事務局長通信

社会福祉法改定の閣議決定に対する声明

内閣総理大臣 安倍 晋三様
厚生労働大臣 塩崎 恭久様

社会福祉法改定の閣議決定に対する声明

2015年4月4日
特定非営利活動法人 日本障害者センター 「社会福祉事業のあり方検討会」

 2015年4月3日、社会福祉法の改正案が閣議決定されました。障害を持つ当事者・家族、社会福祉法人経営者、福祉労働者からなる「社会福祉事業のあり方検討会」は厚生労働大臣等に対して、2014年9月30日・2015年3月9日に意見書を提出し、改革の撤廃、見直しを要求してきました。しかし、政府は社会福祉事業に関わる当事者の声を無視し、社会福祉事業を後退させる改定案を決定しました。今回の社会福祉法人改革・社会福祉法改定は社会福祉事業を後退させるものであり、社会福祉法第61条の公私分離の原則に違反します。さらに、社会福祉事業による報酬や支援のために雇用した人材の他の事業への流用を強要する地域公益活動の法的義務化は憲法第25条の生存権をはじめとする憲法の人権規定、障害者権利条約、子どもの権利条約に抵触する問題を引き起こしかねないため、私たちはこの改革に強く反対します。

 今回の改革は、2013年5月以降、社会福祉法人に対して行われた「いわゆる内部留保」等の偏ったバッシングを受けて、規制改革会議で社会福祉法人改革が閣議決定されたことが契機となっています。さらに、アベノミクス 第三の矢として産業力競争会議においても議論がなされ、日本再興計画の中にも社会福祉事業が位置付けられました。厚生労働省はこれらの議論を受けて、2013年9月~2014年7月に社会福祉法人のあり方等に関する検討会を開催、2014年8月からの社会保障審議会(福祉部会)を経て、2015年2月25日 「社会福祉法人改革について」がまとめられ、本日、閣議決定が行われました。

 この改革が規制改革会議に端を発していることからも明らかなように、社会福祉基礎構造改革にはじまる社会福祉事業の市場化促進と小さな政府の実現(公的責任の放棄)という流れの中にあり、今回の狙いは、社会福祉法人経営に介入し国家に貢献させること、営利企業参入により社会福祉事業のさらなる市場化(質の低下)を促すことにあります。政府がもとめる社会福祉法人の国家貢献とは地域公益活動による社会保障費の支出抑制や課税、またはその両方であり、社会福祉法人がこれらを実施しなくてはならない論拠として「いわゆる内部留保」と社会保障費の自然増による財政圧迫の問題が挙げられてきました。しかし、この改革の論拠となった社会福祉法人の「いわゆる内部留保」は未だに定義が定められていませんし、実際どれだけの法人が「いわゆる内部留保」を持っているか等の公的な調査・実態把握もなされていません。さらに、現在の財政難の原因は社会保障費の自然増ではなく、法人税の引き下げという一部の企業に有利な経済政策のあり方に問題があります。こうしたことから、政府による社会福祉法人へのバッシングと社会保障費による財政圧迫という説明は論拠にかけたものであると言えます。

 社会福祉法人のあり方等に関する検討会では、一部「いわゆる内部留保」をもつ社会福祉法人への対応、非営利の新型法人創設、営利企業とのイコールフッティング等が議論の対象となっていました。しかし、社会保障審議会 福祉部会では社会福祉法人の公益性と非営利性を徹底化し、将来の地域福祉を担う組織とするということに論点がシフトされ、その過程で、利用者のためにならない不健全な経営を行う一部の法人の問題が全体の問題にすり替えられました。この結果、全ての社会福祉法人が、日常生活・社会生活上の支援を必要とするものに対して、既存の制度の対象とならない無料または低額の福祉サービスを提供することの法的義務化、社会福祉法人の本獅ニして従来の社会福祉事業に加え、既存の制度の対象とならないサービス提供を社会福祉法上に明記すること等の改革案が決定されたのです。これは、全ての社会福祉法人に社会福祉制度のセーフティネットを担わせ、社会保障費の支出削減のために社会福祉法人の財源と人材を流用させる仕組みです。社会福祉事業の報酬は、支援を必要とする人たちのために支払われている公金や保険料、支援のために雇用された福祉職員を他の事業に流用することが法律で強要されれば、現在の社会福祉事業が後退することは明らかです。このため、私たちは賛同できません。

 また、この一方で、政府は社会福祉法人と営利企業とのイコールフッティングを進めています。今回の改革では介護保険分野に続き、障害分野における退職金共済への公的助成の廃止が決定されました。次回は保育分野での公的助成の廃止が予定されています。さらに、今回の報酬単価改定では、社会福祉事業の基盤である報酬の本体単価が切り下げられ、障害分野では一定の条件を満たした場合に加算をつける成果方式が導入されました。介護保険分野においても次回の改定で成功加算方式の導入が検討されています。こうした成功加算方式の導入と報酬の本体単価の切り下げは、営利企業では対応できない本来最も支援を必要とする重度の障害を持った人たちへのサービス提供のあり方、社会保障のあり方と相反します。なぜなら、こうした人たちは対応が困難であるだけでなく、成功加算とは無縁だからです。そして、このことは対応困難な人たちへの支援を責務とされた社会福祉法人の経営を圧迫します。その上、非営利組織で働いている職員の身分保障である、退職金共済への公的助成が放棄されれば、社会福祉法人が人材を確保し育成していくことはこれまで以上に困難になり、社会福祉法人の経営は成り立たなくなるでしょう。

 今回の改革は差別化と競争条件の公平化を同時にすすめ、社会福祉法人にのみ負担を課すという矛盾に満ちたものです。この矛盾からも、政府が社会福祉法の改定によって、社会福祉法人の弱体化、社会福祉事業における市場化の促進、営利企業の参入促進を狙っていることは明らかであり、3月11日の経済諮問会議における「『公共サービスの産業化』が経済再生と財政健全化の両立、さらには地方創生にとって重要」という議員からの提言に奇しくも一致しています。現在の人員配置基準と設置基準という最低限の基準でしか規制されない、ほぼルールのない営利企業の参入は、憲法89条 公の財産の支出・利用の規制に違反するだけでなく、財力による支援格差を拡大させ、本来非営利であるべき社会保障を根本から変質させます。

 今回、私たち「社会福祉事業のあり方検討会」は15,121の社会福祉法人にアンケート調査を実施し、2151件の回答を得ました。その回答を見ると、事業種別に関わらず、92.93%の法人が地域公益活動を法律で義務付けることに反対しています。さらに、67.75%の法人が民間企業の参入によって社会福祉事業は量的に拡大しているが、利用者処遇や職員待遇など質的な面で低下していると考えていることが分かりました。このように、今回の改革は社会福祉事業の実態を無視したものです。そして、地域公益活動の法的義務化は社会福祉事業のさらなる質の低下を招き、障害者等の社会的に弱い立場にある人たちの基本的人権が守られなくなると考えます。

 現行の社会福祉法第24条と第26条に規定されるように、社会福祉法人の本獅ヘ社会福祉事業を実施することです。既存の社会福祉サービスも福祉労働者への処遇も不十分で多くの課題が残されているにも関わらず、それ以外の事業に資金・人材を流用し、福祉職員への公的保障を撤廃することは、さらなる社会福祉事業の質の低下と社会的支援を必要とする人たちの生活の困窮化をもたらします。今回の制度改悪は社会福祉事業法人の経営者・職員・サービスを利用する当事者・家族の意に反するものであり、再度、以下の観点から社会福祉法改定に関する見直しと変更を要望します。


■1.国の公的責任を社会福祉法人の責務に転嫁するのではなく、非営利を原則とした質の高い社会福祉事業の実現を求めます。

■2.既存の制度で対応できない課題には公的責任の拡充によって対応すべきです。

■3.社会保障費削減のために、実態と当事者・家族の必要性と願いを無視した法改正は行うべきではありません。

■4.非営利で公益性の高い社会福祉事業に携わっている労働者への保障を拡充すべきです。

■5.非営利で公益性の高い社会福祉事業をぎりぎりで運営している法人に対して補助を拡充すべきです。

■6.仮に民間企業に社会福祉事業への参入を認める場合、これまで以上の規制をかけるべきです。

■7.措置費や保育の委託費等の社会福祉事業による報酬の使途は制限すべきであり、他の事業に対する流用を認めるべきではありません。

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