事務局長通信

社会福祉法人制度改革のための社会福祉法改定案に対する抗議声明

内閣総理大臣 安倍 晋三様
厚生労働大臣 塩崎 恭久様

社会福祉法人制度改革のための社会福祉法改定案に対する抗議声明

2015年4月4日
障害者の生活と権利を守る全国連絡協議会


 私たち障害者・家族は、今回の「すべての社会福祉法人に地域公益活動を義務化」等を行うための「社会福祉法の改定案」に断固反対します。本来、厚生労働省は社会福祉事業を擁護すべき立場にあるはずです。しかしながら、近年、福祉に対する営利企業の参入等で「事業が拡大充実されている」として、グループホームの年間営業利益16.6%(人件費40.6%)などというビジネスモデルを宣伝し、社会福祉事業のさらなる市場化を推進しようとしています。私たちは現在の厚労省の姿勢に唖然とし、憤りを覚えるものです。

 歴史的に見れば、重い障害を持つ人たちへの支援は、親の会の活動、福祉職員と地域住民の協力により実現してきました。かつて重度の障害児は義務教育すら受けることが困難で、仮に入学できたとしても卒業後の行き先は皆無でした。そのため、親たちが任意の作業所を立ち上げることで、子どもたちの行き場を確保してきた経過があります。しかし、無認可のため運営資金は乏しく、バザーや古紙回収などで資金作りをしたり、職員が無償で支えたりして、何とか運営を続けてきました。このように親も職員も必死の思いで活動し、社会福祉法人の法人格を取得、やっと授産施設となったのです。しかし、当時の障害福祉制度の人員配置基準では、重い障害児・者を支えることはできませんでした。そこで、地域の人たちの協力も得て任意の後援会などを作り、自己資金を集めて職員加配を行うことで障害が重く寝たきり等でも、希望すれば通所できる事業所を親たちは実現してきたのです。また、障害当事者も声をあげ、作業所や情報保障のための点字図書館などを、社会福祉法人制度を活用して設立してきた事実も忘れてはなりません。

 ところが、2000年以降、国の社会福祉基礎構造改革で福祉の世界に営利事業所が参入することになり、社会福祉事業の本獅ェ一変してしまいました。営利を追求する事業所では、一対一の対応が必要で、経済的にも困っている重い障害児・者を受け入れることはありません。また、営利企業はいかに利益を生み出すかが目的の組織であるため、採算ベースに乗りやすく、扱いやすい障害児・者、また経済的に裕福な世帯だけを対象とし、福祉を金儲けの手段にしているのが実態です。さらに、比較的障害が軽いと言われる知的・発達障害児・者は、制度で定められる期限が来れば、次の行き場も支援もないままに機械的に地域に投げ出されるといった問題が多数起こっています。そして、こうした障害者は、しばしば刑事事件に巻き込まれることがあることから、今や刑務所が知的障害者の第三の施設とも言われるようになってしまいました。国は地域移行策を進めると言いながら、適切な支援があれば、地域で生活できる障害者を放置しています。国はこうした実態を把握し、問題を理解した上で、営利企業に公金を費やしているのでしょうか。

 また、障害者基本法などで権利保障、差別禁止が強調されていますが、これらも机上の空論になりつつあります。突然、親が病気になったり、亡くなった時等、一対一の対応が必要な在宅の障害者は介護者も住まいも失い、ロングショートという形で短期入所施設を転々とせざるを得ないというのが現状です。さらに、在宅の高齢障害者をより高齢の親が必死で支えなければならない老障介護、災害などの緊急時における支援体制の不備などの問題も考えると、障害児・者の人権が社会的に守られているとは、到底思えません。

 今回の社会福祉法改定案において、福祉職員の退職共済に関する公的補助の廃止が予定されています。今でも不足している職員体制を放置したままで、障害児・者の人権を守ることができるのでしょうか。また、希望すればだれでも通える事業所を立ち上げてきた親の立場からすれば、国が決定する基準単価でどうしたら「余裕財産」を生み出せるのかも分かりません。社会福祉事業でこのような利潤追求を行うには、職員処遇を切り下げる以外の方法は考えられませんし、これは障害児・者への支援の質の低下を招きます。

 本来、利潤追求は公金を前提とする非営利の社会福祉事業とは相いれません、しかし、今回の法改定や報酬改定は、貧困な社会福祉で困窮している障害児・者の実態を放置したまま、営利企業の参入を推進するためのものとなっています。確かに、一部に不正常な運営をしている社会福祉法人が存在することは事実ですが、そうであるならば、法人の正常化を直ちに図るために国や行政が責任をもって指導・監査を徹底して行うべきです。

 社会福祉法人に障害児・者支援のための報酬(公金)と職員を他の事業に流用させる地域公益活動等の法的義務化、営利企業の参入促進等は公的責任の放棄であり、障害児・者への人権侵害をさらに深刻化させることにつながります。国・厚労省が求める生活困窮者等への支援等、既存の制度で対応できない地域課題があるのであれば、国は新たな支援制度を作って対応すべきです。また、営利企業を非営利の社会福祉事業に参入させる必然があるのであれば、配当や資金の流用禁止など、社会福祉法人並みの規制を営利企業にもかけ、公の支配の下におくべきです。

 今回提案されている社会福祉法人制度改革のための社会福祉法改定は、障害児・者の権利保障の真逆の改革であり、私たち障全協は絶対に容認できません。今後、同法案は国会審議され、6月の会期末までに成立をめざすことになりますが、私たちは社会福祉を大きく変質させる社会福祉改悪法案の根本的見直しを求めるとともに、地域公益活動の法的義務化の撤廃を強く求めます。

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