるとしているが、認定審査会の変更率を引き下げることが目的の一つであるため、コンピュータ判定に重点がおかれることは必至である。「支援の度合を総合的に示す」などと、抽象的な表記にとどまっているのは、そのためであろう。
(3)「行動上の障害」項目の回答選択肢の問題点
これまで回答選択肢が3つから4つだった「起居動作」を含む「身体介助」、「日常生活」、「行動上の障害」の回答選択肢の内容と数が統一される。具体的には、「起居動作」は「できる、見守り支援、部分支援、全面支援」の4つ、「日常生活」は「できる、部分支援、全面支援」の3つ、「行動障害」は「ない、希にある、月に1回、週に1回、ほぼ毎日」の5つになる。こうした回答選択肢の改善によって、「支援の度合」をきめ細かく判定されるようにみえるが、得点をみると、その評価は難しい。
なぜならば、回答選択肢を増やしても得点に差がないのである。
「起居動作」では、座位保持を除く6つの調査項目の統一した回答選択肢は4つだが、「見守り支援」と「部分支援」は同じ得点であるため、コンピュータ判定上は3つの選択肢となる。また「行動上の障害」のA群、C群も「異食行動」以外の23調査項目の統一した回答選択肢は5つだが、「希にある」と「月に1回」が同じ得点で、「週に1回」と「ほぼ毎日」も同じ得点であるため、コンピュータ判定では3つの回答選択肢となってしまう。これでは、聞きとり調査では、回答選択肢を増やし改善したようにみえても、コンピュータ判定の段階では回答選択肢の表記ではなく、得点が反映されてしまうため、その結果5択の選択肢は3択の得点として判定されてしまう。
2009年版の要介護認定の「起居動作」、「日常生活」、「精神・行動障害」の回答選択肢が3つであることが要因にあるのであろうか。
(4)本人もしくは代理人主体と合意手続について
障害程度区分は、本人主体のニーズアセスメントではなかった。調査員による聞き取りをもとにコンピュータ判定を行い、認定審査会を経て一人ひとりの障害程度区分は決定されてきた。しかも決定された障害程度区分によって、利用できる福祉の支援の種別と量が決まってしまう。決められた障害程度区分は、「障害福祉サービス受給者証」として、本人やその代理人の同意を得ることなく、一方的に行政から通知される。2015年には「サービス利用等計画」策定の完全義務化が実施されるが、これも、すでに利用できる福祉の支援の種別と量が確定した後の手続きであり、それはアセスメントとは程遠いしくみである。
要介護認定をもとにした障害程度区分をもとに修正される障害支援区分では、真の意味での本人もしくは代理人主体の合意とアセスメントは不可能である。
(5)危惧される認定審査会の形骸化
106項目のうち79項目がコンピュータ判定の対象とされ、それ以外の項目ならびに意見書や特記事項が認定審査会に反映されてきたからこそ、障害程度区分制度のもとで、必要な支援の種別と量を確保することができた。
しかし、障害支援区分案は、80項目すべてをコンピュータで判定し、意見書と特記事項を認定審査会に反映させるとしているが、どこまで実効性を伴ったものであるか定かではない。介護保険制度の認定審査会の経緯を想定すると、まったく楽観視することはできない。
3.今後の運動課題
「客観性・公平性の確保」の名のもとに厚労省は、頑なに障害程度区分を堅持し、「障害のある人の実態を反映していない」という批判をかわすために、障害支援区分に変更したに過ぎない。要介護認定は「入所施設における介護に要する時間数の測定」をもとに策定され、障害程度区分にそれが持ち込まれた。要介護認定の判定式は用いないとしているが、障害支援区分も「介助・支援に要する時間数の測定」を基本としていることに変わりはない。そこには、「障害のある人の本人らしい地域での暮らしの保障」や「障害のない人と同等の生活や就労の保障」という観点は存在しない。厚労省のいう「客観性・公平性」は、いったい誰に対する客観性・公平性なのだろうか。
総合福祉法案が国会で審議された際、政府は「『骨格提言』は段階的、計画的に実施していく」と答弁を繰り返した。厚労省もこの政府答弁に拘束されることは当然のことである。そのため、総合支援法が自立支援法の延命法にとどまりながらも、附則第3条に「施行後3年の見直し」に9つもの検討課題が盛り込まれたのは、そのためである。
繰り返しになるが、障害程度区分をもとに見直された障害支援区分案は、わたしたちの求めてきた「骨格提言」にもとづく「協議・調整モデル」とは、まったく異なる制度である。「きょうされん」としては、「基本合意文書」と「骨格提言」の完全実現をめざす運動を強力にすすめる決意である。
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qx2013.7.31.pdf
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