2月18日の「Do not Fly me to the Moon.」をお読みいただいた学生の方から、質問をいただいた、彼は宇宙開発関係の仕事への就職を目指しているらしい。
質問の趣旨は、「より広い視点からすると宇宙開発は不必要なものであり、もっと他に力を入れるべきことがあるのでしょうか」というものだった。以下は、僕の返信である。
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
僕も中学生ぐらいまでは、飛行機かロケット関係の仕事をしたいと考えていました。佐貫亦男氏が書いたフォン=ブラウンの評伝『宇宙への野望』(ダイヤモンド社1978年刊)は、愛読書でした。ただ、ある時期から自分自身の仕事として「航空宇宙」に係わることに疑問を感じ始めました。
僕らが高校生のときは、まだ冷戦というものがあり、宇宙開発は不可避的に軍事と結びついていた時代でした。自分が関わった技術や製品が兵器になり人を殺すかも知れない。そう思うと、科学技術にかかわることに対して前向きになれなかったのです。
フォン=ブラウンは、ヒトラーに取入り、V2号を造りました。そのV2号は数千人のロンドン市民を殺しましたが、フォン=ブラウンにとっては「夢の実現」のためのワン・ステップでしかありませんでした。
ドイツが崩壊する寸前には、ためらいなく祖国を捨ててアメリカに投降しました。そして、冷戦下の米国世論を利用してケネディをたぶらかし(笑)アポロ計画を実現します。
それでも、フォン=ブラウンとしては、「自分」が「火星」に行けないことに対して、不満を持っていたとも言われています。
そこまでの情熱(あるいは狂気)を持つことは、僕には出来ないことだと想いました。そして、天上に目を向けるよりは、むしろ、地上で起きている出来事や、自分の心の内にあるものに関心を寄せるべきではないかと考えました。
「蚊」の生態の研究されている方とお会いしたことがあります。蚊の研究なんて些細な問題と想われるかも知れませんが、アフリカでは毎年150万人の子供がマラリアで死んでいるそうです。蚊の研究は、そうした感染の拡大予防に役立つものだそうです。
WHO(世界保健機構)が、マラリアなどの感染症制圧のための基金の創設を呼びかけたことがありました。EUが2億ドル、米国と日本が各々1億ドルを拠出しました。1億ドルといえば大金のように感じられますが、戦闘機でいえば2機程度の価格です。
人類は、口で言うほどには「人命」を尊重していないという現実があります。
貧困や飢餓の解消、自然保護、災害や感染症の予防などのために、日本人による宇宙開発や航空技術ができる貢献は、色々とあると想います。
また、税金の無駄遣いということでは、地上での非合理的な政策をやめればよいのだと想っています。
だから、一般論として言えば、日本の政府なり企業なりが航空宇宙方面に投資することは、必要なことであり意義のあることだと考えています。
今でも星を観ることは好きですし、打ち上げのライブを観にいくくらいですから、飛行機やロケットにも興味を持ち続けています。
そして、今でもフォン=ブラウンを「20世紀最大の天才」として尊敬しています。
しかし、月や火星への有人探査や日本人自身による有人衛星の打上げについては、それが「かなえられるべき夢」であるのかどうか、今の僕は懐疑的です。
航空宇宙関係を志望される若い方に言いたいことがあるとすれば、技術屋さんだからと言って専門の殻に閉じこもらずに、広く地上で起きていることに目を向けて欲しいということでしょうか。そして、自分自身の頭で色々な問題について考えて欲しいと思います。
(もちろん、それが非常に大変なことであることは、解っていますが。)
技術者がそうゆう心を持って取り組んでくれれば、一般の人々も、宇宙開発への投資を「無駄」だとは言わないでしょう。
偉そうに長々とオヤジの繰り言を記してしまい失礼いたしました。
質問の趣旨は、「より広い視点からすると宇宙開発は不必要なものであり、もっと他に力を入れるべきことがあるのでしょうか」というものだった。以下は、僕の返信である。
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僕も中学生ぐらいまでは、飛行機かロケット関係の仕事をしたいと考えていました。佐貫亦男氏が書いたフォン=ブラウンの評伝『宇宙への野望』(ダイヤモンド社1978年刊)は、愛読書でした。ただ、ある時期から自分自身の仕事として「航空宇宙」に係わることに疑問を感じ始めました。
僕らが高校生のときは、まだ冷戦というものがあり、宇宙開発は不可避的に軍事と結びついていた時代でした。自分が関わった技術や製品が兵器になり人を殺すかも知れない。そう思うと、科学技術にかかわることに対して前向きになれなかったのです。
フォン=ブラウンは、ヒトラーに取入り、V2号を造りました。そのV2号は数千人のロンドン市民を殺しましたが、フォン=ブラウンにとっては「夢の実現」のためのワン・ステップでしかありませんでした。
ドイツが崩壊する寸前には、ためらいなく祖国を捨ててアメリカに投降しました。そして、冷戦下の米国世論を利用してケネディをたぶらかし(笑)アポロ計画を実現します。
それでも、フォン=ブラウンとしては、「自分」が「火星」に行けないことに対して、不満を持っていたとも言われています。
そこまでの情熱(あるいは狂気)を持つことは、僕には出来ないことだと想いました。そして、天上に目を向けるよりは、むしろ、地上で起きている出来事や、自分の心の内にあるものに関心を寄せるべきではないかと考えました。
「蚊」の生態の研究されている方とお会いしたことがあります。蚊の研究なんて些細な問題と想われるかも知れませんが、アフリカでは毎年150万人の子供がマラリアで死んでいるそうです。蚊の研究は、そうした感染の拡大予防に役立つものだそうです。
WHO(世界保健機構)が、マラリアなどの感染症制圧のための基金の創設を呼びかけたことがありました。EUが2億ドル、米国と日本が各々1億ドルを拠出しました。1億ドルといえば大金のように感じられますが、戦闘機でいえば2機程度の価格です。
人類は、口で言うほどには「人命」を尊重していないという現実があります。
貧困や飢餓の解消、自然保護、災害や感染症の予防などのために、日本人による宇宙開発や航空技術ができる貢献は、色々とあると想います。
また、税金の無駄遣いということでは、地上での非合理的な政策をやめればよいのだと想っています。
だから、一般論として言えば、日本の政府なり企業なりが航空宇宙方面に投資することは、必要なことであり意義のあることだと考えています。
今でも星を観ることは好きですし、打ち上げのライブを観にいくくらいですから、飛行機やロケットにも興味を持ち続けています。
そして、今でもフォン=ブラウンを「20世紀最大の天才」として尊敬しています。
しかし、月や火星への有人探査や日本人自身による有人衛星の打上げについては、それが「かなえられるべき夢」であるのかどうか、今の僕は懐疑的です。
航空宇宙関係を志望される若い方に言いたいことがあるとすれば、技術屋さんだからと言って専門の殻に閉じこもらずに、広く地上で起きていることに目を向けて欲しいということでしょうか。そして、自分自身の頭で色々な問題について考えて欲しいと思います。
(もちろん、それが非常に大変なことであることは、解っていますが。)
技術者がそうゆう心を持って取り組んでくれれば、一般の人々も、宇宙開発への投資を「無駄」だとは言わないでしょう。
偉そうに長々とオヤジの繰り言を記してしまい失礼いたしました。