第八章 その弐
秋の彼岸お中日。
勢揃いという話だったが、魁(かい)はいなかった。
ヨリは、もうすぐ帰ってくると言うが、こういうところでも約束という言葉は存在しないのかと思う。
祖母も外出許可が出たら一時帰宅するというが、まだ連絡はない。
お客様然として歓迎されるとは思っていない。特に今回はお金の話が待っていることが分かっているから。
それにしても、こんな雰囲気だったろうか。月斗(つきと)は、改めてそれぞれの大人たちを観察して、驚きを隠せなかった。
祖父は居間のいつもの場所にいた。座卓の長い辺に座椅子を置いて、床の間を背に座る。
少しだけ麻痺が残ったものの、見ている限りは以前と変わらないように感じた。もともとは口数の少ない人だった。反して今は、一人で話し続けている。
聞き取り難い話から、京音(けいと)が上手く拾って相槌を打つ。
叔母さんは二階から下りてこない。話すには上がらないと駄目ってことだろうか。清夜(せいや)が帰ってきたというのに、そんなものだろうか。
こういう場にいて、初めて思う。清夜との間には明確な壁がある。これまで感じなかったのは、月斗自身が子供の目でしか見ていなかったからだろう。
あいつの立場は、ここでも居候なんだろうか。
仏壇は二階になる。
一度、みんなで上がることにし、墓参はその後だ。
上がっていくと、当然、清夜はただいまを言うものだと思っていた。だが、あいつは何も言わず、叔母さんがお帰りと声をかけてきた。
「こんにちは」
先に立っていた京音が挨拶をし、清夜もその声に反応するように、ただいまと答えた。
祖父を除く全員が二階に上がったところで、病院から連絡があり、祖母の許可が下りたというので迎えに行くことになった。
「じゃあ、俺が行くよ」
父が言って立ち上がる。男手があった方がいいだろうからと京音も立ち、母を含め三人で出かけていった。
残ったのは叔母と清夜と自分。
叔母は月斗の存在を認識していないように、清夜に話を始める。やはり、お金のことだった――。
大学に行くことを止めはしないが、奨学金を受けてくれと言う。
そして国公立にして欲しいという話だった。
母のいない場で余計なことは言えない。しかし保険金の話は自分と清夜に関することだ。聞いても問題はないだろう。
「叔母さん。僕らの両親の保険金はどうなったんですか」
言ったら、叔母の表情が変わった。
「知らない」
「えっ?」
月斗だけでなく、清夜も言葉を失った。
「ちょっと待って下さい。知らないってどういうことですか」
「使っちゃったんじゃないかな」
叔母は、いつもの軽い口調でとんでもないことを言った。
使ったって、二千万だぞ。
うちには、まだ半分が手つかずにあるというのに……
頭に血が上った。
「何に使ったんですか」
考えるよりも先に口をついて出てしまった。しかし、叔母もそのまま売り言葉に買い言葉という感じで返してきた。
「知らないって言ってるでしょ」
と。
今度こそ清夜が、ぶち切れた。
「俺の金だろ。何だよ、それ!」
秋の彼岸お中日。
勢揃いという話だったが、魁(かい)はいなかった。
ヨリは、もうすぐ帰ってくると言うが、こういうところでも約束という言葉は存在しないのかと思う。
祖母も外出許可が出たら一時帰宅するというが、まだ連絡はない。
お客様然として歓迎されるとは思っていない。特に今回はお金の話が待っていることが分かっているから。
それにしても、こんな雰囲気だったろうか。月斗(つきと)は、改めてそれぞれの大人たちを観察して、驚きを隠せなかった。
祖父は居間のいつもの場所にいた。座卓の長い辺に座椅子を置いて、床の間を背に座る。
少しだけ麻痺が残ったものの、見ている限りは以前と変わらないように感じた。もともとは口数の少ない人だった。反して今は、一人で話し続けている。
聞き取り難い話から、京音(けいと)が上手く拾って相槌を打つ。
叔母さんは二階から下りてこない。話すには上がらないと駄目ってことだろうか。清夜(せいや)が帰ってきたというのに、そんなものだろうか。
こういう場にいて、初めて思う。清夜との間には明確な壁がある。これまで感じなかったのは、月斗自身が子供の目でしか見ていなかったからだろう。
あいつの立場は、ここでも居候なんだろうか。
仏壇は二階になる。
一度、みんなで上がることにし、墓参はその後だ。
上がっていくと、当然、清夜はただいまを言うものだと思っていた。だが、あいつは何も言わず、叔母さんがお帰りと声をかけてきた。
「こんにちは」
先に立っていた京音が挨拶をし、清夜もその声に反応するように、ただいまと答えた。
祖父を除く全員が二階に上がったところで、病院から連絡があり、祖母の許可が下りたというので迎えに行くことになった。
「じゃあ、俺が行くよ」
父が言って立ち上がる。男手があった方がいいだろうからと京音も立ち、母を含め三人で出かけていった。
残ったのは叔母と清夜と自分。
叔母は月斗の存在を認識していないように、清夜に話を始める。やはり、お金のことだった――。
大学に行くことを止めはしないが、奨学金を受けてくれと言う。
そして国公立にして欲しいという話だった。
母のいない場で余計なことは言えない。しかし保険金の話は自分と清夜に関することだ。聞いても問題はないだろう。
「叔母さん。僕らの両親の保険金はどうなったんですか」
言ったら、叔母の表情が変わった。
「知らない」
「えっ?」
月斗だけでなく、清夜も言葉を失った。
「ちょっと待って下さい。知らないってどういうことですか」
「使っちゃったんじゃないかな」
叔母は、いつもの軽い口調でとんでもないことを言った。
使ったって、二千万だぞ。
うちには、まだ半分が手つかずにあるというのに……
頭に血が上った。
「何に使ったんですか」
考えるよりも先に口をついて出てしまった。しかし、叔母もそのまま売り言葉に買い言葉という感じで返してきた。
「知らないって言ってるでしょ」
と。
今度こそ清夜が、ぶち切れた。
「俺の金だろ。何だよ、それ!」
To be continued. 著作:紫 草