懸賞生活

過去の当選品の記録

アベさん

2008年11月10日 | Weblog
夕方、会社に私宛の電話が入った。

私に直接用事があるとしたら、聞き覚えのない苗字。

「Kです、あの、アベの孫の…ばあちゃんがお世話になりました」

「なりました」過去形です。

それですべてを悟りました。

私が数年前、会社の仕事が辛くて辛くて。

そんな時、私を支え励ましてくれた人がアベさんでした。

当時75歳ぐらいだったのかなぁ。

早くにご主人を亡くされて、以来、働きづめの人生。

お掃除をしたり行商をしたりして…

苦労して子供を育て上げ、生計を立てて来たようです。

いろいろやってきて、小学校の用務員として働いて60歳で退職。

アベさんの仕事ぶりは評判がよくて、流れ流れて…

うちの会社でお掃除してくれることになったわけ。

生粋の筋金入りの職業婦人。

私がアベさんのいる部署に配属になる前に…

もう70になるから、辞めたい。

もう71になるから、辞めたい。

もう72になるから、辞めたい。

そう言うのを歴代の担当が引き留めてきた、それぐらいの丁寧な仕事ぶり。

70過ぎてプロの仕事人に比べたら…

私なんかまだ、就職してすぐのひよっこですからね。

ぶっちゃけお掃除のおばちゃんですから、私の仕事の内容はわからなかったでしょうが…

アベさんが積み重ねてきた年月にはかないません。

たくさん励ましてもらって、たくさん慰めてくれて…

一時は退職を考えた私ですが、今でもこうして仕事を続けていられるのです。

なにもかも、アベさんのおかげ。



アベさんは数年前に退職してしまったけれど…

最近アベさんのお孫さんと、ちょっとしたきっかけで仲良くなりました。

アベさんのひ孫も私になついてくれていて。

会えばアベさんの話。

ちょっと体調を崩したけど、元気にしています。

そうずっといっていたKさんは、私の中のアベさんのイメージを壊そうとしませんでした。

心配かけないようにという配慮だったと、電話で詫びられました。

自転車で中学生を追い越す猛スピードで爆走できるおばあちゃん。

そんな元気なアベさんのイメージのまま、アベさんは天国に行きました。

お見舞いぐらい行きたかったな…

今年の新米が取れたときに、持っていけばよかったな…

今はそれもかなわぬこと。

実は去年からずっと入院していたんだそうです。

今朝、旅立たれたと。

アベさん、天国でもチャリンコ使うかもしれないからと…

チャリを前傾姿勢でペダルを踏んで、お空に昇る姿が思い浮かびます。


しだれ桜を見ると、必ずアベさんを思い出します。

私は辛いことがあると、アベさんのお掃除のお手伝いをしました。

アベさんは、私の痛みを和らげてくれる人でした。

懐の大きい女性でした。

会社にはしだれ桜が一本あるんです。

今年も会社のしだれ桜の枝も、紅葉を迎え、もうすぐ散り始めるでしょう。

秋は、しだれ桜の枝をみて「あとあれだけ仕事が残っているねぇ」と…

はらはらと舞い降りる葉っぱを掃きながら二人で眺めました。

春は、しだれ桜の花をみて「あとあれだけ仕事が残っているねぇ」と…

はらはらと舞い降りる華吹雪を掃きながら二人で眺めました。

会社には、しだれ桜とアベさんの思い出がいっぱい詰まっています。

アベさん、たくさんたくさんありがとう。

大好きだよ。



「結婚前は両目を開いて。結婚後は片目をつむって。」

おちゃめなアベさんが、私に教えてくれた結婚への格言です。

先日の知人へのメッセージカードに書いたばかりでの、アベさんの訃報でした。



アベさん、天国はゴミもないし、掃除する必要ないかもしれないけど…

万が一、ゴミが落ちてたら片づけてちょうだいね。

アベさんの仕事は超一流だから、天国でも喜ばれると思うよ。

アベさん、アベさん…

あなたを尊敬してやみません。